表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【書籍発売中】転生幼女は教育したい! 〜前世の知識で、異世界の社会常識を変えることにしました〜  作者: Ryoko
第3章 アメリア、教育改革をする

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

193/321

ライアン殿下の教育方針

 セーバ式のブートキャンプかぁ……。

 サラ様と違って、学院の生徒って魔法も格闘もまだ初級レベル(学園基準)だし……。

 とはいえ、大森林でのブートキャンプをサラ様が経験したのは、王都の学院入学よりもずっと前……。

 既に成人間近の王太子殿下なら、何の問題も無い……のかなぁ……?

 あっ、でも、ザパド領で私がサマンサ教官のブートキャンプを受けたのって、7歳の時だ……。

 7歳児に盗賊討伐させるなんて、なんて非常識な!

 あの頃は、まだ他に比較対象になる貴族の子供とか知らなかったから、異世界の貴族は大変だなぁ、とか思ってたんだけど……。

 どうやら、あれは成人間近の貴族に要求される、本気の通過儀礼(イニシエーション)だったらしい。

 子供に何やらせてるんだか……いや、実年齢は3……十分大人ですけどね!

 でも、そう考えると、よくあの時、王妃様は大森林の調査にサラ様を参加させたなぁって……。

 ゴーレムの事は不測の事態だったけど、火蜥蜴(サラマンダー)がいる事は分かっていた訳だからね。

 王都の学院に来て、この国の多くの同年代の貴族の子供を見た今なら分かる。

 あれは、王族としてのサラ様の立場を作る目的にしても、かなり無茶苦茶だ。

 いくら私やサマンサが付いているにしても、ちょっとやり過ぎだと思う。

 まぁ、結果として、あのゴーレム討伐で王族としてのサラ様の足場は、確固たる物になったんだけどね。

 改めて考えると、サラ様への教育って、相当に厳しいよねぇ。

 一見放任主義で、好き勝手にさせているようにも見えるけど……。

 本来は侍女や家庭教師に囲まれて、王宮で手厚く教育されるべき立場の子供を、よく分からない辺境の街で、平民の子供と一緒に勉強させるとか……。

 今でこそセーバリア学園はそれなりに有名になったけど、サラ様がセーバの街に来た時点では、辺境にあるただの平民のための学校って認識だからね。

 そんな所で王女様が勉強することを許可するなんて、普通はしないよね!

 ただ、結果として今のサラ様の実力は、同年代はおろか、王宮の大人の貴族達とも対等に渡り合えるだけのものになっている。

 セーバの街に来た当時の王宮でのサラ様の評価を考えれば、王妃様の教育方針は大正解だったんだと思う。

 でも、そうすると、逆に分からないことがある。

 それは、ライアン王太子殿下に対する教育方針。

 王妃様が普段から厳しい人だってのは知ってたけど、ライアン殿下にはそうでもないのかなって……。

 やっぱり息子には甘いのかなぁ、とか……?

 だって、ライアン殿下とサラ様の扱いって、だいぶ違っていたからね。

 流石に次期国王ともなると、同じ兄妹でもサラ様のような無茶な教育はできないのかなって……。

 でも、現状サラ様とライアン殿下の実力にここまでの差ができちゃうと、そうも言っていられないと思うんだよね。

 周囲だって、王位はサラ様の方が相応しいとか言い出しかねないし……。

 本当にライアン殿下を次期国王にする気があるの?って、言いたくなっちゃう。

 今回、ライアン殿下をセーバ式の通過儀礼(イニシエーション)に参加させることや、先程の言動を考えると、完全に甘やかすつもりでもないみたいだし……。

 良い機会だし、ここはライアン殿下の教育方針について、親御さんの意見をしっかりと聞いておこう!


 と、言うわけで、その辺りを王妃様に確認してみたんだけど……。

 王妃様には、というか、王家には別の思惑があったみたい。



「簡単に言うと、ライアンは常識人代表なのよ。

 ライアンやサラの世代、この国は、いえ、この世界は大きく変わるわ。

 ソルン帝国のこともあるし、アメリアみたいなイレギュラーも生まれたしね」


「イ、イレギュラーですか……」


「実際、この10年足らずで、この国は大きく変わったわ。

 そして、この流れは今後はより一層激しくなるでしょう……。誰かさんのせいでね。

 そんな中で、サラと同じようにライアンまでがアメリアに同調するような考え方を持ったら、どうなるかしら?」


「……?」


「ついて来れない者がでるわ」


「!?」


「いくら良いものでも、全員があなたの考えを受け入れられる訳では無い。

 実際、今でも一定数の貴族は、状況の変化について来れていないわ」


「…………(これは、織田信長のパターンかな……)」


 信長って、連発できない鉄砲を3段撃ちにした長篠の戦いとかで有名だけど、実は凄いのはそこではないと思う。

 凄いのは、その状況を可能にしたことだ。

 鉄砲の有用性は他の戦国大名も知っていたし、長篠の戦いの話を聞けば、他の武将だってその作戦を真似ようとしたと思う。

 でも、できなかった。

 そんなに大量の鉄砲を買うお金も、買い付ける商人の伝手(つて)もなかったから……。

 更に言うなら、鉄砲隊って、普通は身分の低い平民がなるものだからね。

 戦闘技術とかなくても、言われた通りに引き金を引くだけでいいわけだから、一騎当千の武将なんかにやらせる訳がない。

 信長の鉄砲隊の作戦を実行する為には、潤沢な資金と、商人とのコネクションと、身分を完全に無視した人材登用が必要ってこと。

 潤沢な資金確保の為に信長がやった“楽市楽座”は、既得権益を持つ寺社や公家、組合(座)を完全に無視するやり方だった。

 当時力のあった一向宗とかの自治は断固認めなかったのに、堺の商人とかの自治は認めた。

 (いくさ)で活躍するのが出世の機会と考えられていた時代に、その機会を古参の武将にではなく、鉄砲隊(ただの平民)に与えてしまった。

 信長のこういった徹底した合理主義は、急激に領地を発展させたけど、それを面白くないと思う人も多かったと思う。

 結果、織田信長は天下統一間近というところで、部下の明智光秀に殺されてしまった訳で……。

 貴族無視、魔力量無視、平民重用、貴族の魔法に代わる魔道具の開発……。

 あれ?

 私、ノブナガ? 第六天魔王?

 血も涙も無い合理主義者とか、思われてる?

 これ、暗殺されちゃうパターン!?


 焦る私を安心させるように、王妃様は微笑んで言葉を続けた。


「別にアメリアを責めている訳ではないのよ。

 確かに最近の変化は極端だけど……。

 規模の大小はともかく、こういう事は割と頻繁に起こるしね。

 あなたが生まれる前だと、私が陛下と結婚して王妃になった後もそうだったわ。

 女性で、しかも王妃の私が軍のトップになって、それまではなあなあになっていた軍規を改めていった。

 結果、王都軍も多少はマシになったけど、それに対する反発もかなりあったの。

 その時に、保守派の貴族との間の調整役をしてくれたのが、カルロス国王陛下なのよ。

 あの人は私と違って、周囲に敵を作らないタイプだから……。

 この国の王家はね、別に他の侯爵家に対して絶対的な発言力がある訳ではないのよ。

 どちらかと言えば、三侯爵家の取りまとめ役に近いわ。

 だから、王家は国王の配偶者を他の侯爵家から決めるし、王家の人間は政治方針に偏りが出ないよう、異なるタイプを意図的に配置する。

 今の代で言えば、カルロス陛下が穏当なタイプだからこそ、王妃には私が選ばれた。

 もしディビッド宰相が国王になっていたら、アリッサの事がなくても、多分最終的に私が王妃に選ばれることはなかったでしょうね」


「つまり、サラ様が自由奔放な性格に育ってしまったから、王家としてのバランスを取るために、ライアン殿下は保守的な考えに育てたと……」


「まぁ、そういう事よ。

 あれなら、仮にあなたと結婚することになっても、サラやあなたの丁度いいブレーキになるでしょ?」


「いやいやいや! 私にその気はありませんから!」


 王家の教育方針が、思わぬ方向に発展しそうで、私は慌てて話を打ち切った。

 まさか、私を王妃にする前提でライアン殿下を教育したりは、してないよねぇ!?


 セーバでの通過儀礼(イニシエーション)の予定等について確認し、私はさっさと王宮を後にするのだった。



(ふむ、王太子と上級貴族の通過儀礼(イニシエーション)をセーバで行うか……)


 ここで何かあれば、事はアメリア公爵の責任問題となろう。

 今のセーバ公爵領と王家や他領の上級貴族どもが反目し合えば、あの国の混乱は必至。

 それでなくとも、最近のセーバの街の発展は少々目に余る。

 この辺で、少し叩いておくのも悪くはなかろう……。


 ダルーガ伯爵は王都から届けられた手紙に目を通すと、机に向かって手紙の返事を書き始めた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
転生幼女は教育したい!2巻
 書籍2巻10月10日発売です!!

転生幼女は教育したい!1巻
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ