ゴーレム討伐1
ゴーレム復活の知らせが届いてより3日後。
私達は大森林から少し外れた平原で、ゴーレムとサラマンダーの怪獣大決戦を観察している。
家の屋根を軽く超えるような巨大なゴーレムに襲いかかる大型のサラマンダー。
私達がドワルグに来る途中で討伐したサラマンダー等、目の前のサラマンダーに比べれば、大型犬と子犬だ。
そして、その大型犬は、ゴーレムに突進しては弾かれ、噛み付いては払いのけられている。
その大迫力の光景は、見ようによっては飼い主に纏わりつく大型犬のようにも見える。
なんか、サラマンダー、哀れだなぁ……。
サラマンダーとゴーレムを比べても、大きさにはそれ程の差があるわけではない。
でも、恐らく質量は桁違いだ。
片やただの生物、片や鉄の塊だからね。
自分と同じくらいの大きさの鉄の塊にタックルするところを想像してみれば、結果は明らかだ。
ビクともしないよね……。
その上、全身をミスリルの装甲で覆われているゴーレムには、牙も爪も効かないし、ご自慢の炎も効果がない。
結果、サラマンダーの攻撃はゴーレムに何のダメージも与えることができず、ゴーレムの方もそんなサラマンダーを本気で相手にしている様子はない。
ただ、前に進むのに邪魔だから払い除けているといった感じだ。
もしゴーレムが、サラマンダーを“敵”と認識していたなら、サラマンダーはとっくにゴーレムに殺されていただろう。
でも、幸いなことに、あのゴーレムにはそういった生き物っぽい思考は無いように見える。
ただ、モーシェブニ山に辿り着く。
多分、それだけなんだろうね……。
ふむ、なら、問題はない。
通行の邪魔をしない限り、こちらを敵とみなして攻撃してくることはないっていうのなら、事前に考えた作戦でいけるんじゃないかな。
「作戦通りで問題無いと思います。
レオ君とアディさんはサラ様を護衛しつつ、サラマンダーをゴーレムから引き離して下さい。
あの巨体ですから、余程のことがない限り殺してしまうようなことはないと思いますが、できるだけ傷つけない方向でお願いします。
ある程度の距離が開いたら……そうですねぇ……。
あのゴーレムの大きさだと、最低でも10メートルは欲しいです。
そうしたら、サラ様は広域凍結呪文でサラマンダーの足止めをお願いします。
ただし、くれぐれも殺さないように。
あと、ゴーレムには絶対に近づかないでくださいね!
サマンサは私のバックアップと、例の“砂”の管理をお願いします。
“砂”の予備はありませんから、気を付けて下さい。
皆、質問はありませんか?」
「やっぱり、俺もアメリア様の護衛につくべきじゃないか?」
「そうです!
私の方はアディさんがいれば十分です。
サラマンダーよりもゴーレムの方が危険なのですから、そちらに戦力を割くべきです!」
この期に及んで、まだレオ君とサラ様が反対をする。
私のことを心配してくれるのはうれしいんだけど、それでサラ様に万が一のことがあれば、結果は同じだ。
「レオ君もサラ様も忘れてしまっているみたいですけど……。
サラ様、あなたはこの国の王女殿下です!
こんな事言いたくはありませんけど、もしサラ様に万が一のことがあれば、たとえこの作戦が成功したとしても、私を含めてここにいる全員が責任を取らされて処刑台です。
貴重な戦力であるサラ様をこの作戦から外すことはできませんけど……。
ご自分の死が、周囲の者も巻き込んでしまう事は自覚して下さい。
レオ君も、分かったら全力でサラ様を守ること!
サラ様が死んだら、私も処刑されちゃうんですからね!」
そう、いくら貴族として認められているとはいえ、魔力もなく母親も平民のなんちゃって貴族である私など、何か問題をおこせば簡単に処分されてしまうに決まっている。
魔力至上主義のこの国において、優遇されるべきはより魔力の多い者。
魔力の多い子供を残せない貴族に、存在価値などないのだ。
その証拠に、これだけセーバの街が発展しても、私には婚姻云々で近づいてくる貴族は全く現れない。
多少私に経済力があっても、生まれてくる子供に魔力がなくて平民落ちしてしまうリスクを負うような貴族など、どこにもいないだろう。
まぁ、それはいい!
結婚についてはこの国の制度を聞かされた時から諦めてるし、お金目当ての変な貴族にたかられるよりは余程マシだ!
別に、私の容姿や性格が原因でモテないってわけではないんだから……。
とにかく!
「納得いったなら、予定通り作戦を開始します!」
アディさんとレオ君がサラマンダーに近づいていく。
ゴーレムによってサラマンダーが払い除けられ、サラマンダーとゴーレムとの距離が少し開いた瞬間、アディさんがサラマンダーにファイアボールを放った。
炎の塊がサラマンダーの顔に命中するものの、当然サラマンダーにダメージは全くない。
ただし、注意は引けた。
ゴーレムを攻撃するサラマンダーの動きが一瞬止まり、アディさんの方にサラマンダーの注意が向く。
そのタイミングで、今度はサラマンダーとゴーレムの間に岩壁が聳え立つ。
レオ君の金魔法だ。
壁に阻まれ、サラマンダーの視界からゴーレムが消える。
更にアディさんから放たれた2発目のファイアボールが着弾。
同じ火属性の攻撃でダメージは無いものの、サラマンダーの注意は完全にアディさんに移った。
レオ君が作った壁に背を向けるかたちで、ゆっくりと方向を変えるサラマンダー。
そして、鬱陶しいファイアボールの術者、アディさんに向き直る。
その距離は10メートルほど。
でも、その程度の距離、見かけに反して素早い動きのサラマンダーにしてみれば、一足飛びに詰められる。
サラマンダーの重心が沈む。
獲物に飛びかかる予兆。
………………
…………
……
サラマンダーの全身を包む炎が徐々に小さくなり、サラマンダーから力が抜けていくのが分かる。
広域凍結魔法。
サラ様の魔法だ。
サラマンダーの周囲の気温は、急激に下がっているはず。
でも、見た目にはその変化は分からない。
ただ、サラマンダーが眠りについたように見えるだけ。
そんなサラマンダーを睨みつけながら、サラ様が真剣な表情で術を使い続けている。
凍らせてはいけない。
今回は力及ばずゴーレムの進軍を許したけど、今までのゴーレムの進軍を阻んでいたのは、実質このサラマンダーなのだ。
それが本能によるものなのか、それとも遠い昔からの神々との盟約によるものなのか、それは分からない。
ただ、理由はどうあれ、サラマンダーはこの大森林には必要だ。
だから、殺してしまうのは不味い。
サラマンダーは安全に隔離しつつ、ゴーレムを倒す必要があったんだよ。
で、今回の冬眠作戦。
サラマンダーを凍らせてしまうことなく、でも動きは完全に封じる微妙な温度調節をサラ様にはお願いした。
一瞬で急激に温度を下げての急速冷凍とは違う。
戦闘が終わるまでの長時間、的確な魔力を注ぎつつ正確に一定の温度を維持し続けるというのは、かなり魔力と精神力を削られる作業になる。
サラ様に、周囲を気にする余裕など無い。
そして、そんな動かないサラ様とサラマンダーを見て、周囲で様子を窺っていた他の魔物達が一人と一匹に襲いかかる。
本来であれば、こんな浅い森の外れにはいないはずの凶悪な魔物。
サラマンダーとゴーレムによって周囲の魔力は枯渇し、縄張りもぐちゃぐちゃ。
そんな状況で、無防備に眠りこけるサラマンダーと、かなりの魔力を持つ人間の子供。
思わず襲いかかる魔物がいても、何の不思議もない。
「サラマンダー周りの魔物は私が始末します!
レオ様はサラ様の護衛に集中して!」
そう叫ぶと、アディさんはサラマンダーに群がる魔物に突進していった。
そして、レオ君は、一度サラ様の方に目を向けると、持っている剣を構え直すのだった。
ここまで読んでいただき、ありがとうございます。
m(._.)m
実は、先日短編を投稿しまして、その宣伝です。
短い話ですので、もしお時間があれぱ、ご一読ください。
この話とはだいぶ作風違いますけど、一応アメリアさんの転生前の話だとか、パラレルワールドだとかいう噂も…




