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【書籍発売中】転生幼女は教育したい! 〜前世の知識で、異世界の社会常識を変えることにしました〜  作者: Ryoko
第4章 アメリア、ダルーガ伯爵の野望を打砕く

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潜入工作 〜セーバ諜報員(傭兵)視点〜

 ザパド領内のとある中堅都市。

 とても活気があるとは言えない、そんな酒場の風景。


「はぁ〜、こんなんじゃちっとも腹が膨れないよ…」


「文句を言うな! 肉も野菜も高いんだ。仕方無いだろ!」


「でもよぉ、最近ひどくないか?」


「あぁ、なんでも食糧を運んでくる商隊の到着が遅れているらしい。噂では魔物だか盗賊だかに襲われたとか…」


「マジかよ!? それ、ヤバいじゃん! どうすんだよ!?」


「どうするも何も、本気でまずくなったら領軍を組織して、近くの町にでも食糧調達に行かせるだろう」


「いや、もう既に不味いだろ! 大体、なんで街から出られないんだ?

 領主様の許可のない者は街の外に出られないって、おかしいだろ!?」


「だから! 街の外は危険なんだ!

 ここ数年の治安の悪化で、街の外には盗賊が溢れているらしい…

 街道に出る魔物の数も増えているそうだ…

 領主様の認可を受けた商隊には、ただの兵士だけでなく騎士爵以上の魔術師が複数護衛についているんだ。

 それでも、今回のような事は起こる…

 自己責任だなんだと管理を甘くして、現状に不満を持つだけでその危険性を分かっていない奴らが、飢えに駆られて大挙して街を出ていけばどうなる?

 最悪、全員死ぬぞ!」


「いや、それは… 出ていく奴も護衛なり武器なり用意するだろうし…

 流石に全滅ってのは大袈裟じゃないか?」


「……俺は一昨年まで、仲間たちと冒険者をやっていた。

 メンバー全員が上級冒険者だった…

 領主や冒険者ギルドの注意勧告も聞かず街の外に出て…

 気がついた時には俺だけが偶々通りかかった領主の商隊に保護されていた。

 何が起きたかは分からん…

 あれが魔物なのか盗賊なのか…

 突然周囲が妙な霧のようなものに包まれて、気がついた時には意識を失っていた…

 俺は偶々助かったが、仲間たちは全員死んだよ…」


 いつの間にか静まりかえっていた酒場の隅で、一人黙って酒を飲んでいた男がふと呟く…


「それ、本当に魔物か盗賊なのか?」


 影の薄い男だ。

 今まで、誰もその男の存在を気にしてはいなかった。

 だが、そんな男が絶妙な間で呟いた言葉は、酒場の男たちの注意を引きつける。


「お前は、その魔物だか盗賊だかに仲間が殺されるところを、確かに見たのか?」


「いや、それは、、 だが!」


「商隊の者がそう言っていた?」


 まさに言おうとしていた言葉を先んじて言われ、仲間を殺されたという男は口を閉ざす。


「仲間は全員殺されたのに、なぜお前だけ助かった?」


「それは、偶々…」


「商隊の連中は敵を倒したのか?」


「いや、逃げられたと…」


「敵の正体は? 攻撃手段は?

 領主の商隊の連中は、どうやって敵の攻撃を防いだんだ?

 上級冒険者ばかりのパーティーを瞬殺できるような相手に、何も分からずどうやって対応した?」


「…あの時は頭がぼぉっとしていて、詳しいことは聞けなかったが…」


「お前が偶々聞かなかっただけだと?

 まぁ、それもあるかもしれん…

 なら、今度冒険者ギルドで確認してみよう。

 これだけ危険視されている敵の情報だ。領主お抱えの商隊が知っているなら、領主や冒険者ギルドは、民の安全のために、必ず情報を公開しているはずだ」


 その言葉に、そんな情報など公開されていない事を知る冒険者の客の数人が、黙って考え込む。


「こんな噂がある…

 領主が、毒の霧の魔道具を使って民を街に閉じ込めていると…」


「「「なっ!?」」」

「いや、おかしいだろ!? 領主に何のメリットがある!?」

「…領主の商隊は儲かるんじゃないか?」

「街の生産物は他に売れないからと領主が安く買い上げて、外からの物は値を吊り上げれば…」

「…それ、長い目で見れば街全体の税収が減って却って困るんじゃ…」

「…そういう難しいのはいいんだよ! 商隊が儲けてるのは間違いないんだ!」

「クソッ、すぐに街を出るぞ!」

「バカ、早まるなッ! 街の外が危険だってのに変わりはないんだ!」

「…これが本当に領主の指示なら、最悪領主軍を相手に戦うことになるな…」

「じゃあ、どうすんだよ!?」

「それは…」

「「「〜〜〜〜〜」」」


 酒場の喧騒を背に、領主の噂を囁いた男は、誰にも気付かれることなく酒場を後にした。



(セーバ諜報員視点)


「はい、こちらは順調です。程よく噂が広まり出しています」


『ーーーーーーー』


「………了解です。暴動にならない程度には抑えますので」


『ーーーーーーーーー』


「……いえ、問題ありません。この通話の魔道具のお陰で、街の中にいながら外の情報が手に入りますので…」


『ーーーーーー』


「……?……ソフィア侯爵の噂を?

 ………はい………はい……

 あぁ、そういうことですか。了解です」


『ーーーー』


「はっ、引き続き任務続行します」


 街の外にいるはずの上官との通話を終えた男、セーバの街の諜報員となった傭兵は、手元の“携帯”を黙って見つめる。


(とんでもないな… うちの雇い主様は…)


 新たに長期雇用契約を結んだセーバの街の領主、アメリア公爵。

 その雇用主が開発したという魔道具は、相手の魔力を事前に籠めた魔石をはめ込むことで、離れた場所からでもその相手と自由に会話をすることができる。

 単体でも、城壁を隔てた街の内と外くらいなら問題なく通話が可能。

 しかも、“中継器”という魔力を増幅する魔道具を途中に設置しておけば、馬車で数日は離れた場所との通話すら可能だという…

 お陰で、今回の潜入工作は恐ろしく楽だ。

 なにせ、街の外に全く出ることなく、タイムリーに外の正確な情報が入ってくるのだ。

 噂を流した後に、その情報を裏付けるような結果が後から伝わってくるのだ。

 常に相手に先んじて印象操作ができるのだから、起こった事をこちらに都合よく解釈させるなど造作もない。

 敵に回ればこれほど恐ろしい相手もいないが、味方であればこれ程頼もしい雇用主もいまい。

 精々、クビにならぬよう良い仕事をさせてもらおう。


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