待ち伏せ×待ち伏せ
タイトル、変更しました、、
王都出発の朝。
私は今朝早くに届けられた報告書に目を通している。
「レジーナ、どう思う?」
「アメリア様かサラ様を狙う刺客だと思います。
昨晩はエスタの町に泊まったそうなので、恐らく襲撃は明日かと」
「このタイミングでとなると、そうなるよねぇ……」
王都とセーバの街の中間地点に新たに作られた町がエスタだ。
王都を朝出発した列車は夕方にはエスタに到着し、翌日の朝にエスタを出発。
その日の夕方にセーバの街に到着する予定になっている。
そのエスタから、昨夜、冒険者を名乗る30人程の怪しい集団が泊まったとの知らせが届いた。
その自称冒険者達は、セーバの街の商会に依頼されて来たそうだ。
今のセーバの街には、アメリア商会やレボル商会以外にも、大小たくさんの商会が軒を連ねている。
でも、何か後ろ暗い依頼でもない限り、セーバの街の商会が王都の冒険者ギルドに依頼を出すことなど有り得ない。
だって、王都の冒険者よりも腕の良い一般市民が、セーバの街にはたくさんいるから。
で、一般市民では手に負えないような案件がでた場合は、皆セーバリア学園に相談する。
そこで、対応できそうな人材を紹介してもらうのだ。
だから、これだけ街が大きくなっても、セーバの街には冒険者ギルドはできないんだよね。
そんなだから、セーバの街の商会の仕事を王都で受けて来たなんて、嘘に決まっている。
念の為、セーバの街の全ての商会に確認もしたらしいけど、どこもそんな依頼は出していないそうだ。
30人もの目的不明の自称冒険者が、このタイミングで嘘をついて滞在。
まぁ、狙いは私達で間違いないだろう。
普通に狙うなら、警備の薄さと襲撃のし易さを考えたら、エスタ滞在中だよねぇ……。
でも、それなら襲撃者と思われる団体が、前日に揃って襲撃予定の町に宿泊して、しかも翌日出て行ったりはしないだろう。
私なら、一人二人を斥候に出して、残りは町の外に待機させる。
もしくは、客の振りをしてそのまま町に滞在して、獲物がやって来るのを待つ。
列車の運行予定も確認に来たらしいし、やはり襲撃は明日、列車がエスタを出発した後だろう。
ただの盗賊がわざわざ列車を襲うとは思えない。
馬車とは比べ物にならない猛スピードで走り抜ける大質量の物体だ。
馬以上の速さを知らないこの世界の人達にとって、列車を攻撃しようなんて、恐怖以外の何物でもないはずだ。
私だって、新幹線がホームを通過していく時は、少し怖かったもの。
列車を見慣れないこの世界の人が無意識に感じる恐怖は、きっとそれ以上だと思う。
だからこそ、この時期に敢えて列車を襲おうなんて考える連中が、ただの盗賊とは思えない。
狙いは公爵、若しくは王女殿下の殺害か拉致。
若しくは、列車の存在自体を目障りに感じている者か……。
多分、その両方。
列車が事故を起こし、王族か制作責任者が害される。
それで、この国の鉄道計画は暗礁に乗り上げる……。
やりそうなのに一人心当たりがあるけど……。
流石に、やるかなぁ……?
王族の襲撃なんて、たとえ侯爵でも、ばれたら処刑まっしぐらなんだけど……。
とにかく、しっかりと対策だけはしておこう。
「セーバの街にも詳細を連絡しておいて。
念の為に今日明日は警戒待機で。
何かあった時の対応は、こちらから別途指示がない限りマニュアル通りでと伝えておいて」
「了解しました、アメリア様」
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朝の少し遅めの時間に王都を出発した列車は、私達を乗せて夕方無事エスタに到着した。
今のところ、特に目立った動きは無いらしい。
私達は予定通りエスタの宿で一泊し、翌日駅舎へと向かった。
駅舎の2階。関係者以外立入禁止の事務所の中が何やら騒がしい。
動いたかな……。
「おはようございます。何かありましたか?」
「あっ、おはようございます、アメリア様。
昨日アメリア様がおっしゃっていたように、今朝早く鉄道の線が途切れました。
今は領都との連絡が取れない状態です」
やっぱり線路を破壊してきたか。
「場所は分かる?」
「はい、第3キャンプ村までは通信ができますので、鉄道が寸断されたのは第2キャンプ村と第3キャンプ村の間だと思われます」
うん、ここからの距離を考えても、例の集団で間違いなさそう。
たんに列車事故を狙ってるだけならもう犯人はいないだろうけど、襲撃込みの計画なら、その辺りに犯人もいるだろう。
今朝早く寸断が確認されたなら、セーバの街も既に事態を把握して、手筈通り臨時列車で討伐隊を派遣しているはずだけど……。
こちらも、一応の備えはしておこう。
「私達が乗ってきた列車って、貨物車両にはまだかなり余裕があったわよね?
急いで積み込んでもらいたいものがあるんだけど……」
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(ゲイズ視点)
「どうして、こうなった!?」
遥か遠くから、猛スピードでこちらに向かってくる列車は、そのまま破壊された線路に突っ込んで横転するはずだった。
そのはずが、目に見えてスピードを落とし始めた列車は、そのままゆっくりと減速し、破壊された線路の手前で止まった。
まるで、線路が破壊されている事を知っていたかのように……。
窪地に身を伏せて飛び出すタイミングを計っていた俺達は、完全に飛び出すタイミングを見失い、呆然とする……。
と、そこに、俺達を囲うように多くの人影が現れる。
(なッ、囲まれている!?)
俺達を逃さないよう遠巻きにしている兵達が、一斉にその囲みを狭めようとしている。
(不味い! この位置では、一斉に攻撃魔法を撃ち込まれる!)
とにかく、ここから移動して、囲みを一点突破で……。
いや、あれは訓練された兵だ。
一点突破は想定内……。
まずは、相手の意表を突いて陣形を崩す!
「とにかく、列車に近づけ!
攻撃魔法が来るぞ!
列車を盾にすれば、強い魔法は撃てん!」
事態が飲み込めず、パニックになりかけていた冒険者やゴロツキ達が、俺の指示で反射的に列車に向かって駆け出す。
「王女と公爵を押さえろ!
子供を人質に取れば、あいつらは手が出せん!」
子供を人質に取って逃げるというのは、奴らの思考には馴染みやすかったのだろう。
急に勝機を見出したかのように、勢いづき始める。
逆に、今まで慎重に包囲を狭めていた連中が慌て出す。
王女と公爵の乗る車両に乗り込まれる前に何とか確保しようと、一気にその距離を詰めてきた。
前方に槍を構えながら、俺達を囲む円を狭めていく。
俺達を刺し貫こうとする槍を、剣で払いのける。
離れたところから見れば、敵味方は一所に密集しているように見えただろう。
(今だ!!)
俺は、懐から片手で掴めるほどの大きさの丸い球を取り出すと、それに魔力を込めて自分の足元に転がした。
瞬間、球からは真っ白な煙が吹き出し、それが敵味方の集団を包み込むように広がっていく。
『吸うな!! 毒だ!!』
どこかで女の声が聞こえたが……。
続いて、ばたばたと人が倒れる音が聞こえてくる。
びゅうううううぅぅぅうぅぅううぅぅぅぅ
そこに、突然の突風が吹き抜け、煙が払いのけられてしまう。
と、そこには、男女二人の子供に守られた王女殿下の姿。
(あの風は、王女殿下の仕業か……? そういえば、風の単一属性とかいう話だったか……)
風魔法は毒煙の天敵だが、もう遅い。
敵の殆どは、既に地面に転がっている。
(こちらは、殆ど無事だな)
連れて来た連中には、予めあの毒が効かなくなる薬を、ここ数日、飲ませ続けている。
なかには体質的に解毒薬の効かない者もいるが、誤差の範囲だ。
そいつには、運がなかっただけの話だ。
もっとも、すぐに吹き飛ばされてしまったあの状態では、どいつも致死量には達していまいが……。
ともあれ、形勢逆転というわけだ。
「お前たちは護衛の子供を始末したら、王女の身柄を確保しろ。
念の為に、俺達が完全に逃げ切るまでの人質に使う。
残りは俺に付いて来い。公爵を探すぞ」
王女と一緒にいるはずの目標がいない。
一人で逃げたか、どこかに隠れているか……。
噂ではすごい魔法の使い手らしいが、魔力を殆ど持たないという。
所詮、噂は噂ということか……。




