救援物資 〜街を守る兵士視点〜
(街を守る兵士視点)
「おい! 出せ! いいから出せよ!!」
「このままじゃ、どっちにしたって餓死だ!」
「食糧が来ないなら自分らで狩ってくるしかないだろ!」
「いいから出せ!!」
「駄目だ!! 下がれ!!」
「商隊が遅れてるのはそれだけ危険だってことだ! 街を出る許可は出せん!!」
街門に押しかける住民を必死に説得するも、彼らも全く引く気配を見せない。
まぁ、当然だ。
この街の食糧事情は、それだけ逼迫しているのだから…
以前は数日おきにやって来ていた領主様の商隊が来なくなり、もう既に10日以上が経っている。
備蓄されていた食料も底をつきかけ、食料を扱う商店も軒並み店を閉めている。
領主様からの僅かな配給で何とか暴動が起きるのは抑えているが、それももう時間の問題だろう。
(なぜ、こうなった…)
昔から交易で栄えるザパド領は、魔法王国の中で最も豊かで、街には物が絶えない土地柄だったのに…
そりゃぁ、お貴族様は横暴だし、他領と比べて税も高い。
浮浪者もそれなりにいたし、治安の悪い場所もあった。
だから、全く問題が無かったとは言わない。
街の治安を守る兵士の一人として、俺にもそれなりに思うところはあった。
それでも、こんなんじゃなかったんだ!
街門から続く大通りに人の往来は消え、立ち並ぶ商店はみな扉を閉ざしている。
かつての賑わいは、見る陰もない。
数年前くらいからか…
商売とは無縁の俺の目から見ても、明らかに街の商取引が減り始めて…
街にどんどん活気が無くなっていくのを感じた。
噂では、ザパド侯爵様に無礼を働いた魔力の少ない娘が、親の権威を笠に着てザパド領に嫌がらせをしているとか…
その娘というのが、新しくセーバの街の領主になったアメリア公爵だという。
ディビッド王兄殿下とアリッサ様の娘さんが原因だって?
ハッ、誰が信じるかよ!
ディビッド殿下とアリッサ様の身分を越えた恋。
お貴族様の間では醜聞扱いの話も、俺たち平民の間ではかなり好意的に受け取られている。
だから、お二人の間に生まれた子供が、庶民並の魔力しか持たないという噂も、俺たちの間では侮蔑よりも同情の方が圧倒的に大きかった。
ザパド領は他領と比べても魔力量による差別の酷い土地柄だったから、普段魔力量により虐げられている側の俺たち平民は、どうしてもアメリア公爵の方に味方しちまう。
大体、この噂はおかしい。
アメリア公爵がザパド侯爵に無礼を働いた?
いや、“公爵”の方が“侯爵”より上だろう!?
どうせ、あの魔力至上主義のザパド侯爵のことだ。
魔力量がどうのってケチをつけて、アメリア公爵を怒らせたに決まっている。
その結果がこの惨状なら、悪いのはザパド侯爵だろう。
勿論、本当にセーバの街のせいでザパド領が傾いたのなら、多少恨みに思う気持ちがないこともない。
実際、恨んでいた時もあった。
でも、それも最初の頃だけ。
ウィスキー、給湯器、水道設備、冷凍庫、それに鉄道…
次々に発表されるセーバの街の商品を見るだけでも、どちらの領地が魅力的かは明らかで…
聞いた話では、セーバの街は治安も良く、セーバ領の街道はよく整備されており商人も行き来しやすいと評判らしい…
ザパド領は商人の領地だ。
良いものは売れるし、悪いものは売れない。
お貴族様は魔力がとか、血筋がとか言うが、平民は違う。
良くも悪くも実力主義だ。
そんな土地柄だから、みなシビアにザパド領とセーバ領のやり方を比較して、素直に現状を受け入れた。
受け入れた上で、現状の打破を考えて…
いち早くザパド領に見切りをつけた商人たちは良かった。
だが、その決断が遅かった者は…
2年ほど前、突然領主様が許可の無い者の街の出入りを禁止した。
理由は、街の外が危険だからだと言う。
実際、忠告を無視して強引に街の外に出た者が、酷い惨状で戻ってきたり、そのまま行方不明になったりした。
街の外との行き来は領主軍に守られた領主様の商隊だけとなり、俺たちの生活は完全にその商隊に依存したものとなった…
良い商品も悪い商品もない。
高いも安いもない。
与えられた物を決められた金額で買い、決められた仕事をする毎日。
ザパド領商人の自主独立の気風は、完全に失われた。
ただ飼い慣らされるままの日々…
それでも、普通に生活できているうちは良かった。
ただ指示に従ってさえいれば、生活は保証される。
奴隷根性と言えなくもないが、流石にお貴族様に逆らってまでどうこうしようとは思わなかった。
ちゃんと喰っていけるうちは…
およそ一月ほど前から徐々に減り始めた領主様の商隊の定期便は、もうこの10日ほど全くやって来ない。
住民の不安は最高潮に達し、数日前から外に出せと街門に押しかける住民がぐっと増えた。
もういつ暴動が起きてもおかしくない。
はっきり言って、限界だ。
このまま商隊が来ることもなく、街の外にも出られなければ…
みながそんな不安に押し潰されそうになっている。
そんな中で、唐突に広まり出した噂…
『セーバの街に留学中のソフィア様が、アメリア公爵に頼んで救援物資を手配してくれたらしい』
今では商隊すらも来ず、完全に外部と遮断されてしまっている状況で、そんな都合の良い情報が伝わるわけがない。
恐らくは、誰かが言い出した希望的観測。
幼い頃はお忍びで平民の住む下町にもよくいらっしゃっていたソフィア様は、父親のザパド侯爵と違って平民にも人気がある。
今は商売の邪魔をするだけの貴族も、ソフィア様の代になれば多少は良くなるのでは?
そんな風に思っている商人たちも少なくはない。
アメリア公爵が平民を優遇する政策を取っているという話も有名だから、そんなお二人ならこの窮状を何とかして下さるのではという話になるのも理解できる。
今いる領主に期待できない以上、ここにいない人間に頼る他ないのだから…
まぁ、それだけ皆が追い詰められているってことだが…
「「「「「ぅおおおおお〜〜〜!!!」」」」」
「物資が届いたぞ!!」
「救援物資だ! 救援物資が着いたぞ!!」
街門を守る兵士達の方から歓喜の声が響く。
やっと来たか…
何とか手遅れにならずに済んだか…
安心する私の耳に、予想外の言葉が飛び込んでくる。
「ソフィア様だ! ソフィア侯爵様が直々に救援物資を届けて下さったぞ!!」
開かれた街門の向こうには、見たことのないデザインの大型の馬車がずらっと並んでいる。
一部の馬車に取り付けられた旗の紋章は、“アメリア商会”、“ザパド侯爵家”。
(噂は、本当だったのか!?)
本当にソフィア様が、敵対しているはずのアメリア公爵に話を通し、俺たちの街を救いに来て下さった。
俺たちは、救われたのだ!
こうしちゃいられない。
俺も兵士として、急いでソフィア様をお出迎えする列に並ばなくては!
先程ワクチン接種2回目行ってきました。
経過観察中に見事に気分が悪くなり、別室で寝てきました…
何となく、そんな気もしてましたが…
今は落ち着きましたが、多分明日くらいからしばらく死にます。
というわけで、申し訳ありませんが次回更新は木曜日になると思います。
スミマセン。
m(._.)m




