連邦議長の憂鬱 〜連邦最高議長視点〜
(連邦最高議長視点)
「旦那様、ルドラ坊っちゃんは何と?」
「あぁ、できるだけ早く会いたいそうだ。
改めて嫁を紹介したいなどと、ぬけぬけと…
あの娘のことは2人が子供の頃から知っているのだ。
今更紹介もないだろうに…」
あの放蕩息子と結婚したアディと、息子の秘書をやっているダミニ孃のことは、3人がまだ子供の頃からよく知っている。
3人で仲良く遊ぶのを見て、どちらがわしらの義娘となるのかと、そんな話をよく妻としたものだ…
正直なところ、ルドラが選んだのがダミニ孃の方であれば、ここまで頑なな対応をせずに済んだのだが…
商人にとって、優秀な秘書は伴侶も同じ。
それが男女であれば、結婚することも珍しい話ではない。
周囲も納得しただろう…
だが、アディは商売とは全く関係の無い冒険者。
いくら冒険者としては一流であっても、連邦を代表する商人の妻としては如何なものか…
そんな苦言が、内外から多く聞こえてきた…
特に、自分の娘を息子の嫁にと狙う、有力者どもから!
当時、西のダルーガ伯爵と権勢を競っていたわしに、そういった反発をはね除ける余裕はなかった…
結果、ルドラとアディ、そしてダミニ孃もこの地を去り、わしは義娘を手に入れ損ねた妻から、事あるごとに嫌味を言われるようになった…
一体、わしにどうしろと言うのだ!?
あのダルーガ伯爵に連邦議長の座など与えれば、とんでもない事になるのは目に見えておるだろうに!
まぁ、そのダルーガ伯爵も、今ではだいぶ大人しくなった…(あくまで、表面上だが…)
実際、この状況を作り出してくれたセーバの街とアメリア公爵には、いくら感謝してもしたりないほどだが…
それに協力したセーバの商業ギルド長の功績も、文句のつけようがないもの。
そして、その妻はセーバの街の軍事の最高責任者…
連邦の出身でありながら、アメリア公爵の信任も厚く、夫である商業ギルド長との良い橋渡しとなってくれていると…
そんな2人の結婚にケチをつける者など、居ようはずもない。
当時アディをこき下ろしていた連中は、戻って来たアディの肩書を聞いて、今頃戦々恐々としておるだろうが…
今ポールブでアメリア公爵に嫌われては、商売が立ち行かなくなる者も多いだろう。
まぁ、その最たる者が、貿易港であるポールブと連邦東の商圏を与る、このわしなのだが…
「妻にも紹介したいから、できれば自宅を訪ねたいと書いてある…
ならば、さっさと帰ってくればよいだろうに!?
どうせ勘当された身だからとか、もっともらしい事を言うのだろう。
署名も、“セーバ支部ギルド長”、“セーバ自警団団長”と、役職入りだしな!
息子が嫁を連れて帰るのではなく、セーバの重役が連邦議長に挨拶に来ただけと言いたいのだろう。
当時の事情は2人も理解しているだろうし、アディはさっぱりした性格の娘だったからな…
これは、間違いなくアディを拒否したわしに対する、息子の意趣返しだろう。
家では妻に嫌味を言われ、今度は息子だぞ!
一体、わしにどうしろと言うのだ…」
「…良いではありませんか。
一時はもう息子とは呼べないと諦めていたのです。
息子と義娘が帰って来ることを、素直に喜んでおけば宜しいでしょう。
既に後継は別の者に定めてありますし、ルドラ様も今更セーバを捨ててここに戻りたいとは、考えていないでしょう。
純粋に、お二人の結婚を認めてもらいたいと、それだけでございますよ。
嫌味の一つや二つ、聞いて差し上げれば宜しいでしょう」
当時から秘書として、わしの公私の事情を熟知しているセバスはそう言うが…
「むぅ… ルドラがそんなタマか?
嫌味程度ならかわいいものだが…
2人の結婚を認めてもらいたいなどと、そんな理由でわざわざ帰ってくるか?
別に、わしが認めようと認めまいと、既に結婚しているルドラには何の影響もないのだ。
2人がわしに認められるだけの立場を得たからといって、態々あの息子が戻って来るとは思えん……」
「旦那様?」
「もしや、今回の帰国。結婚の挨拶の方が建前で、仲を認めさせる為に書いたと思われる肩書…
こちらの方が本命ではないか?」
「つまり、お二人は、仕事として内密に旦那様に接触するために、このような手紙を送ってきたと?」
「多分な… 店や議事堂ではなく、自宅の方を訪ねたいというのも、案外それだけ内密な話があるという意味かもしれん…」
「確かに… 坊っちゃんが戻られると聞いて少々浮かれておりましたが…
あのお二人の性格を考えると、そう考える方が自然ですな」
「セバス、不自然にならない程度に、早急に場を整えよ。
念の為、周囲に妙な者がいないかも注意しておけ。
もし、2人がセーバの、アメリア公爵の代理として来たのなら、話はそれなりに大きくなる可能性もある。
最近のセーバと魔法王国の動きについては、改めて情報を整理しておけ。
息子も義娘も、交渉相手となれば全く油断ならん!
情報不足は命取りになるぞ」
やれやれ…
違う意味で胃が痛くなってきたが…
あの2人がセーバでどれだけ成長したのか、それを見るのは楽しみでもあるな。
そんな風に呑気に考えていたわしは、後日…
本当の交渉相手がアメリア公爵本人で!
その内容は世界規模での鉄道事業計画で!
排除すべき障害は西の重鎮、ダルーガ伯爵!
久々に会った息子にそう聞かされ、呆然とすることになった…




