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【書籍発売中】転生幼女は教育したい! 〜前世の知識で、異世界の社会常識を変えることにしました〜  作者: Ryoko
第3章 アメリア、教育改革をする

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警戒 〜レジーナ視点〜

(レジーナ視点)


「この辺りの魔物は大したことはありませんから、あれだけの人数がいれば運が良ければ襲われません。

 襲われれば全滅でしょうけど……。(まぁ、ふつうは全滅でしょうね……)」


 ()()()運が良くなければ、まず助からない。

 まぁ、それはどちらでも構いません。

 いや、個人的には、いっそ魔物の餌になってもらった方が面倒がなくて良いとさえ思いますし……。

 大した影響も無いから見逃していただけで、あの貴族の娘はソフィア様だけでなく、アメリア様の悪口まで触れ回っていた。

 おまけに、あの娘の父親のボダン伯爵には、お父さんがまだザパド領のレボル商会で働いていた頃、相当に苦労させられたようですし……。

 実際、フェルディさんの話を聞く限り、ボダン伯爵の統治はかなり酷いもののようです。

 民のこと、街のことを一切考えず、行き当たりばったりに自分の目先の利益のみを追い求める。

 国の国境を預かる街の重要性など全く理解せずに!

 典型的なダメ貴族……。

 別に、この国の貴族が全て悪いと言うつもりはありません。

 アメリア様の側近として働くことで、最近は貴族、王族の方たちとお話する機会も増えましたし……。


(ちょっと前までは考えられなかったけど……)

 

 だから、昔はただ威張っているだけだと思っていた貴族が、意外と平民のことも考えて政治をしていることも、今では理解しているつもりです。

 アルトゥーロ様やディビッド様だけではない。

 王妃様やユーグ侯爵、ボストク侯爵も良い方でした。

 他の貴族にしても、こちらに相応の実力があると分かれば、快く対応してくださる方は多かったですしね。

 彼等貴族の価値観は意外とシンプル。

 平民には貴族と対等に付き合えるだけの能力が無い。

 だから、対等に扱うことはできない、というもの。

 それは、大人が小さな子供に対する感覚に似ている。

 良くも悪くも対等に接する相手ではない。

 差別ではなく、区別。

 だから、こちらに対等に付き合えるだけの力があると示せば、それなりの扱いをしてくれる。

 勿論、中には能力云々に関係なく、頭から身分で人を見下してくる輩もいます。

 でも、それは、平民同士でも同じこと。

 別に、貴族に限ったことではない。

 お父さんは、貴族が如何に危険なのか、横暴なのかを行商で王都に行く度に話してくれました。

 あの言動は、小さな娘が不用意に危険に近づかないようにという、お父さんの教育だったのでしょう。

 でも、それは、多分にお父さんのザパド領時代の経験が影響しているように思えます。

 今の私は、あの時お父さんが言っていたほど、この国の貴族が悪いとは考えていない。

 ただし、ザパド領の貴族に限って言うなら、確かにお父さんの言っていたことは間違っていません。

 あれは、ダメですね。

 少なくとも、今現在学院に通うソフィア様以外のザパド領出身の貴族に対しては、将来的には大幅なテコ入れが必要になるでしょう。

 ソフィア様がザパド侯爵となり、本格的にアメリア様の鉄道計画が始まれば、いずれにせよクボーストの代官の差し替えは決定事項。

 別に、今あの娘に何かあってボダン伯爵の心象が悪くなったところで、こちらとしては痛くも痒くもありません。

 この通過儀礼(イニシエーション)で誰が死んでも、アメリア様に責任は問わないという根回しは、既に王妃様が済ませていますし……。


 とはいえ、あの娘は無事に森を抜けるでしょう。

 恐らく、“敵”の手引によって……。

 自分の命を犠牲にすることで、セーバ領に汚点を残す?

 あの娘が、そんな領地想いとは思えません。

 かといって、ただの我儘お嬢様なら、ここに来るまでに何の問題も起こさなかったのはおかしい。

 あれはこちらを狙う襲撃者のスパイで、こちらの野営場所や人数等を把握するためにここまで来た……。

 これが可能性としては一番高い。

 今回の通過儀礼(イニシエーション)に使う野営地の正確な場所は、セーバの関係者しか知らなかった。

 学生は勿論、王都から来た教師や騎士達も、ただ大森林で訓練をするとしか聞かされていなかった。

 彼女は野営地の正確な場所と状態を確認するために同行し、それを知らせるために戻って行った。

 そんなところでしょうか……。

 まぁ、どちらでもいいです。

 私達が森に入って行くところを確認できれば、いずれにせよこちらの大まかな場所は相手に知られることになる。

 あの娘がこの野営地で確認できることなど、高が知れている。

 何か事が起こる前にあれを尋問などできない以上、下手にここに置いておいて背中から攻撃されるより、多少の情報を渡して放り出すほうが余程マシ。

 それより問題は、敵の襲撃者。

 セーバ領での通過儀礼(イニシエーション)の実施が決まってから、これまでに不自然な人の流入は確認されていない。

 これだけの人数を襲うのであれば、それなりの人数が必要なはずですけど……。

 この野営地にしても、事前に罠や危険な魔物の有無を確認し、不審者が近寄らないよう監視もしていた。

 前回の列車襲撃の時のような動きは、一切確認されていない。

 そうなると……最も警戒すべきは、少人数の襲撃者による王太子殿下一人を狙った暗殺?

 ……実際は、この通過儀礼(イニシエーション)を狙った襲撃計画など無くて、頭の足りない我儘娘が勝手に飛び出して行っただけ、という可能性も捨てきれませんけど……。

 いずれにしても、警戒しておくに越したことはないですね。


(おやっ?)


 こちらに近づいてくる魔物がいる。


(あれは……ワイルドボア?)


 魔力の大きさから判断して、Cランク程度。

 群れではなく単独である点を考えると、この辺りの森ならワイルドボアの可能性が高い。

 それが、警戒しつつも真っ直ぐこちらに向かって来る。

 でも、あの魔物がこれだけの人が集まる場所に近づくのは珍しい。


(人を襲った魔物かも?)


 ワイルドボアは基本臆病で、無闇に人を襲ったりはしない。

 でも、人の味を知っているのなら別。

 過去に何かしらの理由で人と交戦し、人を仕留め、その肉を喰った魔物は、自発的に人を襲うようになる。

 魔物は賢い。

 たとえ魔力が高くても、たとえ人数が多くても、あの生き物(人間)は弱いと学習していれば、魔物は迷わず人を襲う。

 あの程度の魔力でこちらに近づいて来るのなら、恐らくそういう個体。

 魔物の反応のある方向を見ていると、セーバから連れて来た兵士の人達が少しずつ集まって来る。

 皆、ちゃんと気が付いていますね。

 ただし、声は上げない。

 私達が介入するのは、本当に危険な時だけですから。

 そうでなければ、訓練になりませんしね。


「みなさん、注意して下さい! 魔物が近づいています!」


 私が魔物の動向に注意を払いつつ周囲を観察していると、一人の学院教師が声を上げます。

 まだまだ気づくのが遅いですね。

 それでも、護衛の騎士よりは早いですけど……。

 学院の実技教師の指導を始めて、そろそろ1年。

 実戦での魔力感知はまだまだと……。

 それでも、その辺の騎士よりは使えるようになっている。


(……ソフィア様とユリウス様は、補習決定ですね)


 学院教師の注意喚起に、慌てて集まり出す騎士と生徒たち。

 そして、森の陰から、人の倍ほどの巨体がゆっくりと姿を現した。


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