家庭教師 〜アルフレッド視点〜
(アルフレッド視点)
(どうしてこうなった!?)
家の屋根ほどの城壁の上に立ち、恐れ多くもライアン王太子殿下、サラ王女殿下を見下ろしながら考える……。
(こんなの、僕には全然向いてないのに……)
「アル、この後はどうする?」
「はい、え〜と、とりあえず現状維持で。
ウォーターボールによる攻撃を続けて下さい。
魔力は少なめで。
目的は、相手に落ち着いて対応策を考える隙を与えないこと。
ライアン王太子殿下の薔薇を散らせること。
この2つです。
どうせ、相手の攻撃は城壁の陰に隠れるこちら側には届きません。
万が一、先程の試合のような大魔法を使われても、炎では城壁は崩せませんから大丈夫なはずです。
こちらの水魔法で少しずつ下の足場も悪くなってきていますから、そのうち避けきれなくなると思います。
薔薇を散らすだけなら小さな水球で十分ですし、運良く殿下が足を滑らせてくだされば、転んだ拍子にうっかり薔薇を散らせてくれるかもしれません。
いくら試合とはいえ、万が一王族に怪我をさせては後々遺恨を残しますし、こちらは無理せず安全第一にいきましょう」
「………………」
(それって、殿下を泥の中にスッ転ばせて、それで決着にしましょうってことだよな?
衆人環視の中で……殿下が可哀想過ぎるだろ!)
僕は一通りの指示をみんなに出し終えると、城壁の陰に隠れながら闘技場全体を俯瞰しつつ、ここまでの経緯を振り返る。
本当に、どうしてこうなった?
田舎の漁師街の代官に過ぎない普通の男爵家。
王都からは遠く離れ、同じ貴族よりも、むしろ漁師の方が余程身近だった生活。
本来なら、この学院に来ることすらなかったはずなのに……。
ある日、セーバ領から突然巨大な船がやって来て、それで僕の平和な生活は180度変わってしまった。
……
…………
………………
「アルフレッド! もっと勉強せんか!」
ある日、父さんは僕のところにやって来ると、突然そんなことを言い出した。
「えっ? 今日の分の勉強ならとっくに済ませましたよ」
僕はその日の分の課題を父さんに見せた。
別に、勉強をサボって遊び呆けていたわけではないのだと。
父さんは、僕が呪文の訳文を書き写した紙と10問ほどの足し算の計算問題を見ると、深いため息をついた。
(あれ? 言われた量はやったよねぇ?)
「……どうやら私は、街を治める貴族が学ぶべき学問の量というものを、見誤っていたようだ。
お前には、将来、私のような苦労はさせたくない。
早急に然るべき教師を用意するから、今後は身を入れて勉学に励むように!」
そうして引き合わされたのが、セーバのトッピークにおける拠点作りのために残っていたレジーナ先生だ。
レジーナ先生は平民で、魔力量も大したことはない。
でも、僕には分かった。
この子に逆らってはいけないと……。
そう、“この子”。
僕の臨時の家庭教師として紹介されたのは、僕と同じくらいの女の子だった!
平民の子供が家庭教師?
そんなの、納得いくかって?
はい、勿論。
だって、父さんなんかよりよっぽど怖かったから……。
実際、話を聞いてみれば、彼女はアメリア公爵様の側近で、高名な農学博士のマルドゥクさんのお孫さんだというし……。
何の力も無い貧乏男爵家の息子より、周囲への影響力はずっと上でしょう。
僕は黙って、レジーナ先生の指導に従うことにした。
他に選択肢など無かったからね。
レジーナ先生は、トッピークでの本来の仕事をこなしながら、1ヶ月ほど僕の家庭教師をしてくれた。
その後、僕の家庭教師は、レジーナ先生と入れ替わりにやって来たセーバの研究員に代わったけど……。
僕の学習計画については、既にレジーナ先生から指示を受けているそうで、全然楽になるようなことはなかった……。
父さんは、僕と大して歳の変わらないアメリア公爵様やレジーナ先生を見て大変なショックを受けたようで、僕がいくら訴えても与えられる課題が減ることはなかった。
挙げ句、トッピークの街に経済的な余裕ができたこともあり、僕は貴族の中でもエリートの集まる王都の学院に入学させられることになった。
僕は、偉そうな貴族と関わるよりも、街の漁師達と他愛のない話をしている方が性に合っているのに……。
そうして入学した学院で、気がつけば僕は闘技大会のユーグ領代表メンバーに選ばれ、気がつけば大将を補佐する作戦参謀の地位を押し付けられていた……。
どうしてこうなった!?
何か作戦はないかって聞かれたから、先生に習った昔の戦争の話とかしただけだよね?
ただの歴史だし、ふつうに勉強してれば、みんな知ってることだよね?




