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【書籍発売中】転生幼女は教育したい! 〜前世の知識で、異世界の社会常識を変えることにしました〜  作者: Ryoko
第2章 アメリア、貴族と認められる

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セーバに関する報告 〜カルロス国王視点〜

(カルロス国王視点)


 ここは王宮の私の執務室。

 私の前の机には、複数の部署から提出されたセーバの街に関する報告書が散乱している。


 (まさか、これほどとはな……)


 規模こそまだ小さいが、商業、工業、農業、魔法技術と、どの分野を比較しても、セーバの技術は間違いなく我が国の最先端だ。

 最近、質の低下が問題になっている学院など、セーバの街にアメリアが作ったという学校と比べれば、お話にもならないだろう。

 魔力の少ない平民に教育を施して、それが一体何の役に立つのかと思ったが、この報告書にあるアメリアの学校で教育を受けた平民の能力は、明らかに我が国の下級貴族のそれを凌駕している。

 それが一部の才能ある者たちの話ではなく、セーバの街の平均的な平民のレベルだなどと、報告書を読んだ時には何の冗談かと思ったが……。

 ここ数年のセーバの街の非常識な発展と、昨日サラが使った見たこともない魔法技術が、これらの報告書の内容が間違いのない真実だと物語っている。


『お姉様の実績は、正真正銘お姉様個人が成し遂げたものです!』


 昨日のことを思い出し、思わず身震いする。

 ベラが止めない以上、十分に勝算があるのは分かっていた。

 分かっていたが!

 ふつう、碌に攻撃魔法も使えない子供が、王宮魔術師に勝てるとか思わないだろう!

 王家の名を出しておいて万が一負けるようなことがあれば、王の名を使って堂々と民を騙したことになるのだから、たとえ王女といえど極刑は免れない。

 ベラは面白そうに見物していたが、私は気が気ではなかった!

 ともあれ、サラは無事決闘に勝利し、セーバの街とアメリア公爵の実力は完全に貴族達に認められた。

 今後は、少なくとも表立ってアメリアのことを無能扱いする輩はいなくなるだろう。

 個人的には、大変喜ばしいことだと思う……思うのだが……これはこれで頭の痛い問題で……。

 今、私の頭を悩ませている問題は大きく2つ。

 一つはセーバの統治権の問題。

 もう一つは王位継承問題。

 昨日サラが見せた威厳ある態度と魔法の実力は、ボストク領を始めとした実力主義を掲げる貴族達には大変魅力的に映っただろう。

 実際、今のサラの実力には計り知れないものがある。

 殆どの貴族はジェローム伯爵を跪かせた風の弾丸ばかりを気にしていたが、見る目のある者は気付いたはずだ。

 ジェローム伯爵が震えていたのも、炎魔法をしくじっていたのも、全てはジェローム伯爵がサラに恐怖したのが原因ではなく、サラが使った不可思議な魔法が原因だということに。

 あの決闘で、サラはたった一度しか呪文を唱えなかった。

 だとすれば、あの風の弾丸も、ジェローム伯爵の炎を封じた魔法も、ジェローム伯爵を失神させるほどに震え上がらせた魔法も、全て同じ魔法によって起こされたことになる。

 そして恐らく、あのボニーツナを凍りつかせた魔法も同じものなのだろう。

 もし、あの決闘でサラが怒りのままに本気を出していたら、ジェローム伯爵は今頃ボニーツナのように凍りついていた可能性が高い。

 今回はだいぶ手の内を隠していたが、今後徐々にサラの魔法の実力が知れ渡っていけば、元々実務面では兄よりも優秀だと言われていたサラを、次期国王に押す動きもでてくるだろう。

 そうでなくとも、昨日の一件でライアンはかなりショックを受けているようだし、サラはサラで今後もセーバの街に居続ける気満々だ。

 こちらとしても、あれだけの実力を見せつけた娘に対して、セーバでの勉強は必要ないとはとても言えないし、ベラもサラの好きにすればいいと、娘を王都に残すことについては非協力的だ。

 このままでは、ますますセーバの街の利権に喰い込もうとする貴族の動きが、活発になってしまうではないか!

 私は、晩餐会の前に行われたザパド侯爵との面談を思い出す。


『陛下。どうかセーバの街の統治をあのような子供に丸投げにするのではなく、もっと真剣にお考え下さい。

 今のセーバの街は、偶々時流に乗ったとはいえ、我が国で唯一の貿易港です。

 他国との関わりも非常に強い。

 そのような政治的にも軍事的にも重要な街を、何の経験も持たない子供に任せっぱなしにするなど、我が国を支える大人の怠慢と言えましょう。

 あの街は、もはや子供の教育のために使い潰していい田舎町ではないのです。

 ここは国益のため、王命をもって然るべき経験のある者に領主を任せるべきでしょう』


 ザパド侯爵の言う“経験のある者”が誰のことかは知らんが、ザパド侯爵の言うことにも一理ある。

 確かに、アメリアにセーバの街の統治を任せた時とは情況が違う。

 常識的に考えて、あのような重要拠点をわずか10歳の子供に任せるなど、それこそ正気の沙汰ではない。

 我が国唯一の貿易都市を統治するのが10歳の子供だなどと他国に知れ渡れば、我が国の信用問題にも関わる事態となろう。

 実際にセーバの街をここまでにした実績を考えれば、ザパド侯爵の言うように無碍にアメリアからセーバの街を取り上げるようなことはできない。

 だからといって、このままセーバの街の統治をアメリアだけに任せっぱなしにすることは、この国を治める王として看過できない。

 アメリアには然るべき後見人なり婚約者なりをつけ、周囲の大人がしっかりとサポートできる体制を整える必要があろう。

 婚約者をつけると言えば兄上がかなりゴネるだろうが、ここは私情よりも公人としての立場を優先してもらうしかあるまい。


 私は今後の方針を決めると、ディビッド公爵を呼ぶよう部下に命じた。


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