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【書籍発売中】転生幼女は教育したい! 〜前世の知識で、異世界の社会常識を変えることにしました〜  作者: Ryoko
第4章 アメリア、ダルーガ伯爵の野望を打砕く

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大陸横断鉄道計画2 〜連邦最高議長視点〜

(連邦最高議長視点)


「お金は、鉄道の恩恵を受ける土地の領主や商会に出してもらいましょう。

 無ければ、借りれば良いのですから。

 どうせこのままではジリ貧でしょうし、鉄道事業(この計画)は確実な投資です。

 早ければ数年で借り入れも返済できるでしょうから、悪い話ではないと思いますよ」


 この娘(アメリア公爵)は、何を言っているのだ!?

 つまり、こういう事か?

 お前(連邦)のところに(鉄道)を出してやるから、(鉄道)の建築費用はお前が出せ。

 お前のところ(連邦)も便利になるんだから、悪い話ではないだろう? と…


 また、随分と大きくでたものだ。

 確かに、内陸の交易路が廃れていく現状で、この鉄道計画は魅力的な提案だ。

 内陸に支配地を持つ領主や商会は喰い付くだろう…

 だが、現実にそのための費用を全額負担できる者が何人いるか…

 無い袖は振れない。

 この娘は借りればいいなどと簡単に言ってくれるが、そもそもそれだけの大金を融通できる金貸しなどそうそうおらん!

 連邦議会や商業ギルドが援助するにしても、限度がある。


 ただでさえ困窮している現状で、それだけの負担を強いれば、それこそ内乱の火種になりかねん。


「また無茶を言う…

 そもそも、それ程の資金を右から左に用立てられる金貸しなど、どこにもおらんよッ」


 相手は若い娘ということで多少抑えていた口調が、ついつい尖ったものになる。

 いくら商売上の大切な取引相手とはいえ、こちらも一国の代表を務めている身だ。

 所詮他国の一貴族に過ぎない小娘に、ここまで勝手を言われる(いわ)れはない!

 すこし大人の商談の仕方を教えてやろうと、軽い“威圧”を籠めて目の前の少女を射竦(いすく)めようとした瞬間!


「議長様♪」


 わしが魔力を放とうとした瞬間、そのタイミングを外すように、こちらに笑顔を向けてくるアメリア公爵…


「実は、今回の資金不足を解決する良い方法がございます。

 と、その前に、まずはセーバの“通信設備”についてご説明しますね。

 セーバ〜王都間で、一瞬で手紙のやり取りができてしまう画期的な技術なのですけど…」


 そうして語られたセーバの“通信設備”は、商業ギルドの魔鳥便など比較にならないとんでもないもので…

 しかも、もし大陸横断鉄道が完成すれば、それこそセーバ〜倭国間の手紙のやり取りすら、一瞬でできてしまうらしい…

 そんな事になれば、これまでの商売の仕方が根本的に変わることになる。

 情報を金に変える商人にとって、それは鉄道以上の価値とも言える。

 商人であれば、誰もが使いたがる技術だ。

 だが、そのような技術が普及すれば、商業ギルドの郵便事業は立ち行かなくなる…

 それどころか、郵便事業そのものが、セーバに奪われてしまうだろう。


「念の為申し上げますけど、セーバとしては郵便事業に手を出す気はありません。

 そちらは、引き続き商業ギルドの方にお任せしたいと考えています」


「……?」


「鉄道開通後は、商業ギルド用にも専用の通信回線をご用意しますので、ご自由にお使い下さい」


「なッ!! それは、セーバの所有する通信設備を使わせてもらうのではなく、商業ギルドが独自の通信設備を持てるということか!?」


「その通りです」


 こともなげに言ってくれる…

 ここで通信設備をセーバが独占するというなら、鉄道計画そのものの受け入れも考え直す必要があった。

 いくら有益な技術とはいえ、他国の者に自国の情報を一方的に握られるような状況は避けねばならん。

 だが、こちらも同じ技術を使えるなら、条件は同じだ。

 連邦の情報が他国に伝わりやすくなってしまうのは痛手だが、同じように他国の情報も得られるなら、商人としては悪い話ではない。

 鉄道計画だけの話なら、正直恩恵を受けるのは内陸に支配地を持つ領主や商人達だけ。

 純粋な利益だけを考えるなら、わしにとっては大した得は無い話だった。

 だが、通信設備は…

 連邦でも最も東の地を治めるわしにとって、大陸の西の端に位置するセーバは、距離的には最も遠い街になる。

 今は海路で繋がっているため交流もあるが、セーバの街が注目を集め始めた当初は、セーバの情報が全く入らず、状況判断に非常に苦労したものだ…

 今後もセーバとの関わり合いが続くなら、わしとしてもセーバの通信設備は是が非でも手に入れたい!

 だが、そのためには莫大な金がかかる…

 そんな風に悩むわしに、アメリア公爵から更なる爆弾が落とされる。


「…それでですねぇ、一つ商業ギルドでやってもらいたい新事業があるのですよ」


 その後、アメリア公爵から説明された事業とは、、銀行?

 要約すれば、それは他者から金を集め、それを別の者に貸す所謂(いわゆる)金貸し。

 正直、あまり良いイメージは無いな…


「はい、商業ギルドにやってもらいたい仕事は主に2つ。

 顧客の預金の管理と、有望な事業への融資です。

 当面の仕事は、商業ギルド会員を中心に預金者を募り、それを鉄道敷設を望む領主に貸し付ける事ですね」


「そんなもの、誰も納得せぬよ。

 借金と高い金利で出資者に縛られた領主は、貸した側の商業ギルドや預金者に悪感情を持つだろう。

 金利を抑えればその限りではないが、そうなると誰も自分の金を預けようなどとはせぬ。

 高い金利を取れば借りた者からの恨みを買い、金利を下げれば貸す者からそっぽを向かれる。

 間に立つ商業ギルドが苦労するだけの話だ」


 そう言うわしに、アメリア公爵は首を振る。


「いえ、商業ギルドの銀行業は、むしろ預金者の方にメリットが多いですから」


 そうして改めて説明された銀行業、、それは、従来の金貸し業とは全くの別物だった。

 まず、預金者は余分な金を商業ギルドに預けることで、屋敷の(くら)の警護にかかる高額な費用と、賊に奪われた場合のリスクを回避することができる。

 また、預けた資金は鉄道のある街の全ての商業ギルドで即時引き出すことが可能であり、商取引の旅の最中で、高額な金を持ち歩く必要もなくなる。

 旅先で急遽大きな商取引の機会に出会った場合、その街に自分の商会の支店があれば、そこで資金の調達は可能だ。

 だが、そうでなければ、その商機自体を諦めざるを得なくなる。

 商業ギルドから本店に魔鳥便を飛ばし、その後、必要な資金を届けさせるのには、それなりの時間がかかる。

 大商会であれば、商業ギルドの方で多少の資金の融通もできるが、それでも魔鳥便で何度かのやり取りをし、確かにそれだけの資金があると確認できるまでには、それなりの日数がかかる。

 故に商人は、常に大金を持ち歩かざるを得ず、常に護衛に金をかけ、賊の襲撃に備える必要があった。

 だが、セーバの通信設備を利用した銀行事業ならば…

 いずれかの商業ギルドに預けた金子の情報は、通信によって瞬時に世界中全ての商業ギルドで共有されることになる。

 そして、それをどこでも自由に引き出せるとなれば…

 特に遠方の地との大きな取引も多い大商人たちは、喜んで商業ギルドに資金を預けるだろう。

 そうして商業ギルドに集められた莫大な富を、有益な事業に投資していけば…

 現状資金不足に喘ぐ領主達に恩も売れるし、資金不足で停滞している事業も一気に進むことになる…

 これは、とんでもない金が動くぞ!

 連邦の、いや、世界の商売の仕組みが、根本的に変わることになる!!

 今までは商業ギルドへの加盟を敬遠していた国内外の商人や貴族も、これだけのメリットがあれば…


「鉄道の駅を利用すればいいので、銀行業もセーバ(わたし)がやってもいいのですけど、信用があるぶん商業ギルド(そちら)の方が適任だと思うんですよね」


「!!??」


 アメリア公爵は“信用”というが、鉄道の運営権を持つ時点で、セーバの“信用”は十分なものと言えるだろう。

 商業ギルドが行うよりは時間がかかるだろうが、セーバが銀行事業を行うことは十分に可能だ。

 ここは、何としても銀行事業の権利をアメリア公爵から勝ち取って…


 ふと、笑顔でこちらを見つめる目の前の少女を見て、わしは自分の敗北を自覚した…

 気が付けば、わしの頭の中では、知らぬ間に鉄道計画の実現は既定路線となっている。

 いや、通信事業に銀行業…

 そんな可能性(えさ)を目の前にちらつかされては、商人として拒否などできるはずがない!

 商業連邦を代表する商人として、是が非でもこの計画は実現させてみせる!


「……わかった。わしの負けだ。

 アメリア公爵の進める大陸横断鉄道計画、全面的に協力させてもらおう!」


「ありがとうございます!」


 満面の笑みを見せるアメリア公爵に、わしも思わず相好を崩す。


「だが、まだまだ道は険しいぞ。

 国内の連邦議員と商業ギルドの方はわしがまとめるにしても、事は3国をまたぐ大事業だ。

 モーシェブニ王家の方の説得がどこまで進んでおるかは知らんが、まだ倭国の方もある。

 タキリ皇女とは友人関係と聞いているが、倭国皇家の説得にはそれなりの時間もかかるだろう。

 わしも多少の口添えはできるが、ここは腰を据えて…」


 と、そこに、慌てたように屋敷の者が駆け込んで来る。


「なんだ、騒々しい! 今は来客中だ!」


「…それが、その、、新たにお客様が参られまして…」


「今は忙しい! 来訪の約束も無く突然押し掛けて来るような客など、待たせておけばよかろう!」


「それが、、お客様(アミー様)とも面識があるようで、構わないから取次げと…」


「むぅ? …誰だ?」


「…倭国皇女、タキリヒメ様でございます」


「なにッ!!??」


 目の前の少女(アメリア公爵)は、相変わらず微笑っていた…


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