式典
「えぇと、サラ様?
本当にこんな大袈裟な衣装を着なきゃ駄目なの?」
「勿論です、お姉様。
王国の歴史に残る記念すべき日なのですから、それらしい格好をしていただきませんと、周囲に示しがつきません!」
そういうサラ様も、私とお揃いともとれる豪華な衣装を着込んでいる。
ここは、王都へと向かう列車のコンパートメントの中。
お金持ちのお客様用に特別に誂えたこの車両は、昨日今日と私達の貸し切りだ。
といっても、この特別車両をセーバの街から王都まで通して走らせるのは、今回が初めてになる。
つまり、これは本番さながらの最終試験であり、同時に王都民に対する列車の正式お披露目も兼ねている。
実際のところ、列車の運行自体はセーバ〜ドワルグ間で既に問題無しと確認済み。
また、セーバ〜王都間の鉄道や関連施設の建設の段階で、資材や人員の輸送手段としては既に列車を走らせている。
だから、列車自体はもう王都でも多くの人が目撃しているのだ。
では、今回の最終試験兼お披露目とは何か?
要は、宣伝を兼ねたセレモニーだ。
新しくできた未知の乗り物なんて、最初は怖いよね?
で、企画されたのが今回のお披露目ってわけ。
開発者でありオーナーでもある公爵とその友人の王女殿下が、王都に初めて開通した鉄道に乗ってやって来る。
当然、「王女殿下も乗られた乗り物なら……」って事になるよね。
最初はそんな事にサラ様の名を利用するのは不味いのではって思ったんだけど、当のサラ様がすごい乗り気で……。
『王都に初めて開通した記念すべき鉄道!
その最初の列車の乗客として、アメリアお姉様と私の名が残るなんて!
こんな機会、絶対に見逃すわけには参りません!!』
王都の記念式典も自分が仕切るからと、張り切るサラ様。
ある程度の宣伝は確かに必要だけど、悪目立ちしても困る。
サラ様には、式典に声をかけるのは知り合いや関係者だけで、“王女殿下”の権威で無理やり人を集めたりはしないようにと、しっかりと釘を刺しておいた。
そして、今、私はサラ様に指示されたきらびやかな衣装に身を包み、列車の窓から外の景色を眺めている。
同じコンパートメントには、レジーナとレオ君もいる。
二人とも私と同じように、サラ様が事前に用意した服に着替えている。
できる侍女、有能な騎士といった感じで、とても様になっている。
これなら、ただの平民と田舎の男爵とは、誰も思わないだろう。
うん、服装も大切だ。
特に初めのうちは、列車の利用客はどうしても大商人や貴族といった金持ちになる。
そういう人達に、少しでも良い印象を持ってもらうためには、サラ様の言う通り、こういった配慮も必要だよね。
ただでさえ、私は今まで“社交”というものを避けてきたから……。
ひと目で魔力が低いと分かる私の容姿でいくら着飾ったところで、どこぞの高級娼婦と勘違いされるのが落ちだ。
そして、“公爵”と名乗れば、「あぁ、例の……」と、哀れみの目で見られるか、お母様の悪口を言われるのが精々だ。
今ではそういう人達ばかりではないって知ってるし、初めはそうでも、こちらが実力を示せばちゃんと正当に評価してくれる人はたくさんいた。
それでもねぇ……。
初対面で向けられるあの視線は、やっぱりキツいんだよ……。
ともあれ、いつまでも幼少期のトラウマを引きずっていても仕方がない。
私も、もう“幼女”ではなく“少女”と呼ばれる年頃だ。
(勿論、前世はカウントしない。いい女は過去を振り返らないものだ! 思いっきり振り返ってるけど……)
来年は、王都の魔法学院にも通わなければいけないし、そうなれば否応なく貴族の社交も増えるだろう。
今回の式典には、私に友好的な人しか来ていないはずだから、予行演習には丁度いいはず……。
「「「「「ワアアアーーーーーーーーーー!!!!」」」」」
「アメリアさまァ!」、「アメリア様ぁ!!」
「サラ王女でんかぁ!」、「アメリアさまぁ!!!」
王都の街外れ。
公爵家の王都の領地に建てられた真新しい駅が見える。
駅舎と大きな倉庫。その近くにはアメリア商会の王都支店が建つ。
他に目ぼしい建物は無く、これだけ土地に余裕があれば、色々と今後の発展が望めるだろうとは、駅の視察に来た時の私の感想だ……。
そこに今、溢れんばかりの人だかりができている!?
なんか、屋台とかも色々と出てるんですけど!?
もう、完全に野外イベント会場だ。
それに、さっきから大声で私の名を呼ぶ声が、たくさん聞こえてきてるんだけど……。
なに、あれ??
「お姉様、列車が停まりました。行きますよ」
えっ、えっ、えっ?
「なに、あれ? 今日って、なんかのお祭りの日?」
現実逃避を試みる私に、サラ様が現実を突きつける。
「何を言ってるんですか?
あれは、皆、今日の式典の噂を聞きつけて集まった王都の民達ですよ。
列車が珍しいのもあると思いますけど……。殆どはお姉様のファンですね」
「…………。はぁ?」
この王女様、何を言ってるんだろう?
「いいですか、お姉様。
お姉様は王都に来ても用が済めばさっさとセーバに帰ってしまいますから、ご存知ないかもしれませんけど……。
今の王都では、平民、貴族を問わず、お姉様は大人気なのですよ。
邪悪な魔物を倒してこの国を救い、平民でも使える魔道具で民の暮らしを豊かにしてくれたと、皆がお姉様に感謝しているのです。
ミスリルゴーレムの討伐には私も参加しましたけど、自分達の生活に直接影響を与えた分、民の人気はお姉様の方が断然上です」
サラ様から、私の知らない王都の現状を簡単に説明され、なかば呆然としながら私は列車の乗降口を降りた。
車両から姿を見せた私。
盛大な拍手と、たくさんの“アメリア・コール”。
駅舎の前に用意された式典会場で待つ多くの来賓たちの中には……国王陛下!?
なぜ、あなたがここにいる!?
あっ、王妃様まで……。
お父様とお母様もいるし、ボストク侯爵とユーグ侯爵までいるよ……。
他にも知らない貴族がいっぱいいるし!
「(ねぇ、サラ様……。私、王家のゴリ押しは駄目って言ったよね!)」
私の横を歩くサラ様を睨むと……。
「(私のせいじゃありません!
式典の話を聞きつけた人達が、皆勝手に自分も参加したいと言ってきたんです!
私に直接じゃなくて、なかにはアメリア商会やレボル商会経由で話を通してきた者もいて、知らないうちに話がまとまっていました)」
自分もここまで大事になるとは思っていなかったと、一生懸命言い訳をするサラ様。
どこまで本当かは分からないけど、“王女殿下”の名前程度では強引には呼び付けられない人達もいるし、本当に無理やり呼んだってわけでもないのだろう。
ここに集まってくれた人達が、私の薄い色の髪や瞳ではなく、私自身のこれまでの努力を見てくれているのなら、今日はそれを素直に喜ぼうと思う。
そして、願わくは、ここに集まってくれた人達が、生まれ持った魔力量だけで人の価値が決まるわけではないと、魔力以外の能力や才能、努力も確かに存在するのだと、そう考えるようになってくれますように。
その日、王都の外れで開かれた式典という名のお祭り騒ぎは、両陛下、アメリア公爵他列席の貴族達が帰った後も、夜遅くまで続いた。
鉄道開通の祝にと集まってくれた人達に対して、アメリア商会、レボル商会が、大量の魚と酒を無料で振る舞ったためだ。
透き通るような美しい髪と瞳を持つ少女の話題で、その夜宴は大いに盛り上がった。
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いつも読んでくださり、大感謝です。
さて、今回のお話、なにやらハッピーエンドっぽくまとまっていますが、まだ終わりではありません。
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何卒m(._.)m




