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【書籍発売中】転生幼女は教育したい! 〜前世の知識で、異世界の社会常識を変えることにしました〜  作者: Ryoko
第3章 アメリア、教育改革をする

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新学年スタート

 問題があるような無いような、そんな開校式を終え、一月(ひとつき)ほどが過ぎた。

 同年代の子供の学院長就任や単位認定試験の導入と、色々な反発を予想していた私は今、学院長室でのんびりとお茶を飲みながら数人の先生方の話を聞いている。


「では、特に変わったことはないのですね?」


 学院の様子について尋ねると、先生方は苦笑い。


「いえ、まぁ、特に変わったことは起きていないのですが、そこが変わっているというか……」


 先生方曰く、例年であればこの時期の学院は、各派閥による新入生の取り込みや、新入生の示威行為で非常に物騒になるらしい。

 新しく入学してきた生徒で、まだ親が特定の派閥に属していない場合、何とか自分の派閥に取り込もうと、サロンやクラブ、同好会への勧誘が激化する。

 有望な貴族家の場合、子供から切り崩しを図る場合もある。

 これは平民も同様で、優秀な平民のヘッドハンティング、大商会の子息とのコネ作り、見目の良い従者の引き抜き等、子供の友達作りとはとても言えない恐ろしい光景が、学院のあちこちで見られるという。

 (こわ)

 まさに、学校は社会の縮図だね……。

 そして、そんな過激な争いは、教師達にとっても決して他人事ではないらしい。

 まず、学科の先生。

 大半の生徒たちは、お茶会だのパーティーだの(つまり勧誘活動)で忙しくて、誰も学科の授業に出てこないという。

 ほとんど、学級閉鎖状態らしい……。

 まぁ、それはいい……。

 本当は良くないけど……。

 問題は実技の方。

 この時期、実技教師を生贄とした、模擬戦という名の示威行為が多発するらしい。

 在校生は新入生勧誘のために、腕に自信のある新入生は自分の売り込みのために……。

 

「大丈夫なのですか?」


 心配する私に、笑顔で答える実技教師。


「はい、問題ありません!

 例年通り、何人か絡んでくる生徒はいましたが、みな返り討ちにしてやりました。

 これも全て、アメリア学院長とレジーナ先生を始めとするセーバの先生方のお陰です!」


 学院での実技訓練の初日のこと。

 新入生の一人が、実際の魔法戦闘を体験してみたいと、実技教師との模擬戦を提案してきたそうだ。

 その生徒は、既に学院を卒業した兄から、学院の実技教師の実力を聞いていたらしい。

 

『あいつらは教師と言っても所詮は下級貴族で、実力は大したことないからな。

 攻撃魔法を使ったことのない初心者に、最低限の魔法を教えるのが仕事で、戦闘のプロという訳ではない。

 俺たちのように生粋の軍人の家系で、幼い頃から鍛えられてきた者から見れば、所詮は素人同然だ。

 そんな訳だから、学院の授業にはあまり期待するな。

 あそこは、将来の人脈を作り、社交の経験を積む場で、俺たちのような中級貴族が学ぶべきことなど何もない。

 学院の教師達も下級貴族なりに頑張っているのだから、こちらが温かい目で見守ってやればいいんだよ』


 ニヤニヤと上から目線で話す、そんな兄のことを思い出しながら、その新入生は言葉だけは丁寧に、でも内心は優越感に浸りながら、教師という肩書を持つ大人に対して、勝ちの確定した模擬戦を提案したらしい。


「いやぁ、驚きました。

 私もその試合は見ていたのですが、まるで試合になりませんでした。

 まさに、一方的です」


 ……

 …………

 ………………


「先生、手加減はいりません。

 本気でお願いします。

 僕も家ではそれなりに鍛えられてますし、これからどのような魔法を教えて下さるのか見ておきたいですから。

 僕は身分とか気にしませんから、遠慮は無用ですよ」


(後で手加減したとか言われても困るからな。言い訳はさせないよ。精々足掻いてみせろ!)


 見学者全員に聞こえるよう声高に宣言したその生徒は、余裕の態度でおもむろに呪文を唱え始めた。


(この生徒、馬鹿なのか?)


 大きな声でハキハキと、のんびり呪文を唱える様は、小さな子の絵本の朗読に似ている。

 あれでは、邪魔して下さいと言っているようなものだ。

 そもそも、呪文の詠唱に入る前に、あれほど分かりやすく魔力を集中させては、これから魔法を使いますよと、手を挙げて知らせているのと同じだ。

 そこまで考えて、教師は思い至る。


(いや、あれが普通なのか……)


 最近は少しでも魔力の感知が遅れれば、容赦なく魔法が飛んでくる日々を送っていたから、感覚が麻痺していたらしい。

 なまじセーバの教師役の子供達と学院の生徒達の年齢が近いせいで、錯覚してしまったようだ。


 呪文はハキハキ大声で。

 小声で早口だと、発音が崩れてうまく魔法が発動しないからね。

 魔力量? そんなの感覚だよ。

 魔力なんて目に見えないんだから、そんな細かな調整なんて不可能だろう。


 今にして思えば、酷い暴論に聞こえるが、当の教師にとっても、数カ月前まではそれが常識だったのだ……。


 こちらに手を向け、大仰に上級炎魔法である炎槍の呪文を唱える生徒。


(ただの人間相手なら、ファイアボールで十分だろうに……。余計に詠唱に時間がかかるだろうが……)


 教師は小さく魔力を集中させると、素早く小声で呪文を唱える。


 バシャッ!

「ふぎゃッ!!」


 ………………

 …………

 ……


「生徒が魔力を集中させて呪文を唱えていると、呪文が完成する前に、教師の水魔法が頭上から降ってくるんです。

 水量自体は手桶の水程度で大したことはないのですが、毎度絶妙なタイミングで頭に被せられる水のせいで、その生徒は全く呪文に集中できない。

 服もずぶ濡れで、そのうち身体も冷えてくるしで……。

 最後はかなり酷いことになってました。

 その後、魔法は威力が全てではなく、実際の魔法戦闘ではこういう戦い方もあるのですと、いい感じでまとめてましたが……。

 正直、あの結果に一番驚いていたのは、戦った先生自身でしょうなぁ……。

 私も生徒たちが魔法を使うのを見るまで気付いていなかったのですが、彼らの使う魔力の流れが非常によく見えるのです。

 しかも、とてもゆっくりに見える。

 昔、達人は魔法になる前の魔力を感じて相手の攻撃を(かわ)すと聞いたことがありましたが、まさか自分がその境地に至れるとは思いもしませんでした……。

 レジーナ先生には一方的にやられておりましたので、自分達がどの程度相手の魔力を感知できるのか自覚がありませんでしたが……。

 我々は、随分と大雑把な魔法の使い方をしていたようです……」


 そんな感じの模擬戦?は何度かあったそうだけど、全て教師たちの圧勝。

 しかも、魔力の集中具合や(まと)への魔力の経路(パス)を感じ取れるようになった実技教師達には、どの生徒がうまく魔法に集中できていて、どの生徒が的を外しそうか、ひと目で分かる。

 そんな教師からの声掛けは的確で、それを感じ取った生徒たちの態度は、前年度までが嘘のように良くなっているそうだ。

 そして、例年であれば開店休業状態の学科の教室はというと、満員御礼、教室に入り切れない生徒のために、急遽広い教室を確保する事態だとか……。


「正規の授業以外にも、分からないところを質問に来る生徒が後を絶ちません。

 この時期は毎年自分の研究に没頭できるのですが……。

 どうも、これからは難しくなりそうですな」


 困ったものだと笑う先生は嬉しそうだ。

 例年にない学科の授業の盛況ぶり。

 それは勿論、来月末に実施される予定の単位認定試験のため。

 今回は試験自体が初めてということもあり、どの生徒も全く準備ができていない。

 例年であれば派閥の切り崩しのために子供をせっつく親も、今年ばかりは学問を優先しろと言ってくる。

 実際のところ、皆パーティーだのお茶会だのに割く時間の余裕など全く無いのだ。

 今、いくら自分達の派閥は将来有望だとアピールしたところで、来月の試験の結果が散々なら、それこそいい笑い物だ。

 そんな訳で、今年は新入生の強引な勧誘合戦が行われることもなく、皆が学業に実技訓練にと、非常に学生らしい学生生活を送っているんだって……。


 問題が起きないのが事件って……。

 一体、今までどれだけ!?って感じだ。


明けましておめでとうございます。

今年もよろしくお願いいたします。

m(._.)m


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