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【書籍発売中】転生幼女は教育したい! 〜前世の知識で、異世界の社会常識を変えることにしました〜  作者: Ryoko
第3章 アメリア、教育改革をする

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第二試合 〜ライアン王太子視点〜

 試合開始前に遡って……。


(ライアン王太子視点)


 あ、あれはなんなのだ!?

 先程の試合でソフィア侯爵が見せた魔法……。

 あんな魔法、聞いてないぞ!?

 まさか、ソフィア侯爵にあれほどの魔力があるとは思わなかった。

 あの規模のファイアボールなど、私が全魔力を絞り出してやっと対抗できるかというものだ。

 知らずに1回戦で対戦していれば、間違いなく我がチームが負けていただろう。

 ユリウスには悪いが、ソフィア侯爵の1回戦の相手がボストク領でほんとうに良かった。

 ソフィア侯爵の力は想定外だったが、彼女は所詮戦いを知らない侯爵令嬢。

 戦闘の駆け引きというものが全く理解できていない。

 とにかく全力で戦おうとしたのだろうが、生憎とこの大会は1試合のみで決着ではない。

 勝てば、次があるのだ。

 使った魔力がすぐに回復しない以上、第一試合で使う魔力は決勝の分も考えて調整する必要がある。

 あのような巨大なファイアボールを放ったのだ。ソフィア侯爵は決勝では使い物になるまい。

 それに対して、こちらの相手はユーグ領。

 正直、手加減しても余裕で勝てる相手だ。

 今年は強敵のユリウスがソフィア侯爵と潰し合ってくれたお陰で、楽ができそうだな。

 そんなことを考えている私に、サラが声をかけてくる。


「お兄様、そろそろ試合が始まります。集中して下さい!

 あまり相手を甘く見ると、思わぬところで足を(すく)われます。

 それから、一つだけ忠告を。

 この試合、できるだけお兄様はご自分の魔力を温存することをお勧めします。

 お兄様は勘違いなされていると思いますけど、先程のソフィアさんの魔法は、彼女の全力ではありません。

 彼女なら、()()()()()魔法、あと3回は余裕で使えますよ」


 サラがまたとんでもない事を言い出した。

 あの魔法をあと3回だと!?

 いや、いや、いや、さすがにあり得ないだろ……。

 そう言いたい気持ちをぐっと飲み込んだ私は、ただ黙ってサラに(うなず)いておいた。

 勿論、サラの言うことを鵜呑みにした訳ではない。

 サラの言うことを信じるなら、ソフィア侯爵の魔力量は王族である私の3倍以上ということ……ん? 4倍か?

 とにかく!

 どう考えてもあり得ない!

 だが、そんな非常識なサラの言葉を、完全には否定できない自分がいる。

 なぜなら、先程のソフィア侯爵の魔法自体が、もう十分に非常識なものだったから……。

 確かに、全力を出しさえすれば、私にもあの規模のファイアボールを作り出すことはできる。

 できるが、果たして制御しきれるだろうか……。

 実際に試したことがないので何とも言えないが、以前あの半分くらいのファイアボールを作った時には、ただ真っ直ぐ撃ち出すだけで相当に苦労したのを覚えている。

 あの時の倍……。

 そんな魔法を当たり前のように使われた以上、私の常識では今のソフィア侯爵は測れないということだ。

 もしかしたら、あれ以上の非常識があるかもしれない…

 ここは素直にサラの忠告に従い、こちらの魔力は温存して戦うとしよう。

 幸い、相手はユーグ領。

 落ち着いて対処すれば、それほど魔力を使わずとも問題なく勝利できるだろう。



 そうして始まった1回戦第2試合。

 まさか、あのような手でくるとは……。

 試合開始と同時、ユーグ領チームは大将を守るための最低限の人数を残し、こぞって地面に(ひざまず)いたのだ!

 一体、なんだというのだ!?

 我が国の貴族ともあろう者が、多くの民が注目する中で地面に(ひざまず)くとは!?

 一体、何が起こっている?

 皆が混乱する中で、その変化は起こった!

 突如足元の地面が柔らかくなり、私はバランスを崩しそうになる。

 闘技場の地面が、畑になっただと!?

 王都チームとユーグ領チームの間には、まるで王都の郊外で見た農地のような地面が広がっている。

 呆気に取られる我々の前に、今度は巨大な岩壁ができあがる。

 あれは、岩の防壁、か?

 それは、相手の魔法を防ぐために作られる岩の盾などではなく、むしろ職人達が作る建物に近い。

 あれは、城壁!?

 今ではボストク領の国境くらいでしか見かけない、人同士の大規模戦闘、戦争を想定した堅牢な岩壁。

 あんなもの、盗賊や魔物相手には絶対に使われない。

 大量の魔力を使ってあんな大層な城壁を作っても、相手が逃げ出してしまえば意味がないのだから。

 城壁を担いで移動できない以上、敵が逃げればせっかく作った城壁は放棄するしかない。

 全くの無駄なのだ。

 そもそも、あのような大規模な建造物を作る金魔法は職人の領分で、攻撃魔法を得意とする貴族の使うものではない。

 貴族の使う金魔法は、岩の盾を作る、岩を飛ばす、地面に岩の槍を作り出すといった、攻撃に特化したもののはずだ。

 あのように、地面を畑に変えるだの建物のような壁を作るだのは、農民や職人の仕事で……。

 農民!

 ユーグ領は我が国の農業を支える土地。

 多くの農地を持つ土地持ちの貴族は、大規模な開墾や農地の整備のために、場合によっては魔力の少ない平民に代わって、土木作業のようなことをする場合もある……。

 あれは、その技術の応用か!

 そうこうしているうちに、高い壁の上から私を狙って水魔法が放たれ始める。

 威力は大したことはない。

 これなら、当たったところで大したダメージはないだろう。

 軽い衝撃を受ける程度。

 拳で殴られたほどの痛みにもならない。

 魔法無効化の魔道具がなくとも問題無いくらいだ。

 それでも、胸の薔薇を散らすことはできる。

 それに、こちらの詠唱の妨害もか……。

 そういえば、実技の授業で、教師からしこたま水を浴びせられていた者がいたな。

 つまり、あの作戦か。

 相手の水魔法は途切れることなく私を狙ってくる。

 こちらの火魔法の半分は詠唱途中で妨害されるし、撃てたとしても岩壁には全く効果が無い。

 攻撃力を重視して、火魔法の得意な者ばかりを選抜したのが裏目に出たか……。

 そうこうしているうちに、今度は敵の水魔法で地面がぬかるみ始めた。

 元々柔らかくなっている地面に、頻繁に水がかけられるのだ。

 足元の土が泥のようになり、攻撃を避けた拍子に足を滑らせそうになる。

 不味い!

 非常に不味い!!

 まさか、ユーグ領にこれほど苦戦させられるとは!?

 このままでは、一方的に安全な高所から狙い撃ちされて、いずれ胸の薔薇を散らすことになるだろう……。

 何か方法は……?

 ソフィア侯爵のように巨大なファイアボールを上空から落として、一気に焼き払うのはどうか……。

 いや、城壁の上がこちらからは見えない以上、相手の大将がどのように守りを固めているか分からない。

 もし弾除けの屋根のようなものを作っていれば、上空からの炎でも相手の薔薇を焼き払うのは不可能だ。

 な、何か方法は〜??

 必死に飛んでくる水球を躱しながら私が打開策を考えていると、そこに足が汚れないようぬかるみを避けながら、小柄な少女が近づいて来るのが見える。

 サラだ。

 サラに向かって飛んでくる水球は、全て途中でその軌道を変えていく……。

 風魔法で軌道を逸しているのだろう。

 炎の壁で水球を防ぐことはできないが、風ならば可能だ。

 単純な殺傷力なら火魔法が一番だが、今回は相性が悪すぎる。

 昔から私の火魔法と比較されてきたサラにしてみれば、これはちょうど良い意趣返しなのだろう。

 余裕そうな顔でこちらを見る目に少々腹が立つが、サラの事情を考えると仕方がないかとも思える。

 こちらが意図したことではないとはいえ、私と比較されることで、サラが辛い思いをしてきたのも事実だ。

 ここは、素直に劣勢を認めよう。


「すまない、サラ。見ての通り、状況は非常に悪い。

 こちらの火魔法に対して、金魔法、水魔法の合わせ技では相性が悪すぎる。

 お前の風魔法でなんとかならないか?」


 素直に頭を下げる私に気を良くしたのか、サラがこんな提案をする。


「皆を一箇所に集めて、私とお兄様の周りに壁を作らせて下さい。

 水魔法なら当たってもダメージはありませんし、仮に火魔法が飛んできてリタイアすることになっても構いません。

 とにかく、ちょっとの間だけ、私が魔法に集中する時間を作って下さい。

 それで勝てます」


 私がサラの提案を了承し、皆を私とサラを囲むよう配置につかせると、サラは前方の壁を見つめ、呪文を唱え始めた。

 私にはどのような魔法を使っているのか分からないが、サラがひどく真剣なのは分かる。

 先程まで、どうということもないように風を操り、自分に襲いかかる水球を容易く退けていたサラが、今はその余裕をかなぐり捨てて自分の魔法に集中している。

 一体、どんな魔法を使うつもりだ!?

 内心びくびくしながらも、その様子を見守っていると、サラがこちらに顔を向けた。


「お兄様、準備は整いました。

 仕上げです。

 大魔法を使うぞといった雰囲気を出しつつ、あの城壁の真ん中に向かって、ファイアボールを撃ち込んで下さい。

 規模は小石程度で構いませんので、さっさとお願いします」


 わけがわからない……。

 まさか、私の魔法をサラの風魔法で操るつもりか?

 他人の魔法を操ることなど、本当に可能なのか?

 だが、先程までの呪文に集中するサラを見る限り、決して冗談ではないのだろう。

 私は指示通り、掌を前方の壁に向け、さもこれから魔法を放つぞといった様子で呪文を唱えた。

 私の掌から放たれた小さな火の玉は、真っ直ぐ城壁に向かい……。


 バアアアアアアアンンン!!!

 ドゴオオオオオオオオンンンン!!!!


 一瞬の光と強い衝撃!!

 そして、巻き上がる砂煙……。

 後には跡形もなく崩れ去った瓦礫の山と、揃って目を回すユーグ領の者達がいた。


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