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【書籍発売中】転生幼女は教育したい! 〜前世の知識で、異世界の社会常識を変えることにしました〜  作者: Ryoko
第2章 アメリア、貴族と認められる

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暗躍

(ザパド侯爵視点)


「くそ、くそ、くそ、くそ、くそ、くそ!!!

 殺してやる! 殺してやる! 殺してやる!!!」


「いえ、殺してしまうのは、ちょっと……。

 まぁ、ただ、恐らく死んだ方がマシといった事には、なるかと思いますが……」


 深夜の執務室で喚き散らす私に、どこか弱々しい声がかかる。

 名はゲイズ。

 ダルーガ伯爵が送ってきた男だ。


「むぅ、わかっておる! それが条件だったからな。

 あの小娘は好きにすればよい。大して役に立つとも思えんがな!」


「まぁ、膨大な魔力を持つザパド侯爵様にしてみればそうでしょうが、私共(わたくしども)のように魔力の少ない者にとっては、あの娘の知識は魅力的なのですよ。

 侯爵様やこの国の民のように潤沢な魔力があれば、あのような娘の怪しげな魔法になど頼る必要はないのですがね」


 目の前の男は、そう自嘲(じちょう)する。


「まぁ、分からんでもないがな。

 連邦は我が国と比べて皆魔力が少ないそうだから、あのような庶民(アメリア)にも使える魔法には関心があるのだろう。

 噂では、奴の持つ本に女神の知恵とやらが全て書かれているらしい。

 うっかり奴を殺してしまっても、その本さえ手に入れば、伯爵の目的は達成されよう」


 私は、部下が集めてきた情報を目の前の男に提供してやった。

 これで、作戦の成功率もだいぶ上がるだろう。

 生きたまま子供を拉致するというのは、存外難しいものだ。

 ただ本を奪い取るだけの方が、余程易しい。

 いざとなれば本だけを持ち帰ればよいということなら、小娘(アメリア)を殺すことにも、それほどの躊躇はしまい。

 それに、運良く奴が生き残ったとしても、あの本さえ奪ってしまえばもう魔法は使えまい。

 そうなれば、今度こそ貴族たる資格無しとして、全てを取り上げてしまえばよい。

 いずれにせよ、奴には相応しい地獄が待っているだけだ。


「今日、王宮で聞いた話では、(アメリア)の乗る列車は、5日後に王都を出発するそうだ。

 今から出れば、十分に間に合おう。

 襲撃が終わったら人目を避けて、我が領まで戻ってくればよい。

 列車さえ無ければ、列車襲撃の報が王都に届くのに7日はかかろう。

 その間に、ザパド領まで辿りつけば安全だ。

 私の署名の入ったその通行許可書があれば、ザパド領内もクボーストの国境も、誰でも何人でも自由に行き来できる。

 さっさとあの忌々しい小娘(アメリア)を連れて、ダルーガ伯爵のところに戻ればよい」


 作戦の最終確認をし、ゲイズが退室していく。

 ふん、鉄道を破壊し、アメリアの始末が済んだら、今度は鉄道の危険性を指摘して、戯言をほざくあの王を糾弾してやる。

 なにが、“古い考え方”だ!

 魔力の多い者が魔力の少ない者を支配する。

 それが現実ではないかッ!



(ゲイズ視点)


「ああ、侯爵からも確認を取った。予定に変更はない。

 今夜のうちに王都を出るぞ」


 俺は事前に待機させておいた部下に手短に指示を出すと、自分の装備を確認する。

 今回の列車襲撃に参加するのは、全部で30人。

 そのうちの3人だけが連邦から連れて来た私の部下で、残りはクボーストとザパドに(くすぶ)っていたゴロツキや、無法者に近い流しの冒険者だ。

 俺の部下達が、個々に適当な理由をつけて雇い入れた。

 アメリア公爵のせいで商会を潰されたとある商会長の復讐。

 魔力も無いくせに貴族を詐称することに憤る貴人の依頼。

 身代金目当ての誘拐。

 各々が、雇った奴らが納得しそうなそれっぽい理由をでっち上げ、嘘の情報のみを与えてある。

 勿論、この計画を指示したのがザパド侯爵であることも、俺達の本当の雇い主がダルーガ伯爵であることも奴らは知らない。

 知らされている正しい情報は、現地で別グループと合流し、列車を襲撃してアメリア公爵を拉致する。

 その一点のみだ。

 本来であれば、公爵を拉致しようなどという計画に、そう簡単に人は集まらない。

 こちらの身元も疑われる。

 だが、今回は簡単だった。

 小賢しい侯爵の情報操作のおかげか、ザパド領に残る者達の中で、セーバやアメリア公爵の評判は非常に悪い。

 それこそ、最近自分達が不景気なのは、全てセーバが原因だといった具合だ。

 だから、アメリア公爵に恨みを持つ適当な理由をでっち上げても、誰も疑問には思わない。

 拉致されても当然と思っている。

 それに疑問を持つような頭のある奴は、そもそもザパド領には残っていないのだ。

 ともあれ、代わりの駒も無事揃えられた。

 これで、連邦から連れて来た部下の殆どを、領都ザパドとこの王都の屋敷に残すことができた。

 既にまともな人材が残っていない領都とこの屋敷なら、特に問題は無いだろう。

 あとは、例の“女神の愛弟子”さえ確保できれば、俺の任務も完了だが……。

 こちらは、どうも一筋縄ではいかない気がする……。

 もう少し、連れて行く人数を増やすか……。

 いや、これ以上は人目に付く。

 人数が増えればその分移動にも時間がかかるし、何より情報漏えいが心配だ。

 ダルーガ伯爵のことは勿論、ザパド侯爵の尻尾も絶対にモーシェブニ王家に掴ませるわけにはいかない。

 今回は欲張らず、まずは第一目標を優先することにするか……。


 それから3日。

 目立たぬよう隊を適当な数に分け、各々別々の冒険者のパーティを装いセーバの街道を移動する。

 街道はよく整備されており、俺達は予定通り王都〜セーバの中間地点に作られた駅のある町に到着した。

 全く、ザパド領の街道とは大違いだ。

 この街道を見るだけで、どちらが優れた為政者であるかは一目瞭然。

 もっとも、それはダルーガ伯爵領にも言えることだが……。

 駅で確認したところ、王都からの列車は明日の夕方にこの町に到着し、翌朝セーバの街に出発するという。

 聞いていた通り、この町には常駐の兵はいないそうだ。

 俺達は明日出発し、ここから1日進んだ地点で線路を破壊し、列車が来るのを待つ。

 あの列車という乗り物は、車輪と噛み合せた鉄の線路の上を走る仕組みらしい。

 つまり、途中の線路を破壊しておけば、列車は線路から外れて大事故を起こす事になる。

 そうして列車が停まったところで、混乱に乗じて公爵を拉致する算段だ。

 アメリア公爵拉致の知らせがセーバの街に届くのに2日。

 王都までならその倍はかかる。

 事件を把握し、それから現場に兵を派遣したところで、その頃には俺達は既にザパド領だ。

 この町に動ける兵がいない以上、公爵救出の兵は絶対に間に合わない。

 

『へぇ、お兄さん達、冒険者なんだぁ。

 今日はなんだか冒険者のお客さん多いなぁ……。

 みんな同じパーティなの?』


 向こうのテーブルから、店員の女の声が聞こえてくる。

 話しているのは、別々に行動している仲間の一人だ。


『いや、偶々だ。あっちの連中は関係ない。

 俺達は冒険者募集の依頼を王都の冒険者ギルドで受けて来たんだよ。

 セーバの街にある商会の依頼でな。

 なんでもセーバの街には冒険者ギルドが無いらしくて、それで王都のギルドに依頼が来たらしい。

 魔物の素材回収の依頼とは聞いているが、まだ詳しい話は聞いてなくてな……』


 ここは、町の酒場。

 それほど大きくないこの町では、酒場も数軒しかない。

 情報収集という意味でも、冒険者として不自然ではない行動という意味でも、皆が同じ酒場に繰り出すことになるのは仕方がない。

 そして、このような状況での不自然にならない言い訳も、こうして用意してある。

 俺達は、お互いに素知らぬ振りをし、その場をやり過ごす。

 いや、俺の部下以外は、実際にまだ面識が無いのだから、現時点では正真正銘赤の他人だ。

 明日の合流地点は既に決まっている。

 明日の夜のうちに線路の一部を破壊し、そのまま列車が来るのを待つだけだ。

 俺は、他所ではまだ珍しいウィスキーを飲み干すと、宿へと戻っていった。


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