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【書籍発売中】転生幼女は教育したい! 〜前世の知識で、異世界の社会常識を変えることにしました〜  作者: Ryoko
第3章 アメリア、教育改革をする

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実技棟訪問

 ある日の放課後、午後の実技訓練が終わり、生徒のいなくなった実技棟を私は訪れた。

 まずは、率直な現場の意見を聞いてみるためだ。

 来年度から正式に学院長に着任するということで、実技棟の教師陣とも既に顔合わせは済ませている。

 ただ、当面の問題として、座学の一般教養の方を優先していたため、実技棟の先生とは初めに簡単な挨拶をしただけだ。

 実技訓練自体は暇を見つけてはこっそり見学に来ていたので、どういう授業が行われているのかは理解している。

 ただ、実際に実技担当の教師陣と指導内容について具体的な話をしたことは、まだ一度もないんだよね。

 王妃様に依頼された訳でもないし、実技訓練の改革まで手が回らなかったってのもある……。

 冗談抜きに、ほ・ん・と・う・に!、忙しいんだよ……。

 何故って、この件に関しては、レジーナやレオ君は勿論、サラ様にも手伝ってもらえないから。

 来年度、私の学院長就任に合わせて、実はこの3人も学院入学が決定している。

 サラ様は私より1つ下だし、レジーナやレオ君は私よりも年上なんだけど、学院への入学年齢は大凡(おおよそ)の目安に過ぎないので、特に問題無いらしい。

 年齢の数え方にしても、満年齢か数え年かは地方によって違うし、そもそも、この国には正式な戸籍も存在しないのだ。

 税を取るために領主や代官が自分の民を管理する名簿や、国内の貴族を王家が管理するための名簿等は存在する。

 ただ、どれもそれほどしっかりしたものではない。

 ほとんど、自己申告の世界だ。

 それに、学院の場合、入学した上級貴族に仕える(とし)の近い側近を、その上級貴族と一緒に学ばせたいとか、齢の近い兄弟を間隔を空けて入学させることで、家としてより広い年齢層に人脈を広げたいとか、そういう現実的な思惑もあったりするのだ。

 かくいうレジーナ、レオ君、サラ様の3人も、私の側近として、学院内での私のサポートを目的に入学することになっている……。

 レジーナ、レオ君はいい! 元々、その予定だったし……。

 でも、サラ様は違うよね!

 あまり言うとへそを曲げるから言わないけど、サラ様は王女様で、私の側近ではありませんよ!

 まぁ、側近云々は抜きにして、サラ様のことは正直妹みたく感じているからねぇ……。

 一緒に学院に通えるのは正直うれしいし、何かと心強い。

 とはいえ、3人の入学は、あくまでも生徒としてだ。

 学校運営には教師以外関われないから、レジーナやレオ君を助手として学院に入れることはできない。

 だから、名目上レオ君は生徒として、レジーナはレオ君の従者という扱いでの入学だ。

 当然、サラ様も生徒として入学してくる。

 そんな生徒として入学してくる子供に、自分達も受けることになる試験問題やカリキュラムの作成を手伝わせる訳にはいかない。

 そういう訳で、全てを一人で処理しないといけない私は、今現在大忙しなのだ。


 とはいえ、実技の方も放置はできないんだよねぇ……。

 そもそも、初めに王妃様の依頼を受けた最大の理由は、魔力至上主義の思想に毒されたこの国の人間を、教育し直すシステムを作り出すことなんだから。

 この学院で魔力量が全てではないと学んだ貴族や上流階級の平民が増えれば、近い将来この国の常識は確実に変わると思う。

 すっかり軍国主義に染まっていた日本人が、戦後の教育改革、民主化政策であっさり宗旨替えするのに数十年かかっていないのだ。

 市場には魔石で誰でも動かせる便利な魔道具が増え、学院では魔力量が全てではないという教育が施される。

 魔力量に関係なく実力を評価される人が増え、そういう人が活躍することで更に魔力量以外の部分に目を向ける人が増える。

 うん、完璧だ!

 でも、そのためには、現状のこの学院の魔法実技を何とかする必要があるよねぇ……。


 そんな訳で、やって来ました、実技棟。

 私の前には、学科棟の先生方とは打って変わって、いかにも体鍛えてます!って感じの男ども(一部女性)が並んでいる。

 対するこちらは、子供が3人。

 そう、今日は私の他にレオ君とレジーナも一緒だ。

 今回の話し合いは、試験問題云々の話し合いではないからね。

 来年度入学予定の子供が、学院ではどのような授業をやっているのか聞きに来たところで、それはただの学校見学だ。

 特に問題は無い。

 立場的にも、一応上級貴族の私が、護衛騎士や侍女を連れてくるのは、むしろ当然なのだ。

 何よりここは、魔法実技に力を入れる実技棟。

 魔力量や戦闘力に重きを置く人間の巣窟。

 この国では珍しい、学問好きの集まる学科棟とは違うのだ。

「魔法は気合だ!」と(のたま)い、頭よりも(こぶし)で語ろうとする人たちの集う場所。

 そんな場所に、か弱い私が一人でやって来たら、何をされるか分かったものではない!

 私ももう12歳。立派な乙女だ。

 最低限の周囲への警戒は必要でしょう!

 えっ? 警戒し過ぎ?

 体育教師に何か恨みでもあるのかって?

 ……いえ、いえ、ありませんよ、そんなものは!

 だって、実際、こっそり見学した魔法実技の指導は大体そんな感じだったし……。

「気合を入れろ」とか、「集中しろ」とか、何のアドバイスにもならない事を叫んでいただけだった。

 ただでさえ魔力至上主義のこの国で、あんな脳筋な授業を見せられて、庶民並みの魔力しか持たない私に、どう安心しろと?

 正直なところ、うだうだ言うなら力を見せろ、みたいな展開になる未来しか想像できない。

 まぁ、いつもの事だけどね。

 だから、二度手間にならないように気を利かせて、初めからレオ君やレジーナも連れて来たってわけ。

 私だけだと、もし決闘とかになって私が勝っても、私が特別みたいに言われちゃうからね。

 貴族としては最下位の男爵であるレオ君、平民としても魔力の高い方ではないレジーナを見せれば、私だけが特別ではないって主張しやすい。

 ぶっちゃけ、そのためについて来てもらったんだけど……。


「「「「「アメリア学院長、よくおいで下さいました!」」」」」


「本日は、お忙しい中お時間を割いていただき大変恐縮です」

「むさ苦しい場所で申し訳無いのですが、どうか遠慮なさらず」

「今お茶を用意させますので、どうぞこちらにお座り下さい」


 なんだろう、これ?

 実技棟の教官室に入ると、そこにいる教師全員が一斉に立ち上がって、私の方に向かってくる。

 警戒する私達の前に並んだ教師達は、一斉に頭を下げて挨拶。

 続いて、この歓迎ムード……。

 正直、訳が分からない。


「おぉ、一緒におられるのは巨人討伐の英雄の一人、レオナルド男爵ではありませんか!」

「お会いできて光栄です!」

「ご入学後は他の生徒の目もありますので教師としての立場を取らせていただきますが、レオナルド男爵のことは尊敬しています」


 あれ? レオ君も?

 レオ君の場合、あのゴーレム討伐も役割り的にはサラ様の護衛で、直接サラマンダーやゴーレムを倒したって訳ではない。

 何より、辺境の無名の男爵、しかも未成年ということもあって、その実力は殆ど認められていない。

 偶々その場に居合わせただけで国王陛下に表彰されたと、むしろやっかみのほうが強いんだよね。

 そんなレオ君に対しても、教師達は子供に対するとは思えない敬意を払っている。

 と、レジーナさんの密やかな黒いオーラが後ろから……。

 自分だけ無視されているのが気に入らないらしい……。

 誤解のないように言っておくと、レジーナは平民の侍女である自分と貴族であるレオ君では、少なくとも対外的には立場が違うと、きっちり心得ている。

 勿論、今回のような場面でも、むしろ自分は空気となって密かに周囲を観察する役割りと、周囲の対応など気にも止めない。

 あの、ゴーレム討伐の一件を除いては、だけど……。

 まだ、根に持っているらしい……やれ、やれ。


 と、そこに新たな声がかかる。


「失礼ですけど、そこの侍女はレジーナ様では?」


「ええ、彼女は私の侍女で、確かにレジーナと言いますけど……」


 なぜ、私の侍女を知っている?

 しかも、ひと目で平民と分かる子供に何で“様”付け?


「あぁ、やっぱり! レオナルド男爵だけでなく、あのレジーナ様にまで会えるなんて、感激です!」

「えっ!? レジーナ嬢!? 」

「何!? あの侍女、レジーナ様なの!?」

 

 レオ君に続いてレジーナも教師達に囲まれてしまう。

 特に、女性教師が多い。

 

 なんだろう、この状況は……?

 百歩譲って、私だけなら分かる。

 一応次期学院長で公爵だし、私が女神様から習ったという設定の珍しい魔法は、一部の貴族や軍属の間ではそれなりに注目されている。

 セーバの街の魔術師は皆優秀だという噂も広まっているから、それを育てた私に興味があるのかもしれない。

 でも、レオ君や、何よりセーバの街以外ではただの平民のはずのレジーナまで注目されているなんて……。


 想定外過ぎる対応に、私達3人は目を回しながら周囲が落ち着くのを待つことになった。


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