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【書籍発売中】転生幼女は教育したい! 〜前世の知識で、異世界の社会常識を変えることにしました〜  作者: Ryoko
第3章 アメリア、教育改革をする

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ソフィアの回想 〜ソフィア視点〜

(ソフィア視点)


 私の名はソフィア。

 侯爵位を持つ貴族で、父はザパド侯爵。

 我が家は代々、ザパド侯爵領を治める領主の家系で、私も将来は父の名を継いでザパド侯爵となることになっている。

 少なくとも、幼少期の私は、父や周囲の者達にそう言われて育ってきた。

 ザパド領は我が国の商業を担う領地で、領都ザパドには国中の主だった商会が軒を連ね、街には国内外から集められた素晴らしい物、珍しい物が溢れかえっていた。

 父は平民の住む下町を嫌っていたけど、こっそり父の目を盗んで侍女のポーラと出かける下町探索は、私の密かな楽しみだった……。

 思えばあの頃が、私にとってもザパド領にとっても、一番無邪気で幸せな時期だったんだと思う。

 やがて私は12歳になり、貴族の義務として王都の学院に通うことになる。

 その頃には、私の下町探索はめっきり数を減らしていた。

 学院入学準備として、魔法の練習や勉強が忙しくなったのも勿論ある。

 でも、それ以上に、ポーラが私を下町に連れて行くのを拒むようになったのが大きい。

 その理由は簡単で、領都の治安がとても悪くなっていたから……。

 一度無理を言って、護衛も一緒にという条件付きで久しぶりに訪れた下町は、人通りも少なく、昔の活気など想像もできない有様だった。


(なに、この街!?)


 正直、怖いと思った。

 ポーラが、私を下町に連れて行くのを嫌がる訳だ。


(なんで、こんなことに……)


 ポーラに聞いても、口を濁すばかりで理由が分からない。

 仕方がないので、思い切ってお父様に尋ねることにした。

 私がこっそり下町に出かけたことはバレちゃうけど、もうそんな場合ではないと思ったから……。

 

「……全ては、アメリアという庶民の小娘のせいだ!」


 私の無断外出について盛大に叱った後、お父様が教えて下さったのはこれだけだった。

 割に合わないと思った私は、悪くないと思う!

 ただ、手がかりは得られた。

 疑問は膨れ上がったけど……。

 悪の元凶は、アメリアという庶民のようだ。

 全く、訳が分からない!

 どうして、魔力の少ない平民の女の子一人のために、あのようなことが起きるというの?

 その後しばらくして、私は学院入学準備のために、王都のお屋敷の方に引っ越した。

 そこで、私は知ることになる。

 お父様の言う“庶民の小娘”が、実は魔力こそ少ないものの、国王陛下に正式に認められた公爵様であることを……。


(公爵って……身分は我が家よりも上ではありませんか!)


 そして、ここ王都では、ザパド領では聞かなかった“アメリア公爵”の噂が、嫌でも耳に入ってくる。

 庶民並みの魔力ながら、女神から学んだという魔法で、上級貴族に勝るとも劣らない戦闘力を持つこと。

 誰でも使える便利な魔道具を幾つも開発し、辺境の田舎町を短期間で急成長させたこと。

 そして、大型船を使った他国との海上交易路を作り出し、我が国の物流の流れを根本から変えてしまったこと……。

 ザパド領は元々商業で成り立っている領地であり、私も商業や国の経済といったことについては、他の貴族よりも厳しく教え込まれている。

 だから、このくらいのことを調べるのには、それほどの時間はかからなかった。

 そして、お父様とアメリア公爵との確執についても……。

 正直なところ、お父様の方に非があるようにしか思えない。

 初めこそ、自領の利益のみを優先して、こちらの事を全く配慮しないアメリア公爵のやり方に、腹を立てたりもしたのだけど……。

 お父様がアメリア公爵にした数々の“やらかし”を聞いた後には……ザパド領の現状は自業自得と納得できてしまった。


(このままでは、遠からずザパド領は滅びてしまう)


 私は、お父様が王都に来るたびに、何とかアメリア公爵と和解するよう話をしてみた。

 こちらが怒られるばかりで、全く聞き入れてはもらえなかったけど……。

 私が学問に打ち込みだしたのは、その頃から。

 初めこそ、ザパド領に被害をもたらしたアメリア公爵のやり口を調べるのが目的だった。

 でも、調べれば調べるほど、その手腕に引き込まれてしまって……。

 魔道具や珍しい魔法だけではない。

 平民の人材育成、街道の整備といった、今までの貴族なら気にも留めないところに、しっかりと手が入れられている。

 私はずっと疑問だった。

 幼い頃に見た領都の下町には様々なお店があって、街の活気は平民の商人達が支えていた。

 静かな貴族街よりも、大小のお店の並ぶ下町の方が、私にはずっと魅力的に映っていた。

 ザパド領が本当に商業によって成り立っている領地だというなら、領主が本当に大切にしなければいけないのは、お父様が無碍に扱う平民の商人達なのではないか?

 話に聞くセーバの街は、その答えだった。

 いつしか、セーバの街とアメリア様の政策は、私にとってのお手本になっていた。

 私は学院に通いつつ、もし自分がアメリア様と同じように領地を運営するなら、どのような知識が必要か?という視点で、先生方の研究室や図書館に通うようになっていた。

 また、学院がお休みの時には、王都の下町に出て平民達の声を聞くようにした。

 王都の平民から聞こえてくる噂は、大抵アメリア様の素晴らしさとお父様の愚かさがセットになっていて、領主の一族として自分が責められているような気分にさせられたけど……。

 それでも、平民の率直な話は、今のザパド領に何が必要なのか、それを知る良い機会にはなったと思う。

 そんなこんなで学院での1年が過ぎた頃、王都に鉄道が開通した。

 王都に来ていたお父様の目もあって、私は鉄道開通のセレモニーには行けなかったけど、聞いた話ではそれは盛大なものだったそうだ。

 そして、その夜に王宮で開かれた鉄道開通を祝うパーティー。

 国を代表する上級貴族としてそのパーティーに参加したお父様は、ひどく不機嫌な様子で帰宅してきた。

 とても恐ろしい顔で、とてもパーティーの様子など聞ける雰囲気ではなかったけど……。

 そして、次の朝早く、お父様は領地へと帰って行ってしまった。

 これが、私がお父様を見た最後……。

 あれから直ぐに、体調を崩されたお父様は領地から出て来なくなり、病が伝染(うつ)る可能性があるからと、私は領地に戻ることを禁じられてしまった。

 それからの私の周囲の変化は、まるで悪夢のようだった……。

 まず、王都邸に仕える私と仲の良かった侍女や召使い達が、領地に戻ることになったと言って、次々に去っていってしまった。

 ある者は体調を理由に、ある者は領地に残した家族の事情で……。

 理由は様々だったけど、私の前からいなくなってしまったのは同じ。

 一番ショックだったのは、ずっと昔から私について来てくれていた専属侍女のポーラと、学院にも私の侍女兼生徒として通ってくれていたポーラの娘のセーラが、揃って領地に帰ってしまったこと。

 なんでも、領地に残して来た旦那さんの体調が良くないそうで、どうしても領地に戻らなければならないと、泣いて詫びられた……。

 せめてセーラだけでも残ってくれればと思ったのだけど、最悪の場合、父親の最期に立ち会えなくなると言われれば、無理も言えなかった。

 そうして抜けていった侍女や召使いの代わりは、ちゃんと領都からやって来たけど……。

 彼らは……勿論、最低限の仕事はしてくれる。

 でも、それだけ。

 最近分かってきたこと……それは、彼らの仕事が恐らく私や私の周囲の監視であるということ。

 それとなく私の交友関係に目を光らせ、何か問題を起こさないかと監視しているらしい。

 もっとも、彼らが何を問題と考えているのかは、よく分からないけれど……。

 そんなに心配せずとも、私に“交友関係”などないのにね……。

 学院入学当時、私の周りにはザパド領出身の生徒を中心に、多くの人が集まっていた。

 私はかなり学業に力を入れていたけど、それでも週末にはお茶会やパーティーの誘いが途切れることもなく、それなりに充実した学院生活を送っていた。

 それが、お父様が体調を崩された頃から徐々に変わっていってしまった。

 パーティーやお茶会の誘いが途絶え、ザパド領出身の学院生徒の数が目に見えて減っていった。

 経済的な問題が多いと知り、お父様に領主として何とか支援はできないかと手紙を書いたりもしたのだけれど、今は領の立て直しでその余裕はないと、却下されてしまった。

 そして、領地がそんな状況であれば無理も無いのだけど、王都邸の予算も少なくなっていった。

 以前は頻繁に送られて来ていた宝石類やドレスも、今では全く送られてこない。

 まぁ、着ていく場所もなくなったので、困りはしませんけど……。

 お茶会やパーティーへの招待状も来ず、こちらから招こうにもその相手もお金も無く……。

 貴族としての社交が完全にストップしてしまった私は、学院でも完全に孤立してしまった。

 そのくせ、以前よりもよく聞こえてくる無遠慮な噂。


『アメリア公爵に喧嘩を売ったザパド侯爵家はもう駄目だ』


『あれだけアメリア公爵に失礼な態度を取っていたのだから、今の状況も自業自得だ』


『噂では、ザパド侯爵には王家に対する反逆罪の疑惑まであるらしいぞ』


『これじゃあ、王家に見離されるのも当然だな』


 噂の真偽はともかく……いえ、恐らく真実ですが、だからこそ、今の状況を作った領主の娘として、少しでも領地の状態を立て直さなければなりません!

 そのために、今の私にできること……。

 正直、勉強しか思いつかなかった。

 領地に戻ることはできないし、学院を卒業していない今の私は、王国の上級貴族としても半人前。

 人脈を広げようにも、そもそも孤立しているわけで……。

 不思議なことに、私やザパド領がこのような状況にも関わらず、クボーストの代官の娘であるキルケさんだけは、今まで通りの学院生活を送っている。

 正確には、キルケさんと、その周囲の者達だけど……。

 クボーストの代官であるボダン伯爵には、お父様がクボーストの街の自治権を与えているから、ザパド領全体の状況に関係なく、クボーストが独自に街を運営するのは問題無い。

 問題があれば、お父様が待ったをかけているはずだから、とりあえず今のままで問題は無いということなのだと思う。

 でも、私の知る限り、連邦との貿易で成り立っていたクボーストも、ザパドに負けず劣らず厳しいはずなのに……。

 どうしてキルケさんの周りだけが、あのように羽振りがいいのか、その理由が分からない。

 一度聞いてみたけど、もう取り付く島もなかった……。


「それは勿論、お父様の統治の手腕が優れているからですわ。

 ザパド侯爵も体調が優れないようですから、いっそ、領地の全てをお父様にお任せすればよろしいかと思いますよ。

 ソフィア様も、学院生活でお困りでしたら、遠慮無く私を頼っていただいて結構ですよ」


 こんな感じで……。

 その後は、一切キルケさんと関わるのは止めてしまった。


 そして、今日の開校式。

 本来であれば、学院にザパド侯爵家の人間がいる以上、ザパド領の貴族であるキルケさんは、私に質問する役を譲らなければいけないのに……。

 この上、私が黙ってなんの発言もしないとなると、周囲に対してキルケさんの立場はザパド侯爵家よりも上だと、私自身が認めることになってしまう。

 しかも、あの喧嘩腰の質問も、ザパド領の総意と取られるおまけ付きで。

 流石に、この状況は看過できません!

 ……いえ、考えようによっては、これはよい機会かもしれません。

 ザパド侯爵の娘である私が、アメリア様に対してこんなことを言って良いのかと迷っていたけど、これで踏ん切りがついた。

 もう、当たって砕けろです!


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