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【書籍発売中】転生幼女は教育したい! 〜前世の知識で、異世界の社会常識を変えることにしました〜  作者: Ryoko
第3章 アメリア、教育改革をする

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自分のことは自分で 〜ライアン王太子視点〜

(ライアン王太子視点)


 翌日から、予定されていた野外訓練が始まった。

 と言っても、それは特別に変わったものではない。

 午前中は気功法や太極拳といった魔力操作の訓練、剣や無手での格闘術。

 全て学院や王宮でやっていたことで、特に目新しいものではない。

 気功法や太極拳に関しては、私とソフィア嬢、ユリウス以外の学生は初めてということで、皆からは多少の戸惑いも感じられた。

 それも、アメリア公爵推奨の魔力操作の訓練と言われれば、文句など出ようはずもない。

 皆が、積極的に訓練に参加していた。

 もっとも、訓練に目新しいところが無いというだけで、訓練自体が楽な訳では決してない!

 王宮での限られた時間の中での訓練とは違い、ここではタップリと時間がある。

 気功法なんて、ただ立っているだけ?

 この姿勢で、動かずにじっとしているだけでいいのか?

 そんな風に考えていた学生の手足が震え出すまでに、然程(さほど)の時間はかからなかった。

 太極拳も(しか)りだ。

 午前中の訓練が終わる頃には、皆が地面にへたりこんでいた。


 そして、午後からは!

 なんと! 自由時間だ!

 正確には、()()時間だが……。

 特に決められた訓練メニューがあるわけではない。

 野営地の外に出る場合には許可が必要だが、それ以外なら何をするも自由だ。

 午前中に習った魔力操作の訓練を続けるも良し、訓練で疲れた身体を休めるも良し。

 ただ、今後のことを考えるなら、食糧確保に当てるのが一番か……。

 この野外訓練における基本ルール。

 自分のことは自分でする。

 働かざる者食うべからず。

 つまり、自分たちが食べる食糧は、自分たちで確保せねばならない。

 魔物を狩る、野草を採取する、それらを調理する。

 全て、自分たちの手でする必要がある。

 幸い、今のところは大量の魔物肉がある。

 だが、それも1ヶ月は保たない。

 肉は、数日で腐るからだ。

 氷で冷やしたり、干し肉加工したりすれば、日持ちはする。

 ただし、それをするのも我々自身だ。

 そして、その成果にありつけるのは、その作業に貢献した者だけ。

 何の貢献もしなかった者が、そのおこぼれに(あずか)る事は許されない。

 たとえ王太子であってもだ……。

 獲物を発見した者、狩った者、それを調理した者。彼等にはその料理を食べる権利がある。

 だが、それ以外の者に食べる権利は無い。

 一つの作業を複数人共同で行ってもいいし、一人でやってもいい。

 だが、身分や家同士の繋がり、友情などを理由に、役に立たない者がグループに寄生することは許されない。

 これがルールだ。


 そんな中、女生徒たちが集まって何やらやっている。

 あれは……洗濯か?

 当然のことながら、我々の衣服はだいぶ酷いことになっている。

 一応着替えの衣服はあるが、当然一月(ひとつき)分の着替えなど持ってきている者はいない。

 そもそも、我々は数日で帰るつもりだったのだ。

 男性はともかく、女性は気になるだろう……。

 本来なら、洗濯など侍女の仕事だ。

 そして、王宮に勤める一流の侍女は、洗濯に水など使わない。

 土魔法で衣服の汚れを抜き取るため、その作業は美しく、一瞬だ。

 平民の多くは汚れた衣服を水で洗い、それを日の光で乾かしたりするそうだが、上位貴族の屋敷ではそのような事は行われない。

 当然、上位貴族の彼女達は、普段自分の家の侍女たちがするように、土魔法で衣服をきれいにしようとした。

 結果、数少ない手持ちの衣服を駄目にしてしまう者が続出した。

 繊維に染み込んだ汚れを、繊維を傷つけることなく抜き取るというのは、かなり繊細な魔力操作が必要なようで、我々貴族が考えている以上に難しい技術らしい。


 そんな訳で、早々に土魔法による洗濯を諦めた彼女たちは、目下水を使った手洗いによる洗濯を試みているらしい。

 もっとも、これもそう簡単なものではないようで……。


「あっ、木桶から水が漏れてますわ!」

「……だって、私、木魔法はあまり使ったことがなくて……」



「こちらは土を固めた金魔法……。木材と違ってひび割れなどありません!」

「あぁ! 水が濁ってますぅ……」

「桶は石だけで作らないと、いくら固めても土は溶けますから……」

「そんなこと言われても、土と岩を完全に分離するなんて……」



「うわぁ、水、大き過ぎです! 水浸しじゃないですか!」

「ッ!? 桶に丁度良く入る大きさのウォーターボールなんて、そんな都合よく作れませんわ!」



 衣服の洗濯をするためには、まず桶が必要で、桶は森の木々や岩から自分達で作り出すしかない。

 井戸の使用は禁止されているので、水も魔法で適量を作り出すしかない。

 もう衣服の手洗い以前の問題で、洗濯のための準備の段階で逆に泥だらけになっている者もいる。

 全身ずぶ濡れになりながら、それでも貴族女性の矜持として、いつまでも薄汚れた衣服を着続ける訳にはいかないと、彼女達は洗濯物と格闘していた。


 そして、悪戦苦闘しつつも何とか手持ちの衣類の洗濯をやり終えた彼女達が、次にやったのが自分達自身の“洗濯”。

 つまり、行水だ。

 勿論、中を覗かれないよう、周囲を岩壁で囲ったスペースでだが……。

 中からは、(かしま)しい女性達の騒ぎ声が聞こえる。

 いや、悲鳴か?


「きゃぁ!! 火! 火が強過ぎます!」

「水、無くなっちゃう!」

「熱っ!!」

「いやぁ!! 桶! 桶が燃えてます!!」


 どうやら、桶に張った水を火魔法で温めようとして失敗したらしい。

 中の惨状は想像するしかないが……。


 結局、お湯は諦めて、水での行水を済ませた女性陣は、皆疲れ切った顔をしていた。

 そんな彼女たちの視線が、野営地の一角に釘付けになる。

 それは、昨日の襲撃の後、セーバから来た者たちが幾つか建てていた建物の一つ。

 その一つから、白い煙が漏れ出している……。


(いや、湯気か?)


 丁度その小屋の扉が開き、中から一人の少女が出てくる。


(レジーナ嬢……)


「お先にいただきました。

 お湯は張り替えておきましたので、次の方は早めにどうぞ」


 そう周りにいるセーバの兵士達に話しかけるレジーナ嬢。

 訓練時よりもラフな格好に身を包んだ彼女の頬は、うっすらと上気したピンク色で……。

 かきあげた髪のせいで後ろから見えるうなじが……いや、いや、いや!

 そうではなくて!


(あれは、風呂上がりなのでは?)


 そう考えたのは私だけではなく……。


「あ、あの! レジーナ先生! も、もしかして、ここって、お風呂ですか?」


 慌ててレジーナ嬢に駆け寄り、彼女に真相を尋ねる数人の女生徒たち。


「はい、そうですが」


 当たり前のように答えるレジーナ嬢に、彼女達が期待の籠もった目で尋ねる。


「あ、あの! 私達もここを使うことは……」


「ええ、勿論、できません。

 ここは、私とセーバの人達で作ったお風呂ですから、他の人は利用できませんよ。

 学生の皆さんは勿論、学院の先生方や騎士の方々もです。

 ここの野営地は広いですし、入りたければ別の場所にどんどん作ってもらって構いませんよ」


「「「「「………………」」」」」


 それは、少なくとも、ここにいる女性陣にとっては死刑宣告に等しく……。

 その場に集まった女生徒だけでなく、遠くで密かに聞き耳を立てていた女性教師や女性騎士までが、レジーナ嬢の言葉に打ちひしがれていた。


 ………………


 だが、彼女達は諦めなかった。

 いや、もしこの野営地に、風呂などというものが初めから存在していなければ、彼女達も諦めたかもしれない。

 いくら長期間とはいえ、そもそも野営地で風呂に入りたいなどと望むことが間違っている。

 そう、思えたかもしれない。

 だが、現実にセーバの者は簡単に魔法で風呂を作り出し、野営地でありながら清潔な容姿を維持しているのだ……。

 わずか数日でカサつき始めた肌。

 薄汚れた衣服。

 こんな状態が、あと一月(ひとつき)近くも続くというのか!?


 その後の、午前中に行われる魔力操作の訓練への取り組み。

 午後の自由時間を最大限に使っての、風呂作りと必要な魔法の訓練。

 夜には、皆で集まって、どうすれば風呂が完成するかの試行錯誤の繰り返し。


 女性陣は、本気だった。

 そして、その熱意は、ある発想の転換によって報われることとなる。


 小さな魔法がうまく使えないのなら、風呂の方を大きくすれば良いのでは?、と。


 無意識に、自分達が屋敷で使っていた風呂や、セーバの者たちが作った風呂を想像していた。

 精々数人が一度に入れる程度の、小さなものを……。

 だが、ここに集まるのは、全員が上位貴族。

 魔力には、余裕がある。

 ならば、それこそ全員が一度に入れるような大きな風呂を作ってしまえば、ウォーターボールで水を張るのも、ファイアボールで湯を沸かすのも、ずっと楽なのでは?


 その数日後、彼女達の理想の風呂は完成した。

 その浴槽は、ここにいる女性陣全員が一度に入れるほどに広い。

 その広さの風呂を収める建物を建てるのは、建築技術的に難しいと判断し、周囲は高い壁で囲むだけとし、屋根は作らなかった。

 実際、屋根のある屋内で、水魔法や火魔法を使うのは危険を伴う、という判断もあった。

 そうして完成した風呂は、ゆっくりと湯に浸かりながら、大森林の澄み渡る空を眺められる、素晴らしいものとなった。

 完成した風呂を見たレジーナ嬢は、素晴らしい“露天風呂”だと言っていた。

 我が国には、屋外で風呂に入るという習慣は無い。

 だが、倭国にはそういった文化が昔からあるようで、これは話に聞いた“露天風呂”にそっくりだと、彼女達の努力と着想を高く評価していた。


 そんな我が国初の露天風呂は、勿論男子禁制。

 軽い水浴びだけで、大して不都合は無いと済ませていた男性陣に対する女性陣の目が冷たくなり、それに耐えかねた男性陣の手によって、男性用の露天風呂も数日後には完成した。


 その後も、この野営地での過酷な訓練は続いたが、訓練の後にゆっくりと湯に浸かる一時(ひととき)は、我々に心地よい安らぎを与えてくれた。



 その後、この通過儀礼(イニシエーション)に参加した者たちによって、モーシェブニ魔法王国には露天風呂の文化が根付いていくことになる。

 そして、この国で初めて露天風呂が作られた大森林の西の地は、魔法王国における露天風呂発祥の地として、国内有数の温泉保養地に発展していくのだった。



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