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【書籍発売中】転生幼女は教育したい! 〜前世の知識で、異世界の社会常識を変えることにしました〜  作者: Ryoko
第3章 アメリア、教育改革をする

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決勝戦 〜ライアン王太子視点〜

(ライアン王太子視点)


「……凄いな」


 サラの様子に思わず言葉が漏れる。

 レオナルド男爵とサラとの鍔迫(つばぜ)り合い。

 距離を取っての魔法攻撃から一転、文字通り剣での鍔迫り合いが始まった。

 王族で、女のサラがだ……。

 普通、王族……いや、王族に限らず、魔力の多い上級貴族は接近戦などしない。

 戦術的にみて、広範囲高威力の大魔法を使える上級貴族は、接近戦で一人を相手にするより、遠距離からの魔法攻撃の方が余程有効だからだ。

 もっとも、それも建前だが……。

 一番の理由は、危険だから。

 魔力の多い上級貴族には、国のためにその血筋を残す義務がある。

 その血筋が続く限り、長く膨大な魔力を国にもたらし続けられる上級貴族は、その存在自体が国にとっては財産だ。

 たとえ目の前の戦いに勝利できても、それで上級貴族を失うようなことになれば、その将来的損害は計り知れない。

 故に、余程のことがない限り、上級貴族が相手の剣が届くような最前線に出ることはない。

 戦場でも、安全な後方での支援が求められる。

 それが女性であれば尚更で、子を産み育てる役目を求められる女性は、そもそも戦場に立つ機会すら殆ど無い。

 故に、大将として侯爵領をまとめる立場のソフィア嬢はともかく、王太子の私がいる以上、女性王族のサラは試合に参加する必要すらないのだ。

 それだというのに、あのサラの目を(みは)るような戦いぶりはどうだ!

 そもそも、あのような剣技をいつの間に!?

 一般的に見て、上級貴族で剣を得意とする者はまずいない。

 そもそも、練習しても殆ど使う機会の無い技術だから。

 剣の扱いの上手い下級貴族など、魔力の少ない者は大変だなと、逆に皮肉を言われるくらいだ。

 もっとも、母上を始めとしたボストク領出身の貴族は、その限りではないが……。

 私にしても戦闘訓練の殆どは魔法の訓練で、剣技などは必要最低限しか習っていない。

 そもそも、王族が剣で戦わねばならない時点で、既に国としては詰んでいるのだから……。


 だというのに、あのサラの戦いぶりは……。

 戦闘開始と同時、一人自陣を飛び出したサラは、正面からの砲撃を避けるように大きく弧を描きながら、猛スピードで敵陣に攻め込んでいった。

 それを迎え撃ったのがレオナルド男爵。

 ファイアボールで牽制するも、サラの進軍は止まらない。

 敵陣に真っ直ぐ進むのではなく、大きく曲線を描き、また微妙に進路を変えることで、うまく相手の攻撃を避けていく。

 そうしてサラが相手との距離を半分に詰めたところで、サラの進路に人の大きさほどの石柱が突き出てきた。

 レオナルド男爵の金魔法、石槍か?

 だが、通常よりもかなり太いそれは、槍というよりは柱といった方がしっくりくる。

 恐らく、攻撃というよりは足止めが目的なのだろう。

 石柱は、サラの進行を阻むように間隔を開けて次々と現れ、気がつけばサラのいる闘技場の一画は石柱の林のようになっていた。

 そこに飛び込んでくるレオナルド男爵。

 速い!

 石柱の間を縫うように接近してくる敵に対して、女性王族のサラが取った行動は……。

 正面から剣で迎え撃った!?

 腰に()げられた2本の短刀を引き抜いたサラは、相手から距離を取るのではなく、猛然と相手に向かっていった……。

 そして、今現在、両者譲らない激しい戦闘が繰り広げられている。

 レオナルド男爵の上段からの剣撃を右手の短刀の側面で滑らすように受け流し、そのまま懐へ。

 そのまま左の短刀で腹部を狙うも、それはレオナルド男爵に惜しくも躱される。

 後方に距離を取ったレオナルド男爵に向けて、サラの風魔法が襲いかかる。

 しかし、それもレオナルド男爵を捉えることは叶わず、代わりにレオナルド男爵の後ろの石柱の一部が弾け飛ぶ。

 レオナルド男爵はサラの風魔法を石柱を盾にして避けながら、お返しとばかりにファイアボールをサラに放ってくる。

 両者は時に魔法を撃ち合い、時に剣撃の音を響かせ、石柱の間を縫うように動き回る。

 それは遠距離から強大無比な攻撃魔法で敵を殲滅する王族の戦い方では決してなく、だがそれをカッコいいと感じ、目を離せない自分がいる……。

 乱立する石柱を危なげなく躱し様々な攻撃を繰り出す2人は、まるでダンスを踊るかのようで、王族が剣で戦うなど品位に欠けると非難できる者など、どこにもいなかった。

 観客も、それどころか私を含めた今現在戦闘中の者たちまでが、皆2人の試合に目を奪われていた。


 そんな闘技場の空気が、ざわめき出す。


「殿下!」


 私の周囲を固める者の声に、慌ててソフィア侯爵の方に視線を移すと……。

 そこには1回戦の時に匹敵するファイアボールを作り出しつつあるソフィア侯爵の姿が!?


『なっ!? 突撃部隊はどうした!?』


 私だって、ただ何も考えずサラの試合に見惚れて……眺めていた訳ではない。

 サラの派手な動きを囮とし、逆の側面から部隊を進行させていたのだ。

 いくら強くても相手は2人。

 うち一人ソフィア侯爵は遠距離攻撃専門で、情報から察するにもう一人レジーナの方は接近戦専門。

 2方向から同時に攻めれば、相手も対応に困るはず。

 そう考えた。

 幸いなことに、ボストク領と違い王都チームには私がいる。

 ソフィア侯爵の攻撃も、一度くらいなら相殺できる……はずだ!

 ソフィア侯爵の攻撃さえ(しの)いでしまえば、相手には他に遠距離攻撃の手段は無い。

 いくらレジーナという平民の魔法が貴族に匹敵するといっても、それは複数の中級貴族を同時に相手できるようなものではない。

 こちらがソフィア侯爵の攻撃を凌ぎきったところで側面から攻撃すれば、相手には防ぎようがあるまい。

 そう考えていた。

 いや、それ以前に、ソフィア侯爵がこちらに魔法を放つ兆候があった時点で、側面に回り込んだ部隊が牽制を仕掛ければ、そうそうこちらに攻撃はできないはず!

 そう考え、サラとは反対側の闘技場の端に目をやれば……。


『何をやっている!?』


 揃って闘技場の端、こちらとあちらの中間地点辺りで座り込んでいる我がチームの精鋭たち……。

 そして、目の前には、今も膨張し続けるファイアボール……。

 不味い!?

 あれは、先程のボストク領との試合と同じ!?

 私は慌てて呪文を唱え、体内の魔力を絞り出す。

 間に合うか!?

 …………

 …………

 …………

 間に合った!

 どうやら、相手は私との正々堂々の正面対決を望んでいるらしい。

 上空に巨大な火球を待機させた状態で、こちらが魔法を完成させるのを待ってくれていた。

 助かった!

 使う魔法は非常識だが、騎士道精神は持ち合わせているらしい。

 こちらの準備が整う前に一方的に攻撃、などという手段を取るつもりはないようだ。

 流石は上級貴族というべきか。

 ザパド侯爵の娘ということで、少し色眼鏡で見過ぎていたのかもしれない。

 どうせなら、王族にあのような魔法を使っても良いのか?という配慮も欲しかったが……。

 ともあれ、こちらの魔法も何とか完成した。

 これを相手のファイアボールにぶつければ……ん?

 ………………。

 ぶつけたら……どうなるのだ?

 相手の火球を潰すつもりで魔法を放つということは、つまり全力で対象の全てを燃やし尽くすつもりで魔法を放つということで……。

 規模は大きくとも実際に燃やすのは薔薇だけ、というのとは訳が違う。

 あの火球を相殺するために発生する熱は如何ほどのものか……。

 そして、それは勿論、相手側にも言えることで……。

 つまり、それは相手を傷つけないように配慮された試合用の魔法ではなく、正真正銘敵軍の全てを殲滅する威力の大規模魔法のぶつかり合い!?

 かつて、例のないほどの……。

 そもそも、こんな巨大なファイアボールが使われた話など聞いたこともない。

 大体、やろうと思って撃てるのが私とディビッド伯父上、それに目の前のソフィア侯爵だけなら、そんな事例など起こるはずもない。

 本当に、大丈夫なのか!?

 魔法無効化の魔道具で相殺できる??

 もし、2つの大魔法が衝突した衝撃で、闘技場の観客ごと全員吹き飛ぶようなことになったら!?


 どうする?

 魔法を止める?

 いや、そうしたら相手の魔法が……。

 だが、勝ち負けよりも民の安全の方が……。


「ライアン王太子殿下、御前を失礼いたします」


 なかばパニックになりかけていた私の耳元に、その声は聞こえた。


 パキッ


 そして、胸元で何かが折れる音。


 ゴオ〜〜〜ン


 闘技場全体に、試合終了の銅鑼が鳴り響いた。

 そして私の前には、その手に手折られた薔薇を持つ平民の娘が控えていた。


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