大陸横断鉄道計画3 〜連邦最高議長視点〜
(連邦最高議長視点)
「こんにちは、アメリアちゃん」
「こんにちは、タキリさん」
気さくに挨拶を交わす2人を見れば、その距離の近さは嫌でも分かる。
連邦の東に隣接する倭国は、我が領とは隣同士。
古くから交易も盛んで、互いに良い関係を作り上げてきている。
故に、わしと倭国皇家との関係も、それなりに良好ではあるのだが…
(今回は、わしの味方にはなってもらえそうにないな…)
「それで、タキリ殿。今回はどのようなご用向きで?」
分かりきったことだが、一応聞いてみる。
「それは、勿論、モーシェブニ魔法王国、ビャバール商業連邦、そして倭国の3国にまたがる、アメリア公爵主導の大陸横断鉄道計画に、倭国を代表して正式に参加を表明するためです」
「!?」
倭国を代表して?
正式に?
それは、つまり、倭国帝の承認が既に得られていると!?
「諸事情を鑑み、このような内々の訪問ではありますが、今回、私は、正式な倭国帝の名代として参りました」
そして見せられた書状は、大陸横断鉄道計画における倭国帝の全権委任状!?
つまり、この件を全てタキリ嬢に任せると!?
昔から娘に甘い奴だとは思っていたが…
「それで、議長様との話し合いの方は?」
「はい、お陰様で! まだ細かな調整はありますけど、連邦の計画への参加自体は決定です♪
流石は商業の国、話が早くて助かりました」
「なッ! いや、ちょっと待て!」
わしは慌てて2人の会話に待ったをかける。
確かに、わしはアメリア公爵の計画に連邦として協力すると言った。
その気持ちに嘘はない。
だが、それはあくまで内々での話であって、まだ国としての正式なものではない。
勿論、アメリア公爵の提案は連邦としても非常に興味深いもので、わしとしても計画実現への協力は惜しまないつもりだ。
だが、まだ議会の承認はおろか、領主や商人たちへの根回しすらも済んでいない状態で、国家間の正式な取り決めがされてしまうのは困る!
いくら計画の実質的指導者であっても、所詮他国の一領主に過ぎないアメリア公爵との話し合いであれば、後からの話し合いでどうとでもなる。
事はセーバだけの話ではなく、魔法王国、連邦、倭国全体に関わる話なのだ。
最終的には、モーシェブニ王家、倭国皇家の代表も含めての、しっかりとした話し合いが必要だろう。
こちらとしても、内陸交易路の問題があるため、それほど悠長にはしていられないとは思っている。
それでも、過去に例を見ない3国共同事業だ。
各国代表を決め、魔鳥便を何度も往復させての素案の作成。
最終的には、各国代表にアメリア公爵を加えての4者会談を行い、やっと正式な調印となるはずだ。
海路が整ったことで、以前とは比べ物にならないほど魔法王国〜連邦間の移動時間が短縮されたとはいえ、どう考えても正式な調印には一年近くは必要になるだろう。
それでも、ただお互いの国を使者が往復するだけで一年近くがかかり、国同士の条約締結に年単位の時間が必要だった頃を考えれば、調印まで1年と見積もれる現状は驚異的ともいえるのだが…
それでも、一年の猶予があれば、こちらも十分な根回しができる。
そう考えての計画への合意だったものを…
「いや、ちょっと待ってもらいたい。
先程の話は連邦議長としての正式なものではなく、あくまでわしの個人的な気持ちというか…」
倭国帝の正式な委任状を持った皇女殿下が加わるとなると、これは私邸での内々の話では済まされない。
まだ魔法王国側の代表が揃っていないとはいえ、4人の代表のうちの3人までが揃っているのだ。
ここで言質を取られては、それは連邦の国家元首としての正式な発言となってしまう。
幸い、わしが“計画に協力する”と言ったのは、タキリ嬢が押しかけてくる前。
今なら、まだ有耶無耶にできる!
「これは異な事をおっしゃいますね。
先程、アメリアお姉様の計画に全面的に協力すると、確かにおっしゃっていたと思うのですが」
「…ん?」
それまで黙ってアメリア公爵の後ろに控えていた娘が、突然口を挟んでくる。
見た目は少々幼いが、随分と魔力の多い娘に見える。
姿勢も良いし、護衛兼小間使いであろうと思っていたが…
先程、この娘、“アメリアお姉様”と言ったか?
「アメリア公爵と連邦議長様とのお話し合いの邪魔をしてはと、ご挨拶が遅くなり申し訳ございません。
わたくしの名はサラ・ド・モーシェブニ。モーシェブニ魔法王国の王女でございます。
この度は、国王陛下の名代として参りました。
これは、国王陛下よりお預かりした、大陸横断鉄道計画に関する委任状でございます」
それは、目の前の娘が魔法王国側の正式な代表であると証明するもので…
つまり、既に言質は取られていたということか!?
このような騙し討ちが許されるのか!?
いくらダルーガ伯爵への情報漏えいを警戒する必要があったからと言って…このような事が!?
思わず怒鳴りつけそうになる気持ちを抑え、改めて正面を見れば…
今そこに座るのは、わしの半分も生きておらん3人の小娘たち!?
倭国帝の名代たるタキリ皇女殿下。
モーシェブニ魔法王国国王名代たるサラ王女殿下。
そして、わしにとっての最重要取引相手であり、鉄道計画の実質的指導者でもあるセーバの街の領主、アメリア公爵…
事情と、年齢と、立場を考えれば、、ここでわしが大人気なく怒鳴る訳にもいかんか…
商業連邦の国家元首とは、この国で最もやり手の商人を指す。
それが、小娘にしてやられて、おまけに逆上したなどと…
それこそ、物笑いの種だ。
ここは、してやられたと笑って見せるしかあるまい…
かつて、似たような顔の娘とその父親にやり込められた事を思い出しながら、わしは小さく溜め息をついた。




