情報の価値
「長期雇用できるのは、こちらとしても助かります。
…それで、お値段はどのくらいですか?」
ここが問題だよね。
サマンサは、それほどしないはずだって言ってたけど…
でも、正確な料金は分からないって…
個々の傭兵に横の繋がりは無いし、雇用契約もギルドとの個別契約だからって…
それでも、サマンサの話だと、特に魔力が高い人材とかでなければ、下級貴族の年俸くらいで、そこそこ優秀な者を雇えるはずだって。
でもなぁ〜
一般的な下級貴族の年俸なら、多分金貨300枚くらいだけど…
同じ下級貴族でも、レオ君のお父さん、アルトさんの給料って、金貨1000枚近かったような…
セーバの街は能力給だから、色々とやってもらっているアルトさんの給料と、一般的な下級貴族の年俸では勿論単純な比較はできないけど…
サマンサがお父様の教育係をしていた時の給料なんて、年金貨3000枚!?とか言ってたし…
情報収集、諜報活動って、それ自体が特殊技術なわけだから、優秀な人材ならそれなりに取られると思うんだよねぇ…
そんな事を考える私に、お婆ちゃんが提示した金額は…
「そうさねぇ… ダルーガ伯爵の調査ともなれば、生半可な者には荷が重いだろうねぇ…
いくら魔力が少ないとはいっても、一流どころの諜報員となると… まぁ、年金貨200枚は下らないね」
「えっ?」
安過ぎない!?
「驚いたかい?
だが、情報というものには、本来そのくらいの価値があるものなのさ。
人の能力を魔力量のみで測る王国と違って、この連邦では、」
「いえ、そうではなくて…
勿論、情報の価値は私も理解しています。
そうではなくてですねぇ… その、安過ぎませんか?
一流の諜報員なんですよねぇ?
私、サマンサの依頼料聞いていたので、もっとお高いかと…」
戸惑う私に、一瞬の間を置いてお婆ちゃんが笑い出す。
「ハハハッ そうかい、そりゃあ驚くねぇ。
いや、サマンサを基準にされちゃあ、正直うちも困るさね。
サマンサは特別だよ。
サマンサが主と呼び、倭国があれだけ肩入れしてるんだ。多少の事情は聞いてるだろ?
傭兵ギルドと肩を並べる倭国の影。本来ならその頭になっていた娘だ。
あたしが知る限りじゃあ、世界でも五指に入ろうかって実力者だよ。
しかも、派遣先は魔法王家で、仕事は次期国王の護衛と教育だ。
報酬が高額になるのは当然だろ?」
まぁ、言われてみれば確かに…
もっとも、お父様は次期国王の座を放り出しちゃったけどね…
「ふむ、どうやらお嬢ちゃんは魔法王国の魔力至上主義には染まっていないようだけどねぇ…
ただ、王国ほどではないにしても、“魔力の多い者は優秀”という価値観は連邦にもある。
そもそも、魔力と金が等価値の世界だ。
単に魔力を多く持っているだけで、多くの金貨を生み出せるわけだからねぇ。
そりゃぁ、優遇されるさね。
それは、傭兵の世界も同じだ。
剣持った兵士が何人も必要な魔物討伐も、魔力量の多い魔術師が一人いれば、それで済んじまうことも多いからね。
そんな世界で、大した魔力も持たない傭兵が、貴族の年俸にも届こうかって報酬を取るんだ。
金貨200枚でも、十分に一流どころの料金さね」
そうか、一瞬安過ぎとか思っちゃったけど、よくよく考えればそうでもないのかも…
前世の感じだと、金貨1枚で大体10万円くらいだから、金貨200枚だと大体年収2000万円くらい。
魔力を学歴に置き換えるなら、中卒だけど技術鍛え上げてきた一流の職人さんみたいに考えればいいのかな…
で、サマンサは人間国宝レベルだから、そもそも比較対象外と…
前世の映画の中の傭兵とかスパイとかのイメージで、なんか凄い高額だと思ってたけど、実はそうでもないらしい。
なら、予定の人数は余裕かな♪
「分かりました。では、それでお願いします。」
「あぁ、それで何人くらい必要かえ?
10人くらいなら今すぐ揃えられるが、それ以上になると少し時間をもらうことになるが…」
「じゃぁ、とりあえず100人ほどお願いします。
後は、必要に応じて追加ということで…」
「………はあ!?
ひゃ、百人と言ったかえ? あんた、戦争でもする気かえ??」
なんか、お婆ちゃん、驚いてるけど…
でも、必要だよねぇ?
今回の事にしたって、単にザパド侯爵とダルーガ伯爵の身辺だけを調べればいいってわけじゃないし…
ザパド領内の貴族達は勿論、辺境の街や村だって被害にあってるかもしれない。
不当に売られた民の足取りだって追わなきゃいけない。
人手なんて、いくらあっても足りないよねぇ?
それに、今後鉄道が連邦や倭国まで敷かれたら、アメリア商会の商圏は連邦、倭国全域まで広がる可能性がある。
最低限の情報収集は不可欠でしょう?
そんな話をしたんだけど、お婆ちゃんには盛大に呆れられた。
ザパド侯爵とダルーガ伯爵の事にしても、普通は悪事の証拠を掴むとかで、既に売られた被害者や、辺境にある平民の村の事など、態々調べはしないそうだ。
商売にしても、他国に住む特定の相手の調査ならともかく、地域全体を網羅するような情報収集など、国ですらしていないらしい。
企業進出するなら、その地域の地域性、物価、立地条件、人の流れ、諸々調査するよねぇ?っていうのは、私の前世の感覚なんだろうか…
一般の人たちにとっては、自分の住む村が国のどの辺りにあるのかも知らずに、一生を終える人も珍しくはない。
自分が行ったことのない場所の情報なんて、知らないのが当たり前で、特に目的もないのに態々調べようなんてしないのだろう。
そんな感じだから、100人規模の諜報員なんて、国の諜報機関レベルなんだって…
セーバの街は、王国から独立するつもりかと、本気で疑われたよ…




