魔道具街
今日の私達は、魔道具街に来ている。
ここには、魔法王国では見かけない珍しい魔道具が、たくさん売られているのだ!
ポールブに来て、既に3日目。
私達は目一杯この街での観光を楽しんで……いや、視察を……楽しんでいる?
市場にはこの街周辺の物以外にも様々な物が売られていて、そこはまさに連邦の縮図といった感じで……。
流石は連邦の誇る東の貿易港!
倭国や魔法王国の物だけでなく、国中の様々な特産品が集まってきている。
ここビャバール商業連邦は、各々の地域の経済を支配する貴族や有力商人が、お互いの利益の為に集まってできた国。
各々の地域では、その土地の風土や神殿の固有魔法等によって、独自の文化が形成されている。
例えば、ここポールブと首都ラージタニーを含む連邦の東の一帯。
これらの地域を治めるのはルドラさんのお父さんである連邦議長だけど、同じ支配地でもポールブとラージタニーでは文化がだいぶ違うらしい。
ここポールブは全体に石の文化で南ヨーロッパっぽい雰囲気だけど、これが倭国とも隣接するラージタニーになると、建築資材に木材も増えて、街の感じもだいぶ違うんだって。
ラージタニーも楽しみだ。
ちなみに、現連邦最高議長、ルドラさんのお父さんのご先祖様は、元々ポールブからラージタニー一帯の交易を仕切る商隊の家系だったらしい。
東の交易路を取り仕切り、傭兵を率いて商人を襲う盗賊を討伐し、交易路の途中に補給のための拠点を築き……。
そんなことをしているうちに、気が付けばこの東の一帯を治める代表のようになっていたとか。
そして、連邦建国後は、連邦の経済に最も影響力のある商人として、連邦最高議長の地位に就いたと。
『確かに連邦議長は私の父親ですが、私は別に王子様でも何でもありませんよ。
そもそも、“連邦最高議長”という肩書は、この国の経済に最も影響力のある人間に与えられる称号ですから、父親の商売を継ぐ気のない私には関係のないことです』
そう言ってルドラさんは笑っていたけど、これは別にこちらに対する気遣いとか謙遜とかではなく、そのまま真実らしい。
確かにルドラさんの家は、代々ビャバール商業連邦最高議長を務める家系なんだけど、それはそれだけの経済力があるからに過ぎないんだって。
逆に言えば、ルドラさんの家より儲かっていて、他への影響力の強い領地なり商家なりが出てくれば、その地位はあっさり交代になるそうだ。
『そういう意味でも、最も警戒しなければならないのが、魔法王国との国境と港湾都市バンダルガを持つダルーガ伯爵ってわけです。
最近はクボースト経由の貿易の不調と、セーバの商業ギルドがバンダルガを飛び越えてポールブとの取引を増やしているせいで、だいぶ力を削がれているみたいですが……。
一時は東に迫る勢いでしたから。
ダルーガ伯爵は強引な商売が多くて、連邦内でも何かと批判の多い男ですが、それでも“儲けが正義”の連邦としては、そうそう無碍にもできないってのが現状なんですよ』
セーバに近いバンダルガを飛ばして、わざわざ遠い東の貿易港との取引を増やすのは、自分の実家を贔屓してるから? とか思いきや、どうやらセーバに敵認定されているダルーガ伯爵の力を削ぐのが目的らしい。
多少の身贔屓はあっても、お互いの利益になるのなら、私としては全然問題無い。
実際、我がセーバの街の商業ギルド長は、よくやってくれているしね。
いつまでも、お互いにWin-Winの関係を維持していきたいものだ。
と、そんな理由もあって、とにかくポールブにはセーバ由来の商品が多い。
その中でも、ここ魔道具街は格別で……。
冷凍庫やポンプ等の大型魔道具からネジやバネ、各種金属素材といったものまで、セーバの街で開発された様々な物が売られている。
勿論、セーバの物だけではない。
逆に、セーバの街や王都では見たこともない魔道具もたくさん売られている。
例えば、溶接機?の魔道具。
これは、街中でも様々なタイプの物をよく見かけた。
建設中の家の壁。積み上げたレンガ状の石と石を、この魔道具で一つにする。
石だけではなく、高い建物の骨組みに使う鉄骨なんかも、これで固定したりする。
だから、同じ溶接?用の魔道具にも色々な種類があるんだって。
大型のもの、小型のもの、鉄用、石用、ガラス用……等など。
こういった魔道具を使って、少しずつ建物の壁を作っていくから、王国と比べて高層建築が多いんだよね。
あと、建設中の建物も……。
聞いた話だと、この街で普通建物を建てる場合、少なくとも完成には月単位の日数が必要なんだって。
当たり前? って考えるのは私とサマンサだけで、生粋の魔法王国人の3人は随分驚き、同時に感心していたよ。
思い起こせば、セーバの街で最初に学校を建てた時、私達の協力があったとはいえ、建物自体は数日で完成してしまった。
そう、通常魔法王国では、魔力の多い職人が一息に建物の壁一面を、下手をすると建物丸ごとを、魔法で作り出してしまう。
だから、大きな建物を手掛ける職人の職には、必然魔力量の多い者しか就くことはできない。
でも、ここ連邦では、そんなことはないらしい。
そもそもの作り方が違う。
この国で、主に活躍するのは魔道具だ。
まず石材をカットする魔道具でレンガ状にしたブロックを積み上げ、それを溶接?の魔道具で一つの石壁に変えていく。
それを繰り返すことで、高い壁が出来上がるってわけ。
だから、時間はかかるものの、完成した建物は魔法王国のものよりも大きく、精巧なものが多い。
いくら王国の職人の魔力が多いといっても、一人の職人が持つ魔力量で、3階4階建ての精巧な建物なんて作れないからね。
でも、このやり方なら、人と時間さえあれば、個人の資質など関係ない。
いくらでも大きな建物の建設が可能だ。
各々の用途に合わせて、細かく使用目的が分けられた魔道具。
ただ石を加工するだけでも、その種類は様々で……。
これは石を単純に切断する魔道具。
これは石をブロック状に切り出す魔道具。
これは石と石とを繋げる魔道具。
これは石を運ぶ時の重さを軽くする魔道具……等など。
とにかく、多い!
前世のDIYショップを思い出すね。
前世では電動器具で作られていた物が、ここでは魔道具で作られているって感じかな。
だから、魔法でぱぱって訳にはいかないけど、代わりに作業に従事できる職人は多くなるし、職人の魔力量以上の大きな物の作成も可能だ。
魔石を動力とする魔道具は、魔術師が直接使う魔法と比べると、とにかく出力が弱い。
最大でも10MPの出力が限界の魔石を使った魔道具では、大したことはできない。
それが魔法王国での一般的な魔道具の認識だけど、連邦では全然違うんだねぇ……。
一般には照明かライター、水筒代わり程度の扱いでしかない魔石が、何でそんなに売れるのか疑問だったけど、ここの魔道具を見ると納得だ。
たとえ10MPの魔法だって、10個同じ魔法を籠めた魔石を使えば100MP。
これなら、魔力の多い魔術師と同じことができる。
魔法王国が個人の才能(魔力量)重視なのに対して、連邦は誰でもできる方法を確立することで、作業に関われる人数を底上げしているわけだ。
私は王国の魔力至上主義に対して、魔力量ではなく魔法の質を上げるって作戦を取ってきたけど、こういうアプローチもあるんだねぇ……。
そんなことを考えながら、色々なお店を見て回った私達は、遂に目的の店に到着した。




