娘と父 〜ソフィア&ザパド侯爵視点〜
(ソフィア侯爵視点)
『……では、ソフィアさんは関税を撤廃すべきと? 税収が減りませんか?』
『はい、一時的に税収は落ち込むと思います。
でも、それで交易が活発になれば、結果としては全体の税収は増えると思います』
『でも、それで国外から安くて良い品が大量に入ってきたら、誰も国内で生産された物を買わなくなるのでは?』
『そうなると、自国の産業が潰れてしまう!』
『それだけじゃないよ。僕なら、無理してでも安く売って、相手国の産業が潰れたところで値を吊り上げる』
『そ、それは…』
『はい、ストップ。ソフィアさんの言うように、関税を安く抑えることは基本的には有効です。
ですが、マキリ君の言うような危険性もあります。
関税や通行税を決める際には、目先の利益だけでなく、もっと広い視点に立った考察が必要なのです…云々』
……………
このセーバリア学園で学び始めて、もうすぐ半年になる。
初めてこの学園に来た時には、何もかもが今までと違って戸惑ったけど、それもだいぶ慣れた。
王都の学院を卒業した私は、そのままこの学園の上級クラスに編入することになった。
今の状態でザパド領に戻るのは危険であること。
アメリア様曰く、今の私では今後のザパド領を治める上で、絶対的に知識が足りないということ。
そんな理由もあり、私は学院卒業後も、引き続きここで様々なことを学んでいる。
(分かってはいましたけど、、本当にまだまだですね…)
王都の学院では優秀な成績を収め、魔法魔道具研究会ではレジーナ先生やサラ様にもかなり鍛えられた私です。
セーバの学校でも、それなりにやっていけると思っていました…
何より、まだ心の中で、所詮は普通の平民が集まる学校という驕りがあったのでしょう…
レジーナ先生は、ただの平民でありながらアメリア様の側近を務める優秀な方です。
つまり、特別な存在。
いくらセーバリア学園のレベルが学院を超えると言われていても、流石に魔法魔道具研究会のレベル以上ということはないでしょう。
ならば、なんとかなる!
そう、思っていました…
あれ、本当に基本だったんですね…
王都の学院卒業レベルが、セーバリア学園の中級クラスレベル…
それは、誇張でも何でもない事実でした。
そして、私が入った上級クラスはそれ以上!
いや、それどころか、ここでの内容は王都の研究者の方々すら考えもしないような内容で…
これ、そのまま発表するだけで、学者になれますよねぇ…
まぁ、最初こそ面食らいましたが、今ではだいぶ授業にもついていけるようになりました。
と、同時に、今までの安易な発想にも気付かされます…
『民を搾取するのではなく、もっと民の立場に立った統治を…』
『ザパド領に鉄道が通るようになれば、きっとかつての活気を取り戻せるはず…』
我ながら、なんと能天気な…
そんな簡単なわけがないではありませんか!
今の私では、ザパド領を治めるのに力不足…
アメリア様のおっしゃった言葉が身にしみます…
今、アメリア様は、不甲斐ない私に代わって、密かにザパド領で起こっている問題の調査をしてくれています。
詳細はまだ教えてもらえませんが、かなり不味い状況になっているのは間違いないようです…
(お父様! あなたは何をやっているのですか!?)
もどかしい気持ちに蓋をして、私はペンを取ります。
今の私にできることは、ただ必死に勉強することだけ…
今は、全てをアメリア様にお任せすることしかできない…
『そのうち、ソフィアさんにも動いてもらう事になると思います。
そのためにも、今はご自分の知識と魔術に磨きをかけておいてください』
今は、アメリア様の言葉を信じるしかありません…
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(ザパド侯爵視点)
ここは、、どこだったか…
思い出せん…
いつから、ここに?
なぜ、ここに?
………
どうでもよいか…
……
また、あの妙な薬を、飲まされれば…
どうせ、今考えていることも、忘れてしまう…
あの男に激怒し!…
………
そうだ!
あの娘の暗殺に、失敗したあの男は、
事もあろうに、私を、脅してきたのだ!
反逆罪、などと…
サラ王女殿下を巻き込み、自分より身分が、上の、公爵の命を狙うなど…
私は、、何を考えていたのだ…?
確かに、私は、あの娘が気に入らなかった…
なぜ、あの娘だけが!
魔力が少なくとも、領主として優秀ならと、努力しても、商人貴族と、馬鹿にされた…
領地を豊かにしようと、金を稼げば、平民までが強欲貴族と、陰口を叩く…
商売が傾けば、無能貴族と…
侯爵として、わずかに魔力が少ないだけの私が…
あの娘は英雄で…
私は守銭奴と…
何が、違ったのだ??
無理矢理、あの薬を飲まされ…
気が付けば、こんな所に幽閉、されている…
………
幽閉…?
……
誰も、私を、閉じ込めてなど、おらん…
なら、なぜ、逃げない?
どうでもいいからだ…
なにも、やる気がおきん…
………
それに…
どうせ、忘れてしまう…
今、こうして考えていることも、
もうしばらくすれば忘れてしまうだろう…
……
今のように、思考が戻ってくる、感覚が、だんだん、開いている、気がする…
間隔も、短い…
………
……
ああ、また、霧が、かかる…
…
私は…
…
どうでも、いい…
…
…
…




