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【書籍発売中】転生幼女は教育したい! 〜前世の知識で、異世界の社会常識を変えることにしました〜  作者: Ryoko
第2章 アメリア、貴族と認められる

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団体戦2

 暫しの休憩をはさみ、2回戦が始まった。

 こちらの次鋒はレジーナで、相手はブルート男爵だ。

 ブルート男爵は17歳ということで、身体的には他の大人と区別がつかない。

 いや、体格は、周囲の大人の中でも大柄な方だと思う。

 そんなブルート男爵は、両手、両足、胸部を金属の鎧で固め、手に持った大剣を肩に担ぐようにして、ふんぞり返っている。

 大剣は訓練用ということで、一応木剣みたいだけど、あんなので殴られたら、いくら演習場の結界内とはいえ、無事では済まないだろう。

 それに対して、レジーナの方はというと……。

 革鎧はおろか、訓練着すら着ていない。

 服装はここに来た時のままの侍女服で、手には何も持っていない。

 実際には、あの侍女服の内側にはそれなりの暗器が隠されているはずだけど、この試合で使う気はないのだろう。

 一見無防備にブルート男爵と向き合う姿を見れば、誰の目にもどちらが悪役かは明らかだろう。

 どう見ても、街のチンピラが、小さな女の子を恫喝しているようにしか見えないね。

 見学している周囲の年長の大人達も、レジーナを心配するような雰囲気だ。

 ただ、元々私達に敵意を持つ若年層のグループは、レジーナとも比較的歳が近いせいか、同情よりも反感の方が強い様子。

 自分達とそれほど歳の変わらない平民の子供が、アメリア公爵の側近だからと、ボストク侯爵から客人扱いされているのが気に入らないらしい。

 ボストク侯爵がレジーナのことを客人扱いするのって、トッピークでのレジーナの仕事ぶりを見ているからなんだけどね。

 

「おいおい、せめて盾くらいは持ったらどうだ?

 勝つ気、無さ過ぎだろ。

 まさか、武器も持たない平民の女の子を、俺が本気で殴ったりはしないとか、考えてないよなぁ?

 お前の主人は平民にも随分と優しいようだが、俺にそれを期待するなよ。

 俺は、模擬戦の相手には“敬意”を払うから、決して手を抜いたりはしないぜ。

 獅子は兎を狩るにも全力を尽くすっていうからな。

 俺は相手が誰でも、手を抜くような失礼なことはしないんだ。

 せいぜい、本当の貴族の力というものを、思い知るがいい。

 それから、いい機会だから一つ教えてやる。

 普通、貴族が平民を側近にするなんて、あり得ないんだよ。

 お前のご主人様は庶民並の魔力しかなくて、貴族の子供は誰も相手にしてくれないから、どうせその事を可哀想に思った両親が、歳の近いお前を遊び相手としてあてがったんだろうさ。

 お前はアメリア公爵の側近として、とかいう責任感でこの模擬戦に参加したんだろうが、そんなことは誰も期待していないんだよ!」


 自分がこれからやろうとしている虐待行為を正当化するための長い演説を、黙って聞いていたレジーナが、ただ一言だけ確認する。


「ではこの試合、ブルート男爵様は決して手を抜かず、全力を出す、ということで間違いございませんね?」


「ああ、精々覚悟しておけ」


 それだけを確認すると、レジーナは黙って対戦相手との距離を取る。

 大丈夫かなぁ、レジーナ。

 相手を半殺しにしたりしないよねぇ……?

「あいつ、死んだな」って、レオ君!

 恐いこと、言わない!


「では、始め!」


 そして、次鋒戦が始まった。


「まずは、魔法でたっぷりといたぶってやる!

 結界のお陰で、魔法では致命傷にはならんからな。

 魔法による攻撃でたっぷりと恐怖心を刷り込んで、最後はこの剣でぶちのめして終わりだ」


 そう宣言すると、レジーナに向けて、ブルート男爵は水魔法を放つ。

 術の発動スピードは、マーク子爵よりもかなり速い。

 と言っても、それはこの国基準の話で、当社(セーバ)比なら並以下だ。

 そんな水魔法、放水砲のような水流が、レジーナに炸裂した!(ブルート男爵的には)


「安心しろ。威力は抑えて……なっ!

 避けた、のか!?

 確かに命中したはず……?」


 先程、確かにレジーナに命中したと見えた水流が、レジーナの右横を通り過ぎていく。

 レジーナに、動いた気配はない。

 ただ、自分の横を抜けていく水流を、バカにしたような目で見ているだけだ。


「当たらなければ、意味がありませんね」


 ぼそっと呟いたレジーナの言葉と、周囲から聞こえてくる失笑。

 そりゃ、恥ずかしいわ。

 自信たっぷりに、「安心しろ」とか言っておいて、よく見たら大外れって……。

 レジーナが避けたならまだしも、レジーナは一歩もその場を動いていないんだからね。


「くっ! 偶々幸運に救われたくらいで、調子に乗るな!!」


 今度は左かぁ……。

 続けて放たれた水流は、今度はレジーナの左側、さっきよりも少し離れたところを通り過ぎていった。


「なっ!?、なっ!?」


 そんな混乱状態のブルート男爵を無視して、レジーナはゆっくりと歩き出す。


「くそっ! これならどうだ!」


 次に放たれたのは、ファイアボール。

 これもまた、レジーナから少し離れた地面に着弾し、しばらくして消えてしまう。

 そして、ブルート男爵の顔色が、目に見えて悪くなった。


(な、なぜだ! なぜ、あいつは立っている!?)

(俺の魔法は確かに当たったはずだ!)

(さっきも、確かにあいつが炎に包まれるのを見たぞ)

(なぜ、おまえが炎の隣に立っている!?)


 ブルート男爵のあまりのノーコンぶりに、周囲の失笑が爆笑に変わる頃、レジーナがブルート男爵の前に辿り着く。


「こ、こ、この、化物め!!!」


 手に持つ大剣を振りかざすと、上段からレジーナの頭上に大剣を振り下ろすブルート男爵。

 その剣は、レジーナの横の地面にくい込んだ。

 レジーナは、相変わらず醒めた目で、器用にも下からブルート男爵を見下している。

 事ここに至って、周囲の見学者もその異常に気付き始めた。

 魔法を外すなら分かる。

 だが、仮にも戦闘を職業とする貴族が、目の前に立つ動かない相手を、切り損ねるなどあり得ない!

 そう、ブルート男爵の魔法は、全て狙った場所に、正確に命中していた。

 ただ、実際には、そこにはレジーナがいなかっただけだ。

 レジーナがずっと使っていたのは、光魔法。

 といっても、魔法効果を増幅させる光の神の魔法ではない。

 文字通り、光を自由に操作する魔法だ。

 この世界では、唯一照明の魔法としてのみ使われている。

 場所を明るくしているもの、という以外に、この世界の人達が光について知っていることなど何もないからね。

 でも、レジーナは違う。

 光の性質についても、しっかりと理解している。

 目はどういう仕組みでモノを見ることができるのか、ということについてもだ。

 レジーナは、光魔法に対して適性があった。

 本来なら、魔道具で簡単に代用できる照明代わりにしかならない、大して役に立たない属性。

 でも、私の前世の知識を学び、光というものをしっかりと理解しているレジーナにとっては違う。

 サラ様の風属性と同じく、レジーナの光属性も、利用の仕方によってはかなり凶悪な魔法になる。

 おまけに、これも風魔法と同様、殆ど魔力を使わない。

 だって、光の質量はゼロだからね。

 そんなレジーナが、この試合でずっと使っていたのは、光の屈折。

 レジーナからブルート男爵の目に届く光のみを屈折させて、実際にはいない場所にレジーナがいると、ブルート男爵の脳に誤認させたのだ。

 水中に見える魚が、実際には見えている場所にいないっていう、あれだ。

 この、どこぞの妖怪のような恐ろしい技、光を屈折させているのは、あくまでブルート男爵の目に届く光のみだから、それ以外の周囲のギャラリーには、当然レジーナの位置は正しく見えている。

 結果、焦っているのは本人のみで、傍から見ればただのノーコンにしか見えない、完全な一人相撲の喜劇となる訳だ。

 いやぁ、レジーナさんは敵に回したくないね。

 そんな事を考えていると、レジーナが自分の横の地面に刃先を埋もれさせた大剣に手を伸ばした。

 レジーナが剣に触れた瞬間、剣の柄を握ったまま固まっていたブルート男爵が、剣に引きずられるようにバランスを崩す。

 慌てて反射的に大剣を支えようとするけど、それも叶わず、大剣はブルート男爵の手を離れ、鈍い音をたてて地面に横たわってしまう。

 そんなブルート男爵の様子を無視して、手の届く距離まで更にブルート男爵に近づいたレジーナが、今度はブルート男爵の胸当てに触れる。

 咄嗟に後ろに下がろうとしたブルート男爵が、そのまま後ろにひっくり返った。

 後頭部を地面に打ち付けて、無様に仰向けに寝転ぶブルート男爵を上から見下ろし、レジーナはブルート男爵の両腕両足の鎧部分を、その侍女服のスカートの裾から小さく覗く靴先で、小石でも蹴飛ばすように軽く小突いていく。


(なッ! 体が動かぬ! くッ! 鎧が、重い!! 胸が苦しい!! た、助け)


 すっかり地面に縫い留められて、身動きができなくなったのを確認し、レジーナはブルート男爵の横に転がる大剣を無造作に拾い上げる。

 先程、碌に支えることすらできず、ブルート男爵が手放してしまった大剣をだ。

 レジーナの身長ほどもある大剣を、柄を逆手に持って、両手を高く上げて、刃を下に向けた状態でブルート男爵の首元まで持ってくるレジーナさん。


「チョッ、ちょっと待て! 何をする気だ! やめろ! やめてくれ!」


 焦りまくるブルート男爵だけど、実は傍から見てると、何をブルート男爵が焦っているのか、よくわからない。

 どこかを怪我した様子もなく、ただ地面に仰向けに寝ているブルート男爵のところに、侍女服の女の子が、自分の身長ほどの木剣を、引きずらないように持ってきているだけだ。

 審判役のボストク侯爵も、ここで試合を止めるべきか、判断し兼ねている様子。

 そして、ブルート男爵の顔を真上から見下ろす位置で、高く木剣の柄を掲げながらレジーナが言う。


「アメリア様に対する暴言を詫て負けを認めるか、このまま死ぬか、好きな方を選びなさい」


「わ、わ、詫びる! すまなかった! 私の負けだ! 頼むから許してくれ!!」


 演習場に響くブルート男爵の必死の叫びを聞いて、レジーナさんがにっこりと微笑んだ。


 ザクッ!!!!!


 地面に、ブルート男爵の首元近くに、深々と刺さる大剣は、半分近くもその刀身が沈みこみ、一体どんな力で突き刺せばこんなに深く刺さるんだ?ってくらい、深く地面に刺さっている。

 もし、あの剣が、ブルート男爵の首の上に落とされていたら、簡単に頭と胴が生き別れになっていただろう。

 地面に深々と刺さる木剣を見て、ボストク侯爵も信じられないという顔をしていた。

 地面に刺さる木剣と、その横で失神しているブルート男爵。

 そして、何事もなかったかのように戻ってくるレジーナさん。


 こうして、勝者レジーナで2回戦は終了した。

 今回、ギャラリーの歓声はなかったよ。

 ただ、皆レジーナさんにビビりまくっていた。

 改めて、試合結果を振り返ってみれば、さもありなん。

 攻撃は、当たらない。

 武器は奪われ、動きは封じられ、身動きできないところに凄まじい怪力で剣を突きつけられる。

 相手は碌に魔力を持たない、侍女服を着た無力そうな平民の女の子。

 攻撃手段は不明。

 まぁ、恐いよね。

 あれは、レジーナが初めて覚えた魔法でもある、荷物を軽くする軽量魔法だ。

 どちらかと言えば、現場での労働に携わる平民や下級兵士向けの魔法で、勿論攻撃魔法という認識はない。

 あの魔法の正体は、物質に働く重力を魔力で割り算する闇魔法だ。

 つまり、この魔法も1MP以下の極極小さな魔力を籠めることによって、逆にかかる重力を数百倍にもしてしまうことができる。

 レジーナが使ったのは、この魔法だ

 ちなみに、今現在セーバの街でも、1MP以下の極小の魔力を操ることができ、且つその利用法を知っているのは、私の他にはレジーナだけだ。

 レジーナは、私が最も信用する私の初めての側近で、私のこの世界での初めての生徒だからね。

 私の愛弟子に喧嘩を売るような馬鹿は、大恥かいて地獄に落ちればいいのだ。

 ともあれ、3回戦開始までには、またしばらくの休憩が取られることになった。

 


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