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【書籍発売中】転生幼女は教育したい! 〜前世の知識で、異世界の社会常識を変えることにしました〜  作者: Ryoko
第3章 アメリア、教育改革をする

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朝三暮四

 こうして迎えたモーシェブニ魔法学院新年度開校式。


「…………ります。それから、最後にもう一つ。皆さんに大切なお知らせがあります。

 国王陛下のお言葉を受け、我が学院では、本年度より一般教養科目の単位認定試験を行うことになりました。試験内容は…………」


 そして、私の説明が進むにつれて、徐々に青ざめていく生徒たち。


『な、なんだよ、試験って……』


『そんなの、とりあえず受けておけば問題無いだろ?』


『えっ? 試験結果を貼り出すって、じゃぁ、点数ばれちゃうじゃん!』


『いや、点数に関係なく卒業できるんだから、あと1年、理由をつけて試験を受けなければ……』


『なッ!? 卒業後も記録が残る? 誰でも閲覧可? 一般教養検定?』


『それって……。今後の就職や結婚でその点数を聞かれるってこと!?』


 ざわつく会場。

 今にも大声で文句を言い出しそうな生徒たち。

 でも、言えない。

 この制度は、“国王陛下のお言葉”によって決められたものだからね。

 まぁ、実際に考えたのも作ったのも私だけど……。


『最近、父上が魔法ばかりでなく勉強もしっかりしろとうるさかったのは、このことか……』


『お母様が珍しく書斎で真剣にご本など読んでいるから、不思議に思っておりましたが、そういうことですか』


 今回の学院改革と一般教養検定の導入は、学院だけの話ではない。

 これは、国としての政策だ。

 問題を作成しているのは学院だけど、検定試験の具体的な実施方法を決めたり、現場の調整をしているのは王宮だ。

 今年度実施される学院の単位認定試験の様子で最終調整をし、来年には第一回一般教養検定の告知がされることになっている。

 そんなわけで、当然のこととして、王宮で働く上級貴族や一部の官吏は、既にこのプロジェクトに大きく関わっているのだ。

 だから、一応秘密にはなっていたけど、既に王都の社交界で噂になるくらいには、この話は知れ渡っている。

 そして、これは大半の貴族達にとって、決して他人事ではないのだ。

 そういう訳で、一部の情報通の貴族などは、既に自分の試験対策を始めているらしい。

 一応箝口令(かんこうれい)が敷かれていたらしいから、地方の貴族や学院の生徒達まではその情報は伝わっていなかったらしいけど、それも今日までの話。

 今日の学院での発表に合わせて、王家からも全国民に向けて正式な告知が出されることになっている。

 当面の影響は王宮と学院のある王都周辺に限られるだろうけど、それも時間の問題だ。

 話を聞いた侯爵家辺りが、官吏の採用にこの検定制度を導入すれば、それだけで地方も王都と同じ状況になるからね。

 さて、我が校の生徒たちは、この降って湧いた災難をどう捉えたのか……。


「せっかくの機会です。

 皆さんからの質問を受け付けますので、今回の単位認定試験導入について、聞きたいことがある方は挙手をお願いします」


 私の言葉を聞いて、生徒たちが周囲を見回す。

 聞きたいこと、言いたいことは山ほどある。

 だからといって、こういった場で誰も彼もが言いたいことを無秩序に主張するような、そんな空気の読めない子供は、上流階級の子女の集まるこの学院にはいない。

 こういった場合、皆を代表して質問するのは、各領地のリーダーと相場が決まっている。

 その中でも、立場的にもっとも優先されるのが、王都、というか、国の代表である二人。

 ライアン王太子殿下とサラ王女殿下。

 でも、この二人からの挙手はない。

 まぁ、2人とも既に知っている話だしね……。

 で、王都組のリーダー2人が何も言わないのに、他の王都貴族が何か言えるはずもなく、王都貴族は沈黙。

 代わって手を挙げたのは、気位の高そうな大人びた印象の3年生。


「ザパド領、クボーストの代官を務めますボダン伯爵の娘、キルケと申します。

 噂のアメリア公爵と共に学べる機会が持てましたこと、光栄に存じます。

 さて、今日お会いしたばかりのアメリア公爵にこのような不躾な事を尋ねるのも(はばか)られるのですが、せっかく頂いた機会ですので……。

 お聞きしたいことは2点ございます。

 まず、今年度から(わたくし)たちに受けるよう言われた試験ですが、これは本年度入学の1年生から始めるべきではないでしょうか?

 これから3年間、十分に勉強する時間のある1年生と、十分な勉強時間が残されていない2,3年生に同じ試験を要求するのは、(いささ)か不公平が過ぎると思うのですが如何でしょう? 」


 彼女の意見に、講堂に集まった半数以上の生徒たちが頷く。主に2,3年生が……。

 そりゃあ、そうだ。

 誰だって、できればこんな試験、避けたいに決まっている。

 ここで、試験を止めろとか、来年度からにしろとか言わないのがポイントかな……。

 それだと、生徒側対学院側(王家含む)の対立関係みたいな印象になってしまう。

 そうなると、自分達を勝手に仲間に引き込まないでって感じで、彼女の意見には賛成しにくくなる。

 でも、ここで、試験をするのは賛成だけど、公平を期すために1年生のみの実施にすべきと言うと、微妙に印象が変わってくる。

 この場合、講堂内にできる対立関係は、1年生対2,3年生だ。

 試験自体に反対している訳ではないし、自分達は多数派だ。

 別に自分達が試験を受けるのが嫌だから言っているのではなく、試験は“公平に”実施すべしと言っているだけだ。

 意図しての発言かは不明だけど、大義名分もあるし、数を味方につける上手い言い回しだね。

 まぁ、朝三暮四だけど……。


「それからもう一点、生徒全員に試験を受けさせるということでしたが、これは如何なものでしょう?

 この学院の本来の生徒である貴族が、試験を受けるのは分かります。

 ですが、本来は“従者”にすぎない平民の生徒にまで、試験を受けさせる必要があるのでしょうか?

 この国の民を率いていく立場の貴族に高い教養が求められるのは納得できますが、貴族に隷属するだけの平民に無理に教養を持たせる必要は無いと思うのですが……」


 この意見にも、かなりの生徒が頷いている。

 (たち)の悪いことに、その中には多くの平民の生徒も含まれている。

 分かっているのかなぁ……。

 これって、平民に知恵などつけさせるな、平民は黙って貴族に従っていればいいのだって、そういうことだよ?

 多分、平民の生徒は分かっている。

 彼女の言っている意味も、貴族のそういう横暴な思考も……。

 分かった上で、試験を受けなくてもよいという実利を取っているだけだ。

 そして、ここにいる大半の貴族の生徒は、決して認めはしないけど思っているはずだ。

 平民に負けてしまったらどうしようと……。

 貴族は支配する立場とか、平民は隷属するべきとか、そんな思想的なことの是非はどうでもいい。

 とにかく、平民と自分の点数を比較されるような事態は極力回避したい。

 ただ、それだけの話。

 まぁ、個々の思惑はどうあれ、見事に貴族、平民の利害が一致した訳だ。

 貴族はともかく、平民にとっては周囲に実力を示せるチャンスだと思うんだけどねぇ……。

 この辺は、目先の利益に釣られてしまう子供の幼さと、平民とはいえ比較的貴族に近い扱いを受けている上流階級出身の子女であることが影響しているんだろうね……。

 今の現状に不満も不安もないなら、現状維持が一番、ということだろう。

 ともあれ、キルケさんの主張は、どちらも生徒たちの間でそれなりの賛同を得られているようだ。

 まぁ、関係無いけど……。

 こんな意見、試験導入の準備段階で、いくらでも出てるからね。

 それよりも、アメリア“公爵”かぁ……。

 私と“共に学べる機会”って、“教師と生徒の立場で”って意味では言ってないよねぇ?

 なんか、そこはかとない悪意を感じるし……。

 言ってることも、それ、質問じゃなくて要求だよね?

 この話、王家と学院で決められた決定事項なんだけど……。

 どうも、相手が自分と同年代の子供ということで、討論大会か何かと勘違いしてるっぽい。

 うん、ここは学院長として、ビシッと言っておく必要があるね!


やっと開校式に戻ってきました。

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