ある諜報員の独白 〜マリー視点〜
復活?
まだ、窮地は、脱していない…
(マリー視点)
私の名はマリー。
この街の市場で働いている家庭の主婦だ。
この街に来て、結婚して、まあまあ幸せに暮らしている。
私がセーバの街に来た時には、まだ鉄道も商業ギルドもなくて、勿論、今みたいな大都市でもなかった…
ウィスキーや羅針盤の発売で、突然知名度の上がった田舎町…
それが、セーバの街だった。
私が王都からこの街にやって来たのは、丁度その頃だったから、歴史の浅いこの街では、古参の住人ってことになるのだろう。
笑っちゃう話だけど…
だって、ねぇ?
まだ10年も住んでいない住人が“古参”って…
まぁ、それだけこの街の発展が異常って事か…
10年なんて、普通なら発展している村が、やっと町の体裁を取れるようになるかって、その位の期間なんだけど…
この街ときたら、ちょっと目を離しただけで、どんどん変わってっちゃうし!
この前も、街の東に何か作り始めたと思ったら、知らないうちに花街ができあがってた…
しかも、あれ、恐らく全員が連邦の傭兵達でしょ?
連邦から傭兵が入ってくるって話は聞いていたけど…
だけど、まさか傭兵ギルドの支部ができるなんて、思わなかったわよ!?
本当に、アメリア様の非常識さには、未だに慣れない…
ベラドンナ様も大概だと思ってたけど、あれはそれ以上だわ…
私、陛下に同情する…
『マリー、あなたにはセーバの町に行ってもらいたいの』
ベラドンナ様からそう言われた時、見限られたって思った…
同僚たちが、次々と帝国への調査任務に就く中で、私に与えられたのはセーバ領の領都での長期潜入調査。
その土地の住人として人々に溶け込み、長期に渡って情報収集をする、所謂“草”。
それが、私に与えられた任務だった。
セーバ公爵領の領都セーバ…
そう言えば聞こえはいいけど、実際はただの辺境の田舎町…
詰まる所、これは体のいい左遷だ!
長年、王家の暗部で諜報員として働いてきた私も、もう三十路に近い。
女性諜報員としては、もうとっくに全盛期は過ぎている。
ベラドンナ様付の諜報員として、それなりの評価はされていると思っていたけど、どうやらそうでもなかったってことか…
まぁ、定期的に報告書を送れば俸給も出るし、“草”ならば普通に結婚もできる。
ちょっと早めに引退して、辺境でのんびり田舎暮らしというのも、よくよく考えれば、そう悪い話でもないのかもしれない…
きっと、これは、ベラドンナ様の温情なのだろう…
そんな事を考えていた時期が、私にもありました…
あの方が、そんなに甘いわけがないってね。
ただでさえ、帝国のせいで人手不足なのに、多少なりとも使える人材を、あの王妃殿下が遊ばせておくわけがない!
のんびり田舎暮らし?
温情?
とんでもない!
倭国の皇女殿下は来るわ!
自国の王女殿下は来るわ!!
街はとんでもない速さで日に日に大きくなるわ!!!
港には聞いた事もない帆のない大型船が何隻も浮かんでるし、列車とかいう巨大な乗り物が鉄の道を駆け抜けていくし!!!!
情報収集しようにも、タキリ皇女の周囲も、アメリア公爵の周囲も、精鋭と言える護衛がきっちり固めていて、私一人じゃ手も足も出ない。
唯一できたのが、セーバの街の住人として、セーバリア学園で真面目に勉強すること…
セーバリア学園は、初級、中級、上級、研究クラスと、レベルによるクラス分けがされていて、そのレベルに応じて、開示される情報や立ち入る事ができる場所が決まっている。
つまり、クラスが上がれば、それだけ得られる情報も増えるってこと。
より深い情報を手に入れるためには、とにかく学園内でクラスを上げるしかない!
そう思って、一時期は相当熱を入れて勉強したわよ。
結局、どんなに頑張っても、上級クラスに上がる事はできなかったけどね…
上級クラスからは、アメリア様が女神様から学んだっていう特別な知識も教えられるという。
だから、上級クラスへの進級は、非常に難しい。
単純な学力や魔法技能だけではなく、普段の素行や性格までが審査対象になる…
私では、絶対に受からない。
多分だけどね、とっくにバレていると思う…
私が王家の“草”だってことはね…
ベラドンナ様がわざわざ教えるとは思えないから、ふつうにバレたんでしょうね…
多分、私の素性は承知の上で、見逃されているんだと思う。
中級クラスまでの情報なら構わないけど、それ以上はダメってことなんだろう。
それが分かったから、上級クラスへの進級は諦めた。
と、いうか、無理にアメリア様が隠したがっている情報を探ること自体を諦めた。
正直、私には荷が勝ちすぎる。
ベラドンナ様も、その辺の事情はよくお分かりのようで、特に何も言ってはこないしね。
それに、私自身、アメリア様には感謝しているから。
はじめからアメリア様の掌の上だったとはいえ、結果として私の魔法技能や戦闘技術、情報解析能力は格段に上がった。
何とか上級クラスに潜り込もうと努力した結果は、決して無駄ではなかったってことだ。
今の実力なら、仮に王都に戻ったとしても、まだまだ余裕でやっていけるだろう。
戻る気はないけどね。
さて、そろそろ王都から、連絡のあった貴族の間諜が来る時間だ。
現地諜報員として、この街の流儀ってやつを教えてやらないと。
北にはセーバリア学園、南には倭国の精鋭部隊、そして新たに東にできた傭兵ギルド…
この街は、我が物顔で諜報活動のできる王都とは違うのだ。
自国のつもりで引っ掻き回して、後で私やベラドンナ様に火の粉がかかっちゃ大変だからね。
この街の事情に暗い王家の新人諜報員や国内貴族お抱えの間諜に、この街の現実を教えること。
これも、私の重要な仕事だ。
無知は罪だからね。
本当に、教育って大切だと思う。
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