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【書籍発売中】転生幼女は教育したい! 〜前世の知識で、異世界の社会常識を変えることにしました〜  作者: Ryoko
第3章 アメリア、教育改革をする

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200/321

勝算 〜ライアン王太子視点〜

(ライアン王太子視点)


「敵襲!!」

「敵襲!!」

「警戒レベル3! 全員所定の配置につけ!!」


 自分のテントで仮眠を取っていた私は、周囲の声に慌てて飛び起きると、急いで司令部のあるテントへと向かった。

 まだ周囲から戦闘音は聞こえてこない。

 恐らく、レジーナ嬢かセーバの兵士が、“けん”によって敵の接近に気付いて、知らせてきたのだろう。

 まだ、多少の時間はあるか?

 セーバの者たちの“けん”は優秀だ。

 全周警戒ならともかく、特定の方向に限定しての索敵なら、かなりの距離の敵も捉えることができるらしい。

 そんな彼等は今、複数人で分担しながら、かなりの広範囲を索敵しているという。

 万が一に備えて……。

 彼等は、数匹程度の魔物が近づいて来たくらいでは、こちらにその情報を伝えてはくれない。

 これはあくまでも通過儀礼(イニシエーション)の試練。

 余程のことがない限り、たとえ死ぬような目にあっても手助けはしない。

 レジーナ嬢には、そう言われている。

 魔物の監視をするのも、魔物の発見が遅れて危機的状況に陥るのも、試練のうちだと……。

 そんなセーバの者たちが、いち早く情報を皆に伝えるべきと判断するレベルが、警戒レベル3。

 事前の取り決めでは、多数の敵が殺到し、ここにいる全員での総力戦による対処が必要なレベル。

 つまり、もうしばらくすると、ここに魔物の大群が押し寄せてくるということだ!

 テントで休んでいた者も慌てて飛び出し、次々に事前に決められた配置についていく。

 パニックになるような者はいない。

 最初のワイルドボアの襲撃から今までに、既に10回以上も魔物の襲撃を受けている。

 複数の魔物が同時に襲ってくることもあった。

 初めこそ間近に迫る魔物に怯えていた者たちも、今では落ち着いて状況に対応できるようになっている。

 それでも、彼等に油断は無い。

 むしろ、あるのは不安。

 事ここに至って、誰もが今の状況が異常だと理解している。

 たとえ大森林であっても、これだけの規模の集団が、これ程頻繁に魔物に襲われることはないという事。

 今の状況が、誰かしらの人為的なものである可能性が高い事。

 最後に、もっと大規模な襲撃の可能性について。

 初めはあくまでも可能性と半信半疑だった者たちも、これだけ頻繁に起こる魔物の襲撃を前にしては、現実を受け入れざるを得ない。

 もう、気にし過ぎだ、偶然だでは、誤魔化しきれないのだから……。

 幸か不幸か、今までの度重なる襲撃が、皆の心構えを作った。

 もう、やるしかない! と……。


 作戦本部に集まった主要メンバーを前に、レジーナ嬢が今の現状を説明していく。


「……現状分かっている最大の脅威は、西側から接近中のウルフの群れと、北側から向かって来ているオークの群れです。

 どちらも、100は下りません」


「なッ!?」


「それ以外にも、ちょこちょこと接近してきている魔物はいるようですが、当面の課題はこの2つの群れの撃破でしょう」


「無理だ! 今からでも至急生徒の避難を……」


「いや、今からではどうせ間に合わん!

 下手に動くよりはこのまま城壁内に籠城して、助けを待つしかあるまい……」


 レジーナ嬢の言葉に、青ざめて言い募る主任教師と騎士隊長。

 いや、青ざめているのは皆同じか……。

 レジーナ嬢を除いてだが……。


「コホンっ、

 上に立つ者が取り乱してどうしますか!

 もっと、落ち着いて下さい。下が動揺します」


「「………………」」


 レジーナ嬢の一喝に場が静まり返る。


「まず、騎士隊長様がおっしゃるように、この場を逃げ出すのは論外です。

 ですが、籠城も得策ではありません。

 籠城とは、守る側に十分な食糧があり、援軍が期待できる場合の戦略です。

 大体、こちらにはこれほどの数の上位貴族がいるのですから、殲滅してしまえば問題ありません」


 当然のように言うレジーナ嬢を見ていると、そういうものかという気がしてくるが……。


「いや、レジーナ先生は殲滅と言うが、そう簡単なものではないでしょう。

 確かに、ウルフやオークなど、上位貴族の魔法なら簡単に倒すことができる。

 まだ経験の浅い学生達はともかく、我々がウルフやオーク程度の魔物に後れをとることなどないでしょう。

 ただし、それは、相手が数体程度の場合だ。

 いくら貴族は強力な魔法を使えるからと言っても、魔力量には限りがある。

 無限に戦い続けられる訳ではない。

 これほどの数を相手にするとなれば、確実に魔力切れを、」


 そう力説する騎士隊長の言葉を軽く手を挙げて遮ると、レジーナ嬢は部屋の隅に置かれた両手で持てる程度の箱を持ってくる。

 その箱の中身は……。


「こ、これは!? 魔力回復薬!?」


 その数100本以上!?

 騎士隊長曰く、それは王都軍の備蓄在庫に匹敵する数で……。


「厳しい訓練になれば必要になるかと思い、学園から持ってきました」


 事も無げに言うが……。

 この世界における魔力とは、そのまま金銭に換算できるものだ。

 1000MPで金貨1枚。

 つまり、使った魔力を短時間で回復させることのできる魔力回復薬は、そのまま金を生む薬と同じこと。

 当然、その値段は高額で、魔力回復薬1本で金貨5枚は下らない。

 入手も困難で、このような訓練でホイホイと使われるようなものではないはずだ!

 そんな貴重な薬を、これだけの量簡単に揃えてしまうセーバに、空恐ろしいものを感じるが……。


 ともあれ、これなら勝算はあるのか?

 目の前に置かれた大量の魔力回復薬を前に、皆が覚悟を決めた顔をしていた。


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