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【書籍発売中】転生幼女は教育したい! 〜前世の知識で、異世界の社会常識を変えることにしました〜  作者: Ryoko
第4章 アメリア、ダルーガ伯爵の野望を打砕く

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対抗手段

 議長様は明言を避けたけど、言いたい事は明らかで…

 ダルーガ伯爵はザパド領から魔力量の多い人間を連れて来て、それを連邦で売りさばいていると…


『……いえ、実際に、ザパド領の民は消えているのです!』


 学院の開校式の後にやった、ソフィアさんとの面談を思い出す。

 ソフィアさんは、自分の周囲の人間が音信不通となっていると言っていた。

 それは、平民の知り合いに限らず、ザパド領貴族の子女も含めて…

 つまり、人身売買の被害者は平民だけではない?

 もし、被害者の中にザパド領貴族も含まれるなら、これは単なる治安の悪化とか人攫(ひとさら)いの横行とかってレベルではないのかも…

 ザパド侯爵はダルーガ伯爵と結託して、自分に逆らうザパド領貴族を連邦に売りさばいている?

 学院や王都社交界から姿を消したザパド領貴族たち…

 自領の立て直しに奔走しているのではなく、奴隷としてダルーガ伯爵に売られているのだとしたら…

 領主公認の、組織的な人身売買組織…

 ザパド侯爵、たんに不貞腐れて領地に引きこもっているだけじゃなかったのか…


「議長様としては、この問題をどうお考えで?」


「勿論なんとかしたいが… 何度も言うが、こちらからは手が出せん。

 事は我が国だけの問題でもないしな。

 こう言っては責任逃れに聞こえるかもしれんが、ダルーガ伯爵はただの転売目的の客で、()()自体はザパド領が単独で行っているという可能性もある。

 大っぴらな調査は、王国としても好まぬのではないか?」


 ちらっとサラ様の方に視線を向けながら、そんな事を言う議長様だけど…

 まぁ、そうだよねぇ…

 状況を考えれば、ザパド侯爵かダルーガ伯爵の単独犯って可能性は低いと思う。

 でも、どちらも自国の重要人物である以上、下手に事が公になると、国としての信用問題にもなりかねない。

 世論に火がついたりしたら、「国が国民を売っていたのか!」みたいな問題も起こるかも…

 国の信用失墜、両国関係悪化で、鉄道計画どころか国交断絶もあり得る…

 全貌を把握せずに末端だけを取り締まっても、何の問題解決にもならない。

 問題が表面化することで社会不安を煽って、主犯格はそのうちに雲隠れなんて、目も当てられない。

やるならサクッと、一気に方を付ける必要がある。


「……この問題に関して、王国(我が国)が一方的な被害者などと主張するつもりはありません。

 ですが、王国(我が国)の民が本当にそんな目に遭っているなら、放置などできません。

 そもそも、この問題を放置しては、両国の将来に禍根を残すことになりかねませんから」


 下手にこの問題に手を出して、困るのは連邦だけではないだろう?という議長様の主張に対して、自分の感情を抑え込むように返事をするサラ様。

 そんな様子を見て、一瞬面白がる顔を見せる議長様。

 実際に被害に遭っているのは我が国の民だと、自国中心の正義感を振りかざして激高するとでも思ったのかなぁ?

 残念。しませんよ、サラ様は。

 セーバリア学園上級クラスの教育は伊達ではない。

 そこで学ぶのは、私が前世で蓄積してきた膨大な思想、哲学、ものの考え方や価値観。

 そして、現実に世界で起きた事件からラノベの話まで、様々なテーマに関するケーススタディ。

 それは、情報伝達も遅く、良くも悪くも思考が単純なこの世界においては、超超高度な帝王学だったりする。

 “正義は一つじゃない”、“人の数だけ正義はある”なんて、前世の日本なら子供でもよく聞く言い古された考えだけど、この世界では違う。

 立場や状況、価値観によって、善悪すら入れ替わってしまうなんて発想は、それこそ大国の統治者のもの。

 大体、あれだけ文明の進んでいた前世日本でだって、ほんの数十年前なら“正義は一つ”みたいな台詞が当たり前に使われていた訳だしね。

 自国の民の置かれた状況に憤りつつも、冷静に両国間の関係や連邦の立場も考えられるサラ王女殿下に対して、議長様のサラ様に対する評価が上方修正されたのを感じる。


「では、どうしますかな?」


「それは…」


 議長様の問に対して、明確な答えは出せず、言葉を詰まらせるサラ様。

 今までこの問題を、セーバ(わたし)や王家に対するザパド侯爵の確執と捉えていたサラ様が、問題の大きさに戸惑うのも無理はない。


「議長様、念の為確認しますけど…

 この問題、国として両国間で円満な解決ができるのであれば、ダルーガ伯爵の排除は連邦として問題無い、ということでよろしいですか?」


「…無論だ。わし個人としては、むしろその方が助かる」


 議長様、ちょっと悪い顔をしてるね…


「分かりました。つきましては、議長様に一つお願いがあるのですけど…」


「……なんですかな?」


 ちょっと警戒している?

 別に、大したことじゃないんだけど…


「傭兵ギルドへの紹介状をいただけないでしょうか?」


「むっ?」


 傭兵ギルド。

 連邦公認の非合法組織。

 かつてサマンサも所属していた組織で、サマンサほどではないにしろ、かなりの実力者が揃っているらしい。

 その顧客は連邦貴族や大商人といった上流階級の人間で、当然依頼料も高額。

 その分信用は絶大で、一旦契約を結べば、ほぼ裏切られる心配は無いという。

 ただ、この傭兵ギルド、有事の際の連邦の国軍という位置づけもあり、他国の者が利用する場合には、連邦議員の紹介状が必要になる。

 連邦最高議長様の紹介状なら、さぞ融通を利かせてくれるだろう。

 実は今回の旅の目的、こちらが本命だったりする。

 優秀な諜報員の確保。

 セーバ領内だけならともかく、ザパド領全体を調査できるほどの人員の余裕はセーバ(うち)にはない。

 現状帝国の調査で手一杯な王家にも、こちらの調査に回せる人員はいない。

 いないなら、他所から連れて来るしかないよね。

 どちらにしても、鉄道が敷かれれば、アメリア商会の活動範囲は大陸全体に広がって、かなりの人手が必要になるのだ。

 そのためにも、諜報員の確保は急務というわけ。

 まだザパド領の問題も解決していないうちに、連邦議長様への突撃訪問を強行したのも、これが目的だ。

 議長様に紹介状をもらうのも、傭兵契約をするのも、直接ラージタニーに行かないと無理だからね。


「ザパド侯爵、ダルーガ伯爵の排除のためには、事前の情報収集が不可欠です。

 ダルーガ伯爵にばれずに連邦議会が傭兵ギルドを動かすのは無理でも、他国のお得意様貴族に議長様が個人的に紹介状を書くのは、問題無いですよね」



 笑顔の少女に、「まぁ、それなら…」と、紹介状を渡す議長様。

 サマンサの件で魔法王家に紹介状を渡したこともあるし、連邦議員が関係の深い他国の貴族や商人に紹介状を書くのは、然程珍しいことでもない。

 連邦に不利益をもたらす相手ならともかく、今回はむしろ、連邦の問題を代わりに解決してくれるというのだ。

 実際、情報収集のための人員が足りないのも分かるし、土地勘のないダルーガ伯爵領を調べるのは、王国の諜報員では厳しいだろう…

 どれほどの事ができるかは不明だが、ダルーガ伯爵に関する調査をアメリア公爵が代わってしてくれるなら、多少の便宜を図るくらいはよいだろう。

 その行動が、(アメリア公爵)に翼を与えることになると連邦議長が気付くのに、然程の時間はかからなかった…


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