試験結果
本日、学院の大講堂には、生徒たちの悲鳴が飛び交っていた……。
「うわぁ、最悪! 1科目も合格できないなんて……」
「僕は魔法学と政治学は受かった……けど、残りは壊滅してる。
結局、学院に入る前に、家庭教師に無理矢理やらされた分が受かっただけだし……。
他の科目の点数は君と大して変わらないから、このままだと次は不味い……」
「ああぁ、くそ!
だって普通、あんな細かな事まで覚えなきゃいけないなんて思わないだろ!」
「確かに……。
事前にここは試験で出るから全て覚えろって先生は言ってたけど、まさか本当に全部覚えなきゃいけないとは、誰も考えていなかったからね」
「まぁ、平民も貴族もみな似たような結果だったのが、せめてもの救いだな……」
「そうだね……。
今回の結果については、誰も相手を責めないと思うから、お互い無かったことにして話は終わるんじゃないかな。
でも、次もそうなるとは限らないよ。
今回の結果を踏まえて皆が対策してくるだろうし、少しずつ合格者も増えてくると思うよ」
「はぁ〜、やるしかないか……。
それにしても、あの試験に一発合格って……。
あの3人、化け物かよ」
「……今回、合格したうちの2人はセーバの関係者だから、多少は不正を疑いたくなるけど……。
この結果を見ると、それも無いかなって思うんだよね」
そう言って、貼り出された試験結果に目を向ける2人。
総合点順位
1位)981点 レジーナ(領都セーバ)
2位)912点 サラ・ド・モーシェブニ
3位)885点 レオナルド男爵(領都セーバ)
4位)823点 ソフィア侯爵(ザパド侯爵領)
…………
…………
一般教養検定合格者(全科目合格者)
・レジーナ(領都セーバ)
・サラ・ド・モーシェブニ
・ソフィア侯爵(ザパド侯爵領)
以上3名
そう、早いもので、先日モーシェブニ魔法学院初の単位認定試験が行われた。
そして、今日はその結果発表の日。
大講堂に貼り出された結果の前には、多くの人だかりができている。
さながら、前世の入試の合格発表のようだ。
さて、その結果はというと……。
「まったく、情けないですね。セーバに戻って初級クラスからやり直しては如何ですか?」と、レジーナさん。
「アメリアお姉さまがお可哀そうですから、セーバリア学園の看板に泥を塗るようなマネは止めてもらいたいのですけど!」と、サラ王女殿下。
そして、レオ君はというと……。
「しょうがないだろ! 呪文の翻訳なんて、セーバではむしろ覚えるなって教えてるんだから……」
そう、今回の試験、レオ君は魔法学の試験のみ合格点に届かず、不合格になっている。
試験は各教科ごと80点の合格ラインを超える必要があるため、たとえ合計点数が高くても、1科目でも悪い科目があれば、“一般教養検定合格”とはならないのだ。
まぁ、レオ君の言い分も分かる。
この世界の魔法の翻訳って超意訳で、ものによっては完全に原文と関係無い中2病チックなポエムになっちゃってるからね……。
呪文をイメージする意味でも有害だったりするから、セーバリア学園では呪文の訳は一切無視するように教えている。
だから、呪文の訳を全く書けずに、魔法学の試験で不合格になったレオ君は、ある意味私の教えを忠実に守っていたとも言えるんだよね……。
でも、そんな言い訳は、うちの女性陣には通用しない。
「なにを言っているのですか?
この学院の教科書も指導内容も、アメリア様が全て事前にチェックして、しっかりとしたものに作り変えていたのは知ってますよね?
そのアメリア様が、魔法学の教科書や指導内容から呪文の訳文を削除しなかったのですから、少なくとも学院に通う貴族様にとっては、呪文の訳文も一般教養として必要ということではありませんか。
アメリア様が必要だと残したものを、レオ様は自分の判断で勝手に切り捨てたのですか?」
「うっ!?」
「確かに呪文の訳が魔法を使う上で不必要なのはセーバで学んで知ってますけど、貴族は文章や会話の中で呪文の訳文を引用したりする場合がありますから、文学の教養としては、貴族社会では必要になります。
だから、お姉さまも敢えて残したのではありませんか?」
「むむむむ……」
「「レオ様(レオ先輩)、“貴族”ですよね?」」
「………………」
まぁ、これはサラ様の言う通りなんだよね。
呪文の訳文については、文化保全の観点から、そのまま残すことにした。
呪文の訳文が間違っていることについても、敢えて教えていない。
だって、教えちゃったら、確実にこの世界から呪文の訳文は消えてしまうから。
前世でも、明治時代、文明開化のあおりで、日本の伝統文化が無価値で時代遅れのものとして、大量に破棄されたことがあった。
この頃二束三文で海外に売払われた芸術品の数々が、海外の美術館で大切に飾られていた。
この世界で、私が目先の実利だけを考えて安易に呪文の訳文を否定したりして、それがきっかけで訳文の破棄、神殿の否定なんて流れになったら……。
そもそも、私の魔法言語、神様語研究だって、神殿に伝わる訳文を元に行われたのだ。
もし、今の訳文が伝わっていなかったら、私の研究自体も行き詰まっていただろう。
そんな訳で、呪文の訳文に関しては、今まで通り残すことにしたんだけど……。
セーバ育ちのレオ君には、まさか間違った訳文が試験に出るとは思えなかったみたいだね……。
ご愁傷さま。
でも、レジーナとサラ様に責められているレオ君には悪いけど、この結果は私的には最善なんだよね。
これでレオ君も合格しちゃったりすると、一気にセーバの街の関係者不正疑惑が出てくると思う。
今回、レオ君が落ちたことで、逆にレジーナの不正を疑う流れができにくくなっている。
常識的に考えて、セーバの街の貴族であるレオ君を落として、平民で従者に過ぎないレジーナを合格させるのはおかしいからね。
同様に、サラ様への疑惑も起こらない。
だって、王太子であるライアン殿下が不合格だから。
おまけに、ソフィア嬢が合格している!
開校式の一件はあるものの、一応は対立関係にあるはずのソフィア嬢に、私が便宜を図るとも考えにくい。
だから、もし私が個人的に仲の良い者をこっそり贔屓したと考えるなら、そこにソフィア嬢が入ってくるのは、どう考えても不自然だ。
平民あり、王族あり、敵対貴族ありの合格者……。
合格者3人に共通点が見えないことで、今回の試験に不正は無いだろうと判断されている模様。
実際、不正なんてないしね!
それでも、試験慣れしているセーバリア学園出身者が、圧倒的に有利なのは間違いない。
だから、合格者の中に、まさかソフィア嬢が入ってくるとは思わなかった。
確かに、試験を頑張れとは言ったけど、ここまでの結果を出してくれるとはね……。
これなら、多少私が個人的に彼女に目をかけても、贔屓だと言われることもないだろう。
これで、だいぶ計画が進めやすくなったね。




