僕の先生 〜アルフレッド視点〜
(アルフレッド視点)
僕の名はアルフレッド。
ユーグ領にある小さな漁港、、だった街を治めるしがない代官の息子だ。
その街の名はトッピーク。
王国南東部唯一の港街として、交易と水産業で栄えている。
元々ユーグ侯爵様の別荘がある以外に、特に目立ったところもない漁港だったのに…
今や王国南部に広く海産物を提供する水産資源の一大供給地。
街にはセーバや他国からの交易品が飛び交い、それを目当てに多くの商人や観光客も集まっている。
それもこれも、全てはアメリア様のお陰なんだけどね…
アメリア様が発明した冷凍庫のお陰で、それまでは近隣で消費するしかなかった魚介類を、ユーグ領やボストク領の隅々にまで供給できるようになった。
同じくアメリア様が発明した魔道エンジン付きの漁船のお陰で、漁獲量も大幅に増えた。
最近では、ボストク、トッピーク、王都を結ぶ鉄道工事も始まっている…
王国南部で、今最も発展してきている街。
それがトッピークだ。
そんな美味しい街、あっという間に周囲の有力貴族に取り込まれそうだけど…
平凡な下級貴族に過ぎない父さんだけど、運は良かったらしい…
ユーグ侯爵家の別荘があるせいで、昔からユーグ侯爵とも多少の縁があったこと。
そして、息子であるこの僕が、どういう訳か、多分だけど、レジーナ先生に気に入られたこと…
レジーナ先生が将来のトッピークの代官は僕がいいと判断したことで、それ以外の貴族の干渉は完全にシャットアウトされたらしい…
こんな僕のどこを見て見どころがあると判断したのかは謎だけど…
とにかく、臨時で1ヶ月の家庭教師をしてくれたレジーナ先生は、僕にトッピークの街を任せることを決めたらしい…
『王国南部とセーバの街を海で繋ぐトッピークの代官には、それなりの人がなってもらわないと困りますから』
父さんは今後のことも考えて、王国貴族として恥をかかないよう人並みの教育をと考えていたみたいだけど…
あれは、決して“人並み”なんかじゃないから!
当時は僕も、他所の家の貴族なんてユーグ侯爵様の御一家くらいしか知らなくて…
『このくらいは平民でもできて当然。領主であるアメリア公爵様はもっと凄い』
そんな言葉を聞かされて、街を統治するならこのくらいできなきゃ駄目なのかって、素直に信じてたよ…
それ、全然王国貴族の常識じゃないから!
あんなの、セーバの街だけだから!!
その事に気付いたのは、この王都の学院に入学してから…
学院の授業を、既に知っている?
この程度の課題、貴族の学校ならできて当たり前だよねぇ…?
それが僕の勘違い? 騙されてた?って気付いたのは、学院で他の貴族の子たちと話すようになってから…
僕の何気ない言動に感心されたり驚かれたり…
そして、気が付けば闘技大会の代表チームに選ばれてたり、魔法魔道具研究会に入会させられてたりで…
そして、現在に至る。
「…では、ディアナさんには闘技場に設置する魔法無効化の魔道具、安全装置の改良をお願いします。
最近は学院生全体の攻撃魔法の威力もかなり上がっていますから、早急な対応が必要です。
昨年度の闘技大会でソフィア様が見せたファイアボール。あれを打ち消せるくらいの性能は必要です」
レジーナ先生から出された課題に息を呑むディアナさん。
気持ちは分かる。
僕もあの試合は見ていたからね。
特に決勝戦でソフィア様とライアン殿下が作り出していた火球は、闘技場を吹き飛ばすんじゃないかってものだった。
あれを無効化できる魔道具を完成させろって…
いくら基礎部分は既に完成しているからって…
それ、学生のクラブ活動じゃないよね?
軍の兵器開発部門とかの仕事じゃないの!?
「アニーさんには引き続き王都の商会の取りまとめと調査をお願いします。
ザパド領に対して怪しい動きをする商人がいれば、すぐにこちらに知らせて下さい。
この件については、王都の商業ギルドを絶対に関わらせないように。
情報が漏れる可能性があります。
どうしても商業ギルドを利用したい場合には、セーバの街の商業ギルドを利用して下さい」
「畏まりました、レジーナさま」
アニーさん、うれしそうですね…
最近はレジーナ先生の指示で、セーバの名を出したくない王都や連邦の有力者との交渉を、代わりに請け負ったりしているらしい。
この前までは、連邦から縁談だの業務提携だのの話が大量に持ち込まれて、その対応に大忙しだったみたいだけど、そっちの方はだいぶ落ち着いたっぽい。
なんでも、この前の長期休暇の時に連邦に行ったアメリア様が、向こうで色々とやらかしてきたらしい…
その時にアメリア様が使った偽名が、マシュー商会の妾の娘でアミー。
勿論、そんな娘は実際にはいないわけだけど、代わりにマシュー商会にはアニーという跡取り娘がいる。
遠い他国の商会の話だし、そのアミーという娘が連邦に滞在していた時にも、直接本人に確認を取った訳ではない。
あくまで人伝の噂なら、多少の名前の聞き間違いや何かは十分にあり得る。
まずは本当に噂通りの優秀な娘なのかを確認し、もしそれが本当なら是非とも良好な関係を築きたい…
そうしてコンタクトを取ってきた人達の中から有益な人材を選びだし、マシュー商会は遠く離れたポールブにも、確かな足場を確保したらしい。
アニーさんは、「いやぁ、棚ぼただねぇ〜」とか笑ってたけど、案外狙ってたんじゃないかと僕は考えてる。
とにかく、そんな抜け目無くもレジーナ先生大好きなアニーさんだから、きっとレジーナ先生の無茶振りにもきっちり応えちゃうんだろうね。
秘密裏に王都の商会の取りまとめとか、そもそも魔法も魔道具も関係無いでしょ?
この研究会って、完全にアメリア様の下部組織だよねぇ?
「アルフ君は、ディアナさんとアニーさんの手伝いをお願いします。
魔道具開発の支援も、有力商人との交渉も、どちらも領地経営には必須のスキルです。
将来の勉強だと思ってしっかりと協力するように!」
僕の中の不満を見透かしたかのように、レジーナ先生が釘を刺してくる。
僕は、先生には一生頭が上がらないんだろうなぁ…




