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【書籍発売中】転生幼女は教育したい! 〜前世の知識で、異世界の社会常識を変えることにしました〜  作者: Ryoko
第2章 アメリア、貴族と認められる

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団体戦

「それはいい!

 実際に体験してみないと分からないこともありますからね」


 楽しそうにそう言って、自らフラグを立てまくるユリウス伯爵君。

 ボストク侯爵としては、この機会を利用して、王妃様の洗礼を受けていない若い世代に、一度痛い目に遭ってもらおうって考えみたいだけど……。

 ついでに、こちらの実力を見てみたいってのもあるみたい。

 まぁ、いいけどね。

 現実問題として、同世代のボストク侯爵領の貴族に、これだけ反感を持たれた状態というのは、今後のことを考えるとあまりいい状態とは言えないし……。

 何より、この3人は、ちょっとムカつく!

 私のこともそうだけど、レジーナやレオ君に対する物言いも気に入らない。

 あぁ、レジーナやレオ君も怒ってる……。

 あっちはあっちで、どうせ自分達はともかく、アメリア様を馬鹿にするなんて、とか考えているんだろう。

 これで、ここにサラ様がいたら、きっと大変なことになっていたねぇ……。

 私の逆鱗が家族や側近といった身内であるように、レジーナやレオ君、サラ様の逆鱗は私だから。

 うん、折角の機会だし、2人にも憂さ晴らしをさせてあげよう。

 私だけが戦うと、たとえ私が勝ったとしても、私の戦闘力が証明されるだけで、私の指導力は証明されないからね。

 

「そうですねぇ……。

 なかなか面白そうです!

 では、せっかくお互い3人ずついるのですから、ここは団体戦にいたしましょう。

 各自一試合ずつ3試合やって、2勝した方が勝ちということで如何ですか?」


「こちらは構いませんが、本気であなたやそこの侍女も参加するおつもりですか?

 そこの護衛騎士見習いが代表して戦う、ではなく?」


「おいおい、相手が女の子じゃ、逆に手加減が難しいなぁ」


「まったく、模擬戦をなにかの遊びと勘違いしてるんじゃないか?」


 私の提案に対して、ユリウス伯爵、ブルート男爵、マーク子爵が何やら言っているが、そんなのは無視だ。

 結局、ボストク侯爵の一声で、私の提案は受け入れられた。



 そして、第一試合。

 こちらの先鋒はレオ君で、相手はマーク子爵だ。


「レオ君。自分が怪我をしないことが最優先だけど、可能ならあまり相手に酷い怪我はさせないでね。

 ここで禍根を残すと、後々厄介だから。

 その上で、相手の心を折ってしまうのがベストかな。

 あと、こちらの力を見せつけるのは構わないけど、見てすぐに種が割れるような魔法は使わないでね」


「分かってます。

 ああいう、見た目で勝手に相手の実力を決めつけるような馬鹿は、一回痛い目を見た方がいいんだ」


「フフッ、レオ様が言うと、説得力がありますね」


 私とレオ君の話を横で聞いていたレジーナが、可笑しそうにレオ君を見て笑っている。

 一瞬何のことか分からないといった顔をしたレオ君が、私と初めて会った頃の事を思い出して赤面する。

 

「レジーナ。折角レオ君がやる気を出してるんだから、試合前に水を差すような事を言わない」


「申し訳ありません、アメリア様」


「……行ってくる」


 そうして、レオ君は逃げて、もとい、試合に向かっていった。


 広い演習場の真ん中で、レオ君とマーク子爵が対峙する。

 演習場にいた兵士達は一旦訓練を止め、広く周囲を囲むかたちで見学している。

 レオ君は腰に訓練用の木剣を提げているけど、相手は武器を何も持っていない。


「自分はこの試合では武器を使わない。

 お前のような子供を一方的にいたぶるようなことは、したくないからな。

 こちらは魔法のみで相手をしてやるから安心しろ。

 もっとも、そんな木剣など、私の魔法の前には何の役にも立たんがな」


 試合を前に、レオ君に向かって堂々と宣言するマーク子爵。

 それを聞いて、居たたまれず俯いてしまうレオ君。

 いつもはクールなレジーナが、横で大笑いしている。

 今のマーク子爵の台詞って、私が初めてレオ君と試合をした時の、レオ君の台詞にそっくりだ。

 さっき、レジーナにからかわれて、あの頃の自分を思い出していたんだろう。

 マーク子爵は自信たっぷりの様子だけど、レオ君にとっては、自分の黒歴史を目の前で見せられているようなものだからね。

 これは、キツいだろう。

 あっ、レオ君がマーク子爵を睨みつけた。

 やり場のない怒りを、マーク子爵にぶつけてるね。

 うん、レオ君がやる気になってくれたようで何よりだ。


「では、始め!」


 二人が一旦距離を取ったところで、ボストク侯爵の試合開始の掛け声が響く。

 初めに仕掛けたのは、マーク子爵。

 レオ君が木剣を所持しているのに対して、マーク子爵の攻撃手段は魔法のみ。

 今の距離ならいいけど、剣の届く距離に接近されたら、魔法のみでは圧倒的に不利だ。

 マーク子爵は、試合開始と同時にその場に片膝をつき、右手を地面につけると、地面に向かって自分の魔力を流し込んでいく。

 マーク子爵の魔力が、地面を伝ってレオ君の足元に集まり……。

 そして、演習場に響く魔法の言葉。


「Формируйте

 неорганические

 материалы

 в

 (その場から、すかさず移動するレオ君)

 нужную

 вам

 форму!」


 ゴ、ゴ、ゴゴゴゴゴ!!

 ついさっきまでレオ君が立っていた地面が、唸りを上げて隆起し、人の身長ほどの巨大な円錐状の石柱が、空に向かって突き出てくる。

 魔法のイメージに集中していたのか、足元の地面を見つめていたマーク子爵が、大魔法を成功させたゾっていうドヤ顔で顔を上げた……。

 もう、そこにはレオ君、いないけどね。


「チッ、外したか!」


 なんだろうなぁ、あれ。

 本人はいたって真面目なんだろうけど……。

 あんなにわかり易く、これから地面に魔法使いますよって感じでポーズとって、バカみたいに大量の魔力を流して、大声でのんびりと呪文唱えてたら、避けられない方がおかしいでしょ!

 そもそも、子供一人を戦闘不能にするのに、あんな大きな石柱なんて必要ないじゃん。

 もっと鋭くて小さな石槍を作って、それで相手の足裏を突き刺してやれば、それだけで相手は動けなくなって戦闘不能だ。

 あとは、煮るなり焼くなり、どうとでもできる。

 あんな魔法が有効なのは、もっと動きが遅くて大型の魔獣とかを相手にする時だけ。

 初手であんな魔法を使ってくる時点で、マーク子爵の底が知れるというものだ。

 

 さて、周囲の反応は……。

 その後も、懲りもせず大きな石槍だの岩壁だのを作り出して攻撃を続けるマーク子爵は放っておいて、私は周囲の様子を窺う。

 これも予想通りというか、反応は真っ二つに割れている。

 大魔法の連発に盛り上がる若手勢と、意味もなく大魔法を外しまくるマーク子爵を、呆れたように見ている大人達。

 いや、一部の大人達は、レオ君の動きの方に着目している。


「なんだ、あの子供は?

 マークの魔力の流れを読んで、最小限の動きで魔法を躱しているぞ」


「あの歳で“(けん)”を使えるのか?

 しかも、大気を伝わる魔力ではなく、地面を流れてくる魔力をだぞ」


「流石はあのアリッサ公爵の娘さんの護衛騎士だな。

 子供とは思えんほど鍛えられてるぞ」


 これ、最近知ったんだけど、周囲の魔力の流れを察知する“圏”って、ある程度の実力のある者なら誰でも使えるってものではないらしい。

 サマンサは、使えて当然って顔で私に教えてたし、私も当たり前の技術として皆に教えていたけど、実は結構な上級スキルなんだと、タキリさんが教えてくれた。

 “圏”の技術発祥の地である倭国でも、使える者はそれほど多くはないんだって……。

 “圏”を使いこなせるかどうかが、倭国の武家筆頭であるメイの一族で、一人前と見做されるかどうかの基準になるほどみたい……。

 そんなレア・スキルだから、たとえ我が国最強のボストク軍といえども、その使い手はそうはいないらしい。


「なぜ当たらん!!」


 だから、マーク子爵も、この試合を見ている殆どの兵士も、なぜレオ君がマーク子爵の魔法を的確に避けられるのか理解できない。

 それでも、それが単なる偶然ではないという事に周囲が気づき出し、徐々に周りが騒ぎ出した頃。

 

「そろそろ、いいかな」


 今までは遠巻きにマーク子爵と距離を取っていたレオ君が、ゆっくりとマーク子爵との距離を詰める。


「むぅ、確かに逃げ足だけは大したものだ!

 だが、この瞬間を待っていた!」


 レオ君が、もう少しで自分の剣の間合いというところまで近づいた瞬間、マーク子爵はレオ君の足元ではなく、自分の足元に自分の身長ほどの丸太のような石柱を作り出し、それを頭上に持ち上げた!

 自分の魔力で作り出した物は、その魔力が残っている間は、術者の意思で自由に動かすことができる。

 だから、本来なら軽量魔法でも使わない限り絶対に持ち上げることなど不可能な石柱でも、術者本人なら振り回すことが可能だ。

 マーク子爵の頭上高く持ち上げられた石柱が、レオ君に向かって振り下ろされた!


 ジュュオ!!!

 

 ヒュン!!


 レオ君が、試合開始から今まで、腰につけたまま一度も鞘から抜かなかった木剣を一閃させる。

 一瞬の蒼い燦めき。

 打ち下ろされる石柱の横をすり抜け、すり抜けざま抜き放った木剣は、大人の体ほどの太さの石柱をバターのように溶解させた。

 そして、返す剣の切っ先が、相手の喉元で止められる。


「勝負あり! 勝者、レオナルド男爵」


「「「「「ウォ〜〜!!!!」」」」」


 歓声を上げる周囲と、呆然と立ち尽くすマーク子爵、と一部の実力者たち。


(岩が、溶けた?)


(なぜ、ただの木剣で岩が切れる!?)


(あの子が鞘から剣を抜いた瞬間、一瞬青い光が見えたが……)


(あれは、もしや、倭国の武術の奥義、クリカラ?)



「お帰り、レオ君。おめでとう!

 でも、驚いたよ。いつの間にあんな魔法覚えたの?

 あんなの、私でもできないよ」


 勝利を讃える私に、レオ君が少し照れながら答えてくれる。


「倶利伽羅剣。

 サマンサ先生とヤタカさんに教えてもらった。

 アメリア様の護衛騎士なら、このくらいできないと困るって……。

 あの修行は、死ぬかと思った……」


 あぁ、何か思い出したのか、レオ君が遠い目に……。

 レオ君が最後に使った魔法、倶利伽羅剣。

 私も見えたのは一瞬で、どちらかと言えば“圏”で感じた魔力からの推測だけど……。

 あれは恐らく、炎を望む形に変形して攻撃する火魔法。炎槍の応用だと思う。

 あの石柱の横をすり抜ける瞬間、本来であれば巨大な槍を作り出せるほどの炎を、抜刀した剣の周りを薄く包み込むように収束させた。

 しかも、だらだらと炎を燃やし続けるようなことはせず、石柱を切る一瞬で、注いだ魔力を全て燃やし切るように……。

 石柱を切った瞬間の接触面の温度は、石柱の融点、いや、石柱の沸点にすら達していたかもしれない。

 レオ君は、文字通り、木剣で石柱を寸断して見せたのだ。

 大半の見学者には、レオ君が何をやったのかすら分からない。

 勿論、真似なんてできない。

 分かるのは、レオ君が倭国の秘伝的な魔法で石柱を寸断し、目にも留まらぬ速さでマーク子爵の首元に剣を突きつけた、という事実だけだ。

 やがて、あの瞬間にレオ君が何をやったのか、全く見えていなかった人達にも詳しい状況が伝わり、演習場は先程までとは違う、試合結果とは別の興奮に包まれる。


「どうやった!?」、「あれは魔法なのか?」、「属性は?」、「魔法大全には載ってないぞ!」、「倭国の秘匿魔法らしいぞ」、「なんで、そんなの使えるんだ!?」,etc.


 こうして、2回戦が始まるまでには、暫しの時が必要になる。

 ともあれ、1回戦はセーバ・チームの完全勝利だね!


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