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【書籍発売中】転生幼女は教育したい! 〜前世の知識で、異世界の社会常識を変えることにしました〜  作者: Ryoko
第3章 アメリア、教育改革をする

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問題児

 初めて訪れた実技棟。

 私のみならず、教師達が皆レオ君やレジーナのことも知っている……なぜ?

 その謎は、少し話を聞いたらすぐに判明した。

 どうやら、ここの教師陣は皆、私達がやったボストクでの模擬戦の話を伝え聞いていたみたい。

 当然というべきか、実技担当の教師にはボストク領の出身者も多い。

 その伝手で、私達がボストク領でやらかしたあれこれも、色々と聞いているんだって。

 曰く、あの憎き問題児を、完膚なきまでに叩き潰してくれた子供がいると……。


「あいつには、本当に手を焼かされたんです!」

「話を聞いた時には、本当にすっとしました!」


「レジーナ様が仇を取ってくれて、本当に……。

 あのブルートが小さな女の子にやられて失神したって話を聞いた時には、初めは信じられなくて!

 でも、本当のことだって聞いて、その晩は友人と祝杯をあげたんです!」


 ブルートって、確かレジーナと対戦した感じの悪い男爵だっけ?

 一体、何をやらかした?

 落ち着いたところで、詳しく話を聞いてみたんだけど……。

 簡単に言ってしまうと、教師いじめ。

 気に入らない先生に模擬戦をふっかけて、他の生徒たちの見ている前で恥をかかせたりとか、訓練中にわざと先生に怪我をさせたりとか。

 女性陣に至っては、セクハラまがいの嫌がらせまであったそうだ。

 それで学院を辞めてしまった教師もいたらしく、先程一緒に祝杯を上げたと言っていた友人も、元同僚なんだって……。


「少し、手加減し過ぎましたね……」


 レジーナさんもボストク領での模擬戦を思い出して、怒り心頭のご様子。

 確かに感じの悪い奴だったけど、レジーナさん、身動き取れない男の首元に木剣突き立てて気絶させてたよねぇ?

 しかも、皆が見ている前で……。

 あれで手加減って、次は何をするつもりなんだか、私は恐ろしくて聞けないけど……。

 ともあれ、


「でも、彼って確か男爵ですよね?

 こう言ってはなんですが、高々男爵程度で、実技担当の教師をどうこうできるのですか?

 学科担当の教師ならまだ分かるのですが……」


「彼の魔力量は子爵としても高い方でしたから……。

 彼の家は祖父母、両親とも男爵でして、彼個人の単純な魔力量だけなら十分に子爵の基準を満たしているのですが、家の血統の問題で子爵とは認められませんでした」


 そういえば、そんな制度もあったねぇ……。

 この国の爵位授与には、個人の魔力量だけでなく、その血筋の将来性も考慮される。

 要は、魔力の多い子孫を残せそうかって部分。

 魔力が殆ど無い私なんかに一応公爵の爵位が認められているのも、その血筋のおかげ。

 ぶっちゃけ、私は駄目でも私の子供の魔力は高いかもってことだ。

 逆に、いくら個人の魔力が高くても、両親や祖父母の魔力が平民並みだったりすると、大抵は一代限りの騎士爵しか認められないって訳。

 ブルート男爵の場合は、親も祖父母も男爵でそれなりの魔力しかなかったから、爵位的には男爵ということになったらしい。


「まぁ、そんな訳で、彼の気持ちも分かるのです。

 自分には十分な魔力があるのに、自分より魔力の少ない者が子爵を名乗り、自分は男爵……。

 それがどうにも納得いかなかったようで、よく自分よりも魔力の少ない子爵位の教師に絡んでいました。

 実際、彼の魔力量は子爵位の教師達と比べても高い方でしたし、体格にも恵まれていた。

 ボストク出身で幼い頃から戦闘訓練もしてきている。

 正直なところ、彼の横暴を実力で抑えられる教師の方が少なかったのです……」


 そして、私の横で話を聞いていたレジーナがおもむろに口を開く。


「話になりませんね」


 レジーナの一言に、黙って俯いてしまう教師陣。


「いや、確かにレジーナ嬢の言う通りだが、我々としてもどうしようもなく……」


「いえ、私が言っているのは例の男爵のことです。

 先生方には対抗手段がなかったのですから、仕方がありません。

 それにしても、本当に、あの男! 勘違いも(はなは)だしい!」


 憤るレジーナに対して、周囲の教師達は当惑した顔を向ける。

 うん、私もレジーナに賛成。

 でも、教師陣の意見は違うらしい。


「えぇと、レジーナ嬢、私も彼のしたことが許されるとは思わないが、それでも同情の余地は十分にあると思うのだが……」


 ここにいる教師達の考えを代表して、老齢の教師が戸惑いを口にする。

 が、レジーナさんはというと……。

 


「……そもそも、前提が間違ってます。

 ここにいらっしゃる先生方は、皆さん生まれながらの貴族で、家柄にも魔力にも恵まれていらっしゃるのでしょう。

 ですが、私を含めた大半の平民は違います。

 魔力も恵まれた環境も無いのが当たり前で、それを少しでも何とかしようと努力しているのです。

 男爵でありながら子爵並みの恵まれた魔力を与えてもらっておいて、その上なにを望むというのですか?

 人より優れた魔力を与えてくれた両親に感謝するべきで、親のせいで自分は子爵になれないなどと、見当違いも甚だしいです。

 大体、魔力量など本人の努力とは関係なく親から与えられたものではありませんか。

 本人の功績など一欠片もありません。

 それに胡座(あぐら)をかいて駄々をこねる子供の、どこに同情の余地があるのでしょう?」


 レジーナ先生にばっさりやられて、皆さん、ぐうの音も出ない模様。

 何やら、考え込んでしまっている先生もいる。

 まぁ、しょうがない。

 この国の貴族は、“人の能力=魔力量”みたいに無意識に考えているところがあるから。

 能力があるのにそれが正当に評価されないのは可哀想、みたいな思考になるのだと思う。

 魔力量に関係なく、何ができるか?で判断するセーバの街の価値観とは違うのだ。

 先生方の思考も一応理解できる。

 (もっと)も、そこはこれから変えていってもらわないといけないけどね。


 その後も色々と話を聞いて、大体の状況は理解できた。

 結論。実技教師、ショボ過ぎでしょ!?

 ブルート男爵のケースはかなり酷かったみたいだけど、ブルート男爵ほどあからさまではないってだけで、似たようなケースは割と日常茶飯事だったりするらしい。

 決定的な理由は2つ。

 教師の実力不足と、指導力の不足。


 それって、もう根本的に駄目なのでは?


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