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【書籍発売中】転生幼女は教育したい! 〜前世の知識で、異世界の社会常識を変えることにしました〜  作者: Ryoko
第4章 アメリア、ダルーガ伯爵の野望を打砕く

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セーバ式実技訓練

 本年度の実技訓練から、モーシェブニ魔法学院では、本格的にセーバ式訓練方法が採用された。

 気功法や太極拳。

 今までは、王宮で一部の貴族にのみ教えられていた訓練方法が、いよいよ一般に公開された訳だ。

 学院(ここ)には、上級貴族だけでなく、下級貴族や平民の聴講生もいるし、領地もばらばら。

 この学院で習った訓練方法が出身領地で伝えられれば、遠からず気功法や太極拳は、国中に広まることになると思う。

 これで、多少なりとも魔法王国全体の魔力操作技術が向上すれば御の字だ。

 元々の魔力量が多い魔法王国人は、倭国人なんかと比べて、細かな魔力操作が苦手な者が多い。

 魔法を攻撃にしか使わない、質より量の時代なら、それでも良かったかもしれないけど…

 今後、()()()何をするかではなく、()()()使()()()何をするかの時代になったら、制御のできない魔法など何の役にも立たないからね。

 え? そんなことしたら、セーバの街のアドバンテージがなくなるって?

 なくなりませんよ、その程度では。

 魔法を上手く使うためには、魔力操作以外にも様々な要素が必要だからね。

 魔法に対する理解、自然科学に関する知識、センスや発想力…

 そういった様々な要素が混ざり合って、魔法は完成するのだから。

 そもそも、太極拳や気功法にしたって、ただ表面的な型だけ覚えれば、みな達人になれるってものでもないしね。

 型を覚えるのは始まりで、本当の修行はそこからだ。

 野球のバットやゴルフクラブの振り方を習って、それで一流プレーヤーになれるなら、誰も苦労はしない。

 何千、何万と同じ素振(すぶ)りを繰り返して、ああでもないこうでもないと試行錯誤して、それでやっとものになるかって世界なのだ。

 それは、太極拳や気功法も同じ。

 私だって、前世と合わせて20年以上練習して、それでやっと今のレベルになったのだ。

 大体、ちょっと習って、簡単に真似されちゃうような技術に、大した価値なんかないからね。

 セーバの街が今の技術水準にあるのは、それだけの濃密な教育がセーバリア学園で行われているから。

 それを簡単に真似できるって思うなら、やってみればいいって感じかな。

 

 実技訓練開始時、これはセーバ式訓練方法で、セーバ以外では王宮で一部の貴族、王族のみに教えられているものだと聞いて、皆が期待に目を輝かせ…

 じっと同じ姿勢で立っているだけの気功法や、ゆっくりと踊るだけの太極拳を見て、こんなものが何の訓練になるかと失望し、鼻で笑い…

 最後には、笑い出す自分の膝を誤魔化す余裕もなくなり、その場にへたり込む…

 そんな生徒たちを、誰もが通る道だと、温かな目で見守る実技教師たち…

 見て分かるのと、実際にできるのは別なのだよ。

 特に初心者は、体幹も鍛えられていないし、余分なところに力が入りまくるから、余計に疲れるんだよね。

 無駄にカッコつけて、変に力入れてた生徒とか、特にね…

 力抜けって言ってるのに、言われた通りにしないから、そういう目に合う。

 とりあえず、半数以上の生徒の足が震えだしたところで、今日の授業は終了。

 そんな授業を、可能な限り繰り返す。

 生徒全員に太極拳と気功の型を覚えさせるだけでも一苦労。

 昨年一年間で既に型をマスターしている実技教師が大雑把な型を指導し、私、レジーナ、レオ君、サラ様のセーバ組が個々にチェックしていく。

 時に、魔法や体術による示威行為(デモンストレーション)を交えながら…

 

『ッグゥ!』


『このように、ただ魔力を無駄無く体内に循環させるだけでも、スピードや威力、出せる力は格段に上がります。

 魔法を使う必要すらありません。

 非力な女性が、普段身を守るのには、十分な力となります』


 お腹を押さえて呻く悪漢顔のおじさんと、その横に佇む華奢な体格の少女。

 その様子を見て、新たにやる気に火を点ける女性陣。

 それが王宮の中だろうと、酒場の中だろうと、森の中だろうと関係ない。

 立場や状況が違っても、力の無い女性が、絶えず危険な状況に置かれているのは同じこと。

 自衛できる手段があるなら、是が非でも手に入れたい!

 女生徒たちの心は燃え上がった。

 一方…

 地面に転がる筋骨隆々のおじさんは、聴講生の上級冒険者。

 講師として参加しているレジーナを、自分と同じ平民で、魔力の少ない小娘と侮るから、そういう目に遭う。

 魔力量で人を判断するのは、別に貴族に限ったことではないからね。

 このおじさん、魔力量だけで騎士に採用されないのは不当だと言いながら、同じ判断基準でレジーナを見下している。

 この国の魔力至上主義はなかなかに根深い…

 とはいえ、聴講生の中には冒険者や兵士といった戦闘職も多いし、貴族生徒の多くは軍属志望だ。

 男の子が強さや戦いに憧れるのは、世の常だからね。

 そして、世の大半の男どもは夢想(妄想)している。

 か弱い女性を守り、そして尊敬とともに頼られる自分の姿を…

 そんな男性陣にとって、目の前の光景は、自己のアイデンティティの喪失にも繋がりかねない一大事で…

 魔法戦闘で女性に後れを取るのは、理解できる。

 魔法技能に性別は関係ない。

 百歩譲って、剣術で後れを取るのも、許容できる。

 武器を使った戦闘においては、筋力よりも技術的な差の方が大きいのだから…

 だが! これは違う!!

 体術だの拳法だのと言い繕っても、小柄な少女が素手で大男を殴り、悶絶させた事実は変わらない。

 そして、彼女は言う。


『正確で効率の良い魔力操作ができるようになれば、誰でもこれくらいはできるようになります』


『『『!!!』』』

『『『……………』』』


 喜色を浮かべる女性陣に対して、危機感を募らせる男性陣。

 これは、戦闘力云々といった単純な問題では無い。

 もっと、生物としての根源的な問題…

 魔法に関係なく、当たり前の日常において、基礎身体能力が男性(自分たち)よりも遥かに高い彼女や妻に、どのような態度で接すれば良いのかという話で…

 自分の彼女や奥さんに、お姫様抱っこ()()()()()己の姿を幻視する男たち…


((((不味い!!))))


 女性陣とはまた違った形ではあるが、新たにやる気に火を点ける男性陣。


 こうして、今日も学院での平和な一日が過ぎていくのだった。


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