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【書籍発売中】転生幼女は教育したい! 〜前世の知識で、異世界の社会常識を変えることにしました〜  作者: Ryoko
第4章 アメリア、ダルーガ伯爵の野望を打砕く

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一流給仕への道

 と、いうわけで、早速女将さん(あらため)クーフェさんへの特訓が始まった。

 えっ?

 明日からよろしくお願いしますって?

 いや、いや、ダメでしょう!

 思い立ったが吉日。

 “明日から本気出す”は、やらない子の典型パターン。

 こういうのは、気分が盛り上がっているうちに、少しでも始めてしまうのが大切だからね。

 クーフェさんには初心にかえってもらって、猥雑な酒場ではなく、上品なカフェでの給仕の仕方を一から学んでもらいたい。

 そして、早速始まったサマンサ&レジーナの最強タックによる一流給仕への道……。


「音を立てて食器を置いてはいけません! もっと丁寧に!

 特に陶磁器の扱いには注意して下さい。

 焼き物というのは、ちょっとした衝撃でも目に見えない小さなヒビが入るものです。

 ですから、普段から高級な物に触れる機会の多い商人ほど、陶磁器の扱いには気を遣います。

 そういう仕事のできる商人にとって、クーフェさんの給仕は、ストレス以外の何ものでもありません。

 当然、そんな給仕をする店に、自分の大事な取引相手を連れて来ることはないでしょう。

 それこそ、自分の商人としての質を疑われることになります」


 とりあえず、やってみましょうということで、私達の座るテーブルに料理を運んできたクーフェさん。

 あっ、実際に料理は載っていないよ。

 あくまで練習だから、今はお皿だけ。

 で、早速説教されてるね。

 サマンサからのダメ出しに、今度は音を立てないよう恐る恐る皿をテーブルに置くと……。


「もっと自然な動作を心がけて下さい。

 この食器はいかにも高級ですと、お客様に感じさせるのは美しくありません。

 重いものは軽く、軽いものは重く、貴重なものほどさり気なく、ありふれたものほど丁寧に扱います」


 ただ皿をテーブルに置く動作を、ひたすら繰り返すクーフェさんだけど……。

 まぁ、難しいよねぇ……。

 音をさせないように気をつけると動作が遅くなるし、自然に置こうとすると音がする。

 それに、大切なのは皿を置く瞬間だけじゃない……。


「皿を置いた手を皿から離す時には、終わったやれやれではなく、もっとゆっくりと離します。

 恋人と離れるのを惜しむように、名残惜しい気持ちで皿から手を離すのです」


「……?」


「レジーナ、やってみせなさい」


「はい、サマンサ様」


 どうもサマンサの言う事がピンとこない様子のクーフェさんを見て、サマンサがレジーナにお手本を見せるように言う。

 そして、レジーナが見せたのは、ただ一枚の皿をテーブルに置くだけの動作で……。


「……きれい」


 それを真剣な目で見ていたクーフェさんの口から、思わず言葉が漏れる。

 実際、レジーナの見せた何気ない動作は、注意してみればその凄さがよく分かる。

 単なる置き方だけではない。

 その姿勢や、肘、掌、指先の角度まで、全てが緻密に計算されたもので、改めて公爵家(我が家)の侍女のレベルの高さを思い知らされるね。

 いや、これはむしろ、倭国のレベルと言うべきか……。

 私は偶に、サマンサやタキリさんに、茶道のお稽古をしてもらっている。

 明治以降にできた新しいお点前(てまえ)や、現代的な発想についての知識はあるものの、ベースとなる技術については、私よりもサマンサやタキリさんの方が圧倒的だ。

 なんたって、倭国皇家の茶道って、この世界の本家本元だからね。

 茶人としても有名な井伊直弼が開祖で、その技術を本気で伝えてきた一族……。

 まさに、家元!

 私が趣味で習ってきた“なんちゃって茶道”とは、モノが違う。

 倭国皇女であるタキリさんは勿論、たとえ分家筋とはいえ、同じイィの御技を継ぐ一族だったサマンサの技術も一流だ。

 そして、その技術が、公爵家の侍女部隊にはきっちり叩き込まれている。

 当然、レジーナにも……。

 魔法王国でも、倭国人の所作の美しさは有名だったりするからね。

 その本場(本家?)仕込みの所作は、公爵家(うち)はおろか、王家でも他国でも、どこに出しても十分通用するものだ。


「さぁ、やってみて下さい」


「む、無理ですゥ!」


 サマンサの言葉に、思わず答えるクーフェさん。

 まぁ、それも仕方がない。

 私から見ても、レジーナの技術は相当なもの。

 少なくとも、私にはできない。

 ただ何となく見ただけなら、たんに「きれいだね」で済むだろうけど、今のクーフェさんは違う。

 事前に自分でやってみて、それが如何に難しくて高度な技術かが分かっている。

 今の自分と、要求されている水準を比較できたことで、その難易度が実感できちゃったんだろうね。


「別にレジーナ並になれとはいいません。

 はっきり言えば、このカフェでそこまでの水準は必要ありません。

 あくまで、目標とする程度で構わないのです。

 それでも、一旦アミー(アメリア)お嬢様が指導をお引き受けした以上、途中で投げ出すことは許されません!

 クーフェさんには、()()()()給仕ができるくらいには、頑張っていただきます」


 サマンサとレジーナの有無を言わさぬ視線に貫かれ、クーフェさんは蒼い顔でぎこちなく頷いていた……合掌。


サマンサ教官の指導のネタ元は、利休百首という短歌形式の茶道の心得です。

カフェと見せて、実は久々の茶道ネタです。


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