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【書籍発売中】転生幼女は教育したい! 〜前世の知識で、異世界の社会常識を変えることにしました〜  作者: Ryoko
第4章 アメリア、ダルーガ伯爵の野望を打砕く

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錬金術師の末裔 〜ダルーガ伯爵視点〜

(ダルーガ伯爵視点)


「ふむ、ザパド領の方は順調だな。キルケ嬢は思いの外うまくやっているようだ…」


 私は部下から届いた報告書に目を通していく。

 計画は順調なようだ。

 ザパド領の主だった都市や町の貴族は、全てこちらの協力者か薬漬けにした。

 今ひとつ態度の煮えきらなかった連中も、この半年ほどでキルケ嬢が完全に掌握してしまった。

 元々日和見なところのある父親(ボダン伯爵)と違い、あの娘(キルケ嬢)はやることが徹底している。

 目的の為には手段を選ばないあの苛烈さは、、まさに、()()だな…

 200年前から、王族などという輩は、碌なことをしない。

 王家に反抗的な貴族や民を従わせるために、未知の疫病を生み出させ、その治療も反抗もできないよう国中から魔法を奪った…

 結果、天罰が下る。

 教会から持ち出された魔法の石板は全て砕け、国中から魔法が消滅した。

 管理に失敗し暴走した疫病は、瞬く間に国中に、いや、世界中に蔓延していった。

 この疫病を体内から抜き取るのに土魔法が有効であると、秘匿していた土魔法の秘密を民に伝えた倭国皇家に対して、神聖ソラン王国(あの国)ときたら…

 疫病の原因が王家(自分たち)にある事を隠す事にのみ躍起になり、何の対応もしようとはしなかった…

 いや、できなかったか…

 元々鉱物採掘用の労働者が使う魔法と思われていた土魔法を、わざわざ覚えようなどという王侯貴族、金持ちはいない。

 おまけに、石板が消えたことで、新たに土魔法の使い手を育てることもできない…

 民に土魔法の有効性を広めたところで、却って石板を奪った王家に批判が向くだけだ。

 王家は、愚かにも原因と治療法の全てを隠蔽しようとした。

 疫病を生み出す研究をさせていたカリオストロ伯爵家を始末し、全ての研究資料を闇に葬ろうとした…

 カリオストロ伯爵…

 この男は、所謂(いわゆる)天才だったのだろう…

 魔力量が少なく、攻撃魔法に適性のなかったカリオストロ伯爵だが、彼の鑑定魔法はずば抜けていたという。

 攻撃魔法を使えず、社交的でもなかったカリオストロ伯爵は、もっぱら屋敷に引き篭もって、“錬金術”という怪しげな研究に明け暮れていたらしい。

 それ(錬金術)が一体“何”なのか…?

 金属や植物など様々な物を組み合わせ、魔力に頼らない新たな力を生み出す研究だったらしいが…

 彼の研究資料の大半が処分されている現状では、全ては想像の域を出ない。

 私の遠い先祖が、カリオストロ伯爵(この男)の弟子であったのか親族であったのか、それは分からない。

 ただ、歴史からは完全に抹消されたはずの男の情報が、これだけ我が家に伝わっている以上、比較的近しい間柄ではあったのだろう…

 私は手元の報告書から手を離すと、机の引き出しから一冊の古びた本を取り出す。

 それは、カリオストロ伯爵によって書かれたという手記。

 研究資料というよりは備忘録に近いと思われるものだが、その大半を私は読むことができない。

 文字が不明瞭という訳ではない。

 単純に、読めないのだ。

 恐らく文字であると思われる記号の羅列は、この世界で使われているものとは全く違うもの。

 それどころか、魔法の呪文に使われる神代の文字とも異なる。

 全く馴染みのない記号…

 その文字の判読は不可能だが、そこに何が書かれているかは知っている。

 薬の製法。

 この世界には様々な種類の“薬草”が存在する。

 嘔吐や下痢にはマリチを、怪我にはコンフリーをといったように、症状に合わせた薬草が使われる。

 それらはすり潰したり煎じたりして使われるが、複数の薬草が混ぜられたり加工されたりすることはない。

 まして、薬草以外の様々な植物や金属を組み合わせ、全く新しい効能を持つ“薬”を作るなど、一体誰が考えるというのだ…

 だが、そんな突飛な発想をするのが、錬金術らしい。

 200年前、ソラン王家の手を逃れてこの地にやって来た私の祖先は、持ち出したカリオストロ伯爵の手記と口伝によって、この地に製薬技術を密かに伝えた。

 その知識と技術により、いち早くこの地の疫病を治めた私の祖先は、国王不在で混乱するルーガの地の領主となった。

 それから200年。

 我が一族はこの手記の解読に心血を注いできた。

 従来の薬草に見られるような、単純に病を治すだけのものではない。

 睡眠薬や麻痺薬、媚薬、火薬、人の意思を奪う薬…

 それらは、魔力に頼ることなく、並の攻撃魔法以上の力を持つ武器となる。

 これらの秘薬を密かに用いることで、ダルーガ領は200年の繁栄を得てきた。

 だが、それでも、それらはこの手記のほんの一部の成果に過ぎない…

 もし、ここに書かれている全ての薬を手に入れる事ができれば…

 そう願いつつも研究は遅々として進まず、200年の時が過ぎた…

 そして、光明はもたらされた!

 魔法王国の辺境の地で売り出されたという酒、“ウィスキー”。

 ワインと異なり酒精が大変強く、そのかつて無い芳醇な味わいもあって、瞬く間に世界中に広まっていった。

 だが、未だにその製法は知られていない。

 一般的に言われている鑑定魔法の結果は、『エールを濃くしたもの』。

 だが、いくら“酒神の魔法”を使い、濃いエールをイメージしようとも、大麦やエールがウィスキーになることはない。


(ふっ、“濃く”するのは酒精、アルコールであって、エールそのものではないのだからな)

 

 私がウィスキーに使った鑑定魔法の結果は、他の者とは違う。

 それは、『エールを“蒸留”したもの』

 “蒸留”の概念と蒸留器の絵。

 それらは、手元の手記にしっかりと記されている。

 だから、ウィスキーという酒がどのようなものかも、その大まかな製法も、私にはすぐに理解できた。

 これは、カリオストロ伯爵と同じ知識を持つ者の仕業だ。

 今更酒の販売などに興味は無い。

 そんなことよりも、この知識が誰によってもたらされたのか?

 そのことの方が余程重要と言えた。

 その後の調査で、その知識をもたらしたのがアメリア公爵だと分かった。

 夢の中で女神よりもたらされた知恵だというが、本当かどうかは分からない…

 だが、その後も次々に発表されたセーバ産の商品は、どれもこの世界には全く存在しないような発想のものばかりだった。

 それはまるで、伝え聞くカリオストロ伯爵の逸話を思い出させるようなもので…

 部下が集めてきた情報によると、アメリア公爵は魔法を使う際に、何かの本を見ているという。

 それは女神が与えたもので、その本を媒体にすることで、魔力の少ないアメリア公爵にも大魔法が使えるのだという…

 本当にそのような本が存在するのか?

 女神が与えた本だと?

 (にわか)には信じられん…

 私は自分の手元にある手記に目を落とす…

 ()()()()が、アメリア公爵の手元にもあるのではないか…?

 カリオストロ伯爵の研究は、製薬のみに限らず、多岐にわたっていたと聞く。

 もし、それらの研究資料をアメリア公爵も手に入れていたとしたら?

 少ない魔力で発動する強力な魔法。

 魔石で動かすことのできる巨大な魔道具。

 酒の製法。

 これらは全てカリオストロ伯爵の研究成果で、それらが全て女神の本とやらに記されているとしたら!?

 アメリア公爵自身がカリオストロ伯爵の使う不可解な文字を解読したのか、偶々この世界の文字のみで記された研究資料を手に入れたのか、それは分からない。

 だが、アメリア公爵と女神の本(研究資料)

 この2つを手に入れることができれば、全てが手に入る。

 セーバの先端技術も、長年解読できなかったこの手記の内容も…


 ザパド領の制圧が済めば、セーバ領の鼻先に槍を突きつけることができる。

 現状、少人数でのアメリア公爵の拉致は難しいが、魔法王国王都の国軍に気づかれる前にセーバ領に軍を送り込めれば、セーバの街の制圧は容易いだろう。

 セーバ領に大規模な領軍は無い。

 あるのは部隊規模の自警団だけと聞く。

 王国軍に先んじてセーバ領に入れさえすれば、アメリア公爵と彼女の研究資料を押さえるのは容易なことだ。

 我が一族の悲願が叶うのも、それほど先のことではあるまい。



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