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【書籍発売中】転生幼女は教育したい! 〜前世の知識で、異世界の社会常識を変えることにしました〜  作者: Ryoko
第2章 アメリア、貴族と認められる

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団体戦3

「まさか、あなたが本当に、この試合を受けてくれるとは思いませんでしたよ」


 最終試合、大将戦。

 私の前に立つのは、ユリウス伯爵。

 ここまでの試合は2勝0敗で、セーバ・チームが圧勝している。

 今回は団体戦なので、大将戦の結果に関係なく、既に私達の勝ちは確定だ。

 つまり、本来は大将戦を行う必要はないんだよね。

 それなのに、敢えて大将戦を行うことになったのは、ユリウス伯爵の試合の申し出を私が受けたからだ。

 自分から大将戦もやりたいって言い出したくせに、それを私があっさり受けたのが納得いかないらしい。


「敢えて先鋒戦に、最も実力の高いレオナルド男爵を出し、確実な勝利を目指す。

 正々堂々とは言えませんが、戦略的には正解です。

 ブルートが何故負けたのかは分かりませんが、仮にあの侍女が負けていたとしても、先にレオナルド男爵を出しておけば、全敗は免れる。

 どちらに転んでも、あなたの面目は保たれるわけだ。

 現実に、今の時点での事実上の勝敗は、既に僕たちの負けで確定している。

 ええ、認めましょう。

 確かに、あなたの部下は優秀だ。

 彼らを育てたのがあなただと言うのなら……。

 まぁ、実際に育てたのは別の人間でしょうが、確かにサラ王女殿下がこのボストク領ではなく、セーバの街で研修を受けることを、ベラドンナ様が許可したのも理解できます。

 だが、いくらセーバの街に優秀な指導者がいても、それとあなた個人の実力は別だ。

 何故あなたはこの試合を受けたのです?

 勝敗が既に決まっている以上、あなたは試合を拒否することもできた。

 試合の順序を入れ替えてまで確実な勝利を目指しながら、何故ここで試合を拒否しなかったのですか?」


 色々と、面倒くさい子だ。

 この歳の子にしては、冷静に情況を分析する頭もある。

 負けは負けとして素直に認めているし、レオ君の実力も認めている。

 レジーナの評価が曖昧な点については、あの結果が本当にレジーナの実力なのか、判断がつかないからだろう。

 自分が納得できた事については素直に認めるけど、自分が納得できない事は決して認めない。

 多分、そういうタイプの子なんだろうね。

 で、彼の理屈では、私がこの試合を受けたことが、納得いかないと……。

 半端に賢い子がよく陥る思考だね。

 前提が間違っているんだから、いくら論理的に考えたって、結論が矛盾するのは当たり前だ。

 だから、教えてあげる。


「それは、もちろん完全勝利を目指しているからです。

 ユリウス伯爵は何か勘違いされているようですけど、うちのオーダーは純粋に実力順ですよ。

 私が3人の中で一番強くて、次がレジーナ。

 戦い方にもよるでしょうけど、総合的にみて、レオナルド男爵は3人の中では最弱です。

 だから先鋒戦に出てもらいました。

 私がこの試合を受けたのは、ただ勝てると思ったから……それだけです」


 あッ、レオ君がちょっと泣きそうな顔してる。

 別に、レオ君が弱いって言ったわけじゃないよ!

 ちゃんと、“戦い方にもよる”って言ったじゃん!

 これは、後でフォローが必要かあぁ……。


 それは、ともかく。

 ユリウス伯爵には、ちょっと挑発気味に答えてみた。

 ああいうタイプは、ちょっと感情的にしてあげないと、勝っても負けても妙な理屈で自己正当化してしまうからね。


「時間も押していますし、さっさと始めましょう」


 そして、新たな理屈を展開し出す前に、さっさと話を進めてしまう。

「四の五の言うな。男なら拳で語れ!」ってやつだ。

 ノリが体育会系?

 いや、ああいう理屈っぽいタイプの生徒には、意外とこういうやり方のほうが効果的だったりするんだよ。


 そして、私とユリウス伯爵が試合の開始線まで下がる。


「では、始め!」


 ボストク侯爵のかけ声と同時に、ユリウス伯爵が呪文を唱える。

 前の2人のように、油断した様子は全くない。

 私の先程の言葉を信じたのか、元々の性格なのか、初めから手を抜く気は全然無さそうだ。

 やがて、彼の周りに十数本の氷の短槍が浮かび上がった。

 お〜、大きな氷槍を1本作る代わりに、小さな槍をたくさん作るか……。

 あのやり方は、セーバ(うち)にもないねぇ……。

 そもそも、小さいとはいえ、あれだけの数の氷槍を同時に作り出して、それを長時間待機させておくのは、セーバリア学園(うち)の生徒では、魔力的に無理だ。

 なんか、どこぞの英霊みたいでカッコいいけど……。

 とりあえず、全ての槍を同時に操るとかは無理そうだね。

 ユリウス伯爵の前に並ぶ氷槍のうちの数本から、真っ直ぐ私の方に伸びる魔力の経路(パス)を読み取って、そう判断する。


「行けッ!」


 ユリウス伯爵が右手を振って叫ぶと、こちらの読み通り、数本の氷槍が真っ直ぐ向かって来る。

 私が半身になって避けると、私の正面側と背中側を、複数の氷槍が通り過ぎていく。

 私の横を氷槍が通り過ぎるのを確認して、私が体を戻すと、そこにすかさず次の氷槍が飛んでくる。

 なるほど、1度に放てる氷槍は数本だし、複数の槍を別々の軌道で操作できるわけでもないけど、複数の氷槍を事前に用意しておくことで、連続攻撃は可能と……。

 うん、言うだけあって、前の二人よりは全然優秀だね。

 私は、目の前に迫る2本の氷槍のうちの1本を風魔法のエアブレットで撃ち落とし、間近に迫った残り1本を太極拳のリーで自分の外側に(さば)いて(かわ)した。

 私が今使っているのは、周囲の空気を自在に操る風魔法。

 風魔法は、空気を圧縮して撃ち出すエアブレットのような使い方もできるけど、それ以外にも色々な使い方ができる。

 たとえば、自分の腕の周囲に螺旋状に薄く風の膜を作り、相手の攻撃に腕を添わせながら、コロの原理で力の方向を逸していく。

 自分の腕だけだと、強い力は逸しきれないし、刃物みたいに直接触れると危ない攻撃、水のように直接触れられない攻撃もある。

 でも、そこに風魔法の補助が加われば話は別だ。

 前世と違って、この世界では相手の魔力(=気)の流れがはっきりと読み取れるから、多少速く飛んできても、合わせるのは簡単だ。

 “目で見るんじゃない。感じるんだ”って誰かが言ってたけど、攻撃に一々魔力がついて回るこの世界では、そんな達人みたいな真似も結構簡単にできちゃうんだよね。

 次々に飛んでくる氷槍の雨を、躱し、撃ち落とし、捌きながら、進んでいく。

 まるで、雨と戯れるこどものように。


(ボストク侯爵視点)


 驚いた……。

 まさか、アメリア公爵がこれほどの使い手とは……。

 アメリア公爵が今使っているのは、恐らく風魔法。

 だが、果たして風魔法であのような事が本当に可能なのか?

 あれも、あの本の力なのか?

 試合前、武器の代わりにこれを使いたいと、見せてくれた小さな本。

 女神様から授けられたというその本は、表紙には複数の魔石が埋め込まれ、中は石版の文字と、初めて見る不思議な文字で埋め尽くされていた。

 その本から感じる魔力は、恐らく埋め込まれた魔石によるものと思われる、ふつうの魔道具程度のもの。

 だが、アメリア公爵曰く、この本を通して、自分には女神様の声が聞こえるし、女神様の魔力をお借りすることができると言う。

 にわかには信じられなかったが、実際、殆ど魔力を持たないアメリア公爵が、自在に魔法を操り、あのユリウスを翻弄しているのを見ると、さもありなんという気になる。

 まるで、楽しげに、舞でも踊るかのようにユリウスの攻撃を躱しているが、あのような動きを一体誰ができるというのか。

 あれではまるで、周囲の魔力の流れが完全に見えているかのようではないか。

 先のレオナルド男爵の試合なら分かる。

 魔力が魔法に変わる瞬間、自分の足元に強い魔力が集まるのを感じれば、それを躱すことは可能だ。

 それすらも、あんな子供に使える技術ではないのだが……。

 だが、この試合は違う。

 ユリウスは、自分の手元で魔力を魔法に、氷槍に変え、しかも、それを複数同時に撃ち出している。

 “圏”で分かるのは、魔力が強く集まる気配だけのはず。

 魔法を使うユリウスの位置は感じられても、飛んでくる氷槍など感じ取れるはずがない。

 もし、それが可能だとしたら、アメリア公爵は術者と攻撃対象とを結ぶ微弱な魔力の流れ(ボストク侯爵の認識では)すらも、完全に感じ取っているということになる……。

 確かに、一般に魔力の少ない者の方が、魔力に対する感覚は鋭いというが……。

 まさか、これほどとは……。


『むっ!?』


 アメリア公爵がユリウスとの距離を詰め、今までの攻撃から判断して、そろそろユリウスがアメリア公爵の風魔法の射程距離に入ろうかという瞬間。

 ユリウスは小さな声で新たな呪文を唱えた。


 ボオォ〜〜〜!!!!!


 アメリア公爵とユリウスの間に立ち昇った炎の壁は瞬く間に燃え広がり、アメリア公爵を大きく囲む檻となった。

 なるほど、これは勝負あったか?

 氷槍の攻撃により、アメリア公爵の意識を自分の近場に集中させ、その上で離れた位置からファイアウォールで取り囲む。

 これでアメリア公爵は袋のネズミだ。

 後は、周囲の炎の壁を徐々に狭めていけばよい。

 アメリア公爵の体術は確かに素晴らしいが、こう囲まれてしまえば無意味だ。

 そうしている間に、炎の壁はどんどんとアメリア公爵に迫っていく。

 流石にあの炎に呑まれては、いくら結界内とはいえ、多少の火傷は免れまい。

 ディビッド公爵の娘に火傷を負わす訳にもいかぬし、そろそろ止めるか……。

 !!!


 ーーーーーー


 なっ、何が起きた!?

 先程まで燃え盛っていた炎が、一瞬で消えてなくなったじゃと!?

 ユリウスが魔法を止めたのではない。

 それは、呆然とした顔のユリウスを見れば分かる。

 アメリア公爵は、それが当然といった顔で歩き続け、遂にはユリウスまであと数歩といった距離まで近づく。

 そこで、意識を取り戻したユリウスが何とか応戦しようと咄嗟に右手を突き出すが、同じく自分の右手で外側からそれを捌いた公爵が、そのままユリウスの右手首を掴み、ユリウスの勢いのままに自分の方に引き込み、同時に自分はユリウスの背後をとる位置に滑りこむ。

 右腕は掴んだまま、自分の左手をユリウスの脇に滑り込ませ、背中をアメリア公爵に向けて反撃できない状態のユリウスを、そのまま背中から地面に叩きつけた。

 碌に受け身もとれず、背中と後頭部を地面に打ち付けて倒れるユリウスの腹に、氷槍を撃ち落としていた風魔法が叩き込まれる。


「ぐぅッ!」


「勝負あり! 勝者、アメリア公爵!」


 地面に横たわったまま、腹を抱えて呻くユリウスを確認し、ワシは試合終了を宣言した。


ここまで読んでいただき、ありがとうございます。

さて、この話の中で“コロの原理”というのが出てきます。

これ、“梃子(てこ)の原理”では?という誤字報告を何件かいただいてまして…

私としましては、勘違いではなく“コロの原理”で書かせてもらいました。

太極拳の技法で、腕をねじるみたいに回転させて、相手の突きの方向を逸らす「リー」というものです。

いや、“リー”自体が梃子の原理だからということであれば、私の不勉強ですので、実はあの技はねと、教えていただければ幸いです。





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