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【書籍発売中】転生幼女は教育したい! 〜前世の知識で、異世界の社会常識を変えることにしました〜  作者: Ryoko
第2章 アメリア、貴族と認められる

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嫉妬?

 ボストク侯爵から、そんな私に対する裏事情を聞きつつ、私達は兵士たちの練習風景を眺める。

 基礎体力作りに励む者、二人一組になって武器や格闘の練習を行う者、的に向かって魔法を撃っている者。

 皆が、真面目に練習に励んでいる。

 まぁ、その合間合間で、皆がチラチラとこちらに視線を向けてくるのはご愛嬌だ。

 

『う〜ん、弱くもないけど、強くもないって感じかな……。

 戦闘職志望の中級クラスの生徒が、大体同じくらいのレベルだと思う』


『ええ。平均すれば、そんなところでしょう。

 剣では実戦慣れしている分、ボストク領の方が上な気がしますね。

 格闘術は、初見ならうちの生徒が勝つでしょう……太極拳の動きは独特ですから。

 ただ、持久戦になると、鍛えられている分、ボストク領の兵士に軍配が上がるでしょうか』


『確かに、そうかも。

 でも、専業の自警団のメンバーなら、多分勝てると思うぞ。

 みんな普段から鍛えてるし、最近はアディさんや倭国の人達の指導もあるから、実戦訓練も十分だし』


『私もそう思います。

 元々アメリア様の武術指導は、魔力や肉体の効果的な運用といった理論面に力を入れたものですから……。

 アディさん達が具体的な実戦面での指導を受け持ってくれたお陰で、今までは実戦の中でどう応用したらよいのか分からなかったアメリア様の教えが、アディさん達との訓練の中で、着実に身になってきているようです』


『そうだな。油断してると、俺も負けそうになる事あるし……』


『それは、レオ様が未熟なだけです。

 レオ様はアメリア様の専属護衛なのですから、そんな不甲斐ないことでは困ります』


『……まあ、それはそれとして。

 魔法の方は……。

 あれなら、うちの楽勝だな』


『ええ。お話になりません。

 セーバの者は、私も含めて皆魔力が少ないですから少し心配でしたが……。

 あれは、魔力量以前の問題です。

 あのような雑な魔力運用では相手にもなりません。

 これなら、万が一セーバの街が他領に攻められても、十分に防衛が可能でしょう』



 私とボストク侯爵が話している後ろで、レオ君とレジーナが何やら不穏な話をしているよ。

 そんな事言ってると、いらん誤解を受けるから!

 ほら、ボストク侯爵が、そっち見てるから!


「あの、ボストク侯爵?

 えぇと……。

 うちは別に、他領と争いを起こそうとか考えている訳ではありませんので……。

 彼らのは単なる戦力分析の話で……。

 いえ、別にボストク領の兵士が弱いって事でもなくて……」


 慌てて言い繕う私に対して、ボストク侯爵は苦笑しつつも、答えてくれる。


「別に、気にしてはおらんよ。

 アメリア公爵が内乱を企んでいる等とも思っておらん。

 アメリア公爵が気にされておるのは、ザパド領との関係であろう?

 王都での一件は、ワシも見ておったからな。

 それよりも気になるのは、魔法についてだ。

 アメリア公爵から見ても、あの者達の魔法はそれ程未熟かな?」


 別に怒っている感じではなくて、純粋に意見が聞きたいといった様子で、ボストク侯爵が尋ねてくる。

 なら、話せる範囲では話そう。


「そうですね。

 大変申し上げ難いのですけど、私もそう思います。

 あのように時間をかけて、しかも的との間に不必要な魔力を撒き散らしては、どこにどんな魔法を撃つと大声で宣言しているのと同じです。

 魔力感知に優れた者なら、余程の広範囲の魔法でもない限り、あっさりと避けてしまうと思います」


 そう……。

 一般に攻撃魔法で相手を狙い撃つ場合、実際に魔法を相手に撃ち出す前に、事前に相手との間に魔力の経路(パス)を通す必要がある。

 また、自分から離れた場所に魔法を発動させたいのなら、まずその地点に必要な魔力を浸透させなければならない。

 これらの作業効率が悪いと、余分な魔力を大量に消費することになるし、作業に時間がかかると、どこにどのような魔法がくるのか丸わかりになってしまう。

 こうなると、もう魔力以前の問題だ。

 どんなに強力な銃だって、5秒後に正確にここに撃つよって言われれば、そんなの子供でも簡単に避けてしまうだろう。

 まぁ、そういう事だ。

 セーバリア学園では、魔力操作の訓練は徹底されているから、的との間にあんな無駄のある経路(パス)を作る者など誰もいない。

 絹糸一本程度で十分なところに、綱引きに使うような綱で魔力の通り道を作っているのだから、レジーナの酷評ももっともだ。

 あのレベルだと、中級クラスへの昇級試験は、全員不合格になるだろう。


「そんなに酷いか……」


「えぇと、私にはそのように見えます」



「それは、聞き捨てなりませんね!」


 そんな私と侯爵との会話に、横から割り込む者がいた。

 何やら見習いっぽい3人組が近づいて来ていたのには気付いていたけど、まさか他領の領主とボストク侯爵との会話に割り込んでくるとわね……。


「いきなり何じゃッ、ユリウス!

 客人との話に割り込むなど、お前らしくもない」


「これは失礼しました。

 では、改めて自己紹介させて下さい。

 私の名はユリウス。代々このボストク領を守護する武家の家系で、陛下より伯爵位を頂戴しております。

 アメリアこ・う・しゃ・く・さま」


 あ〜、なんか感じの悪いのが来たねぇ……。

 彼の名はユリウス伯爵。

 ボストク侯爵の説明によると、この国の軍部の重鎮であるドゴール将軍の息子で11歳。

 王太子殿下と大体同い年で、来年には王太子殿下の側近候補として、殿下と一緒に王都にある魔法学院に通うことになっているらしい。

 そして、ボストク侯爵がこっそり教えてくれたところによると、サラ様の婚約者候補!?なんだって。

 そう、問題は“サラ様”なんだよねぇ……。

 今回の訪問で、私達が若い年齢層の兵士達に嫌われている理由。

 今、セーバの街で見習いの勉強?をしているサラ様は、元々はこのボストク侯爵領で勉強する予定だったわけで……。

 それをサラ様がドタキャンして、家出同然の事後承諾で、セーバの街に滞在することになったものだから……。

 サラ様が実は風の単一属性で、そのせいでボストク領では居場所がないのでは?という事情は、周囲の大人たちも理解しているみたい。

 だから、いっそ魔法の使えない者同士、セーバの街で魔法以外の行政について学んだ方が、サラ様のためにもなるだろう、というのが、ボストク領の大半の大人達の判断だったそうだ。

 でも、子供たちは違う。

 折角の、サラ王女殿下とお近づきになれる機会(チャンス)だったのだ。

 サラ様と一緒に魔法の訓練ができる、とか。

 風の単一属性で魔法が上手く使えないサラ様に、私が丁寧に魔法を教えてあげよう、とか。

 魔法が使えず落ち込むサラ様を、私が慰めてあげよう、とか。

 そんな中で、サラ様と自分との間には強い絆が生まれるに違いない!、とか。

 そういう自分勝手な夢(妄想)を抱いて、サラ様の到着を楽しみにしていた子供たちにとって、その夢を打ち砕いた私とセーバの街は、サラ様を誑かして奪っていった憎むべき相手ということらしい……。

 そういう気持ちは理解できなくもないけど、なんかなぁ……。

 きっと、後から思い返すと青春の黒歴史になるんだろうけど、そんなので恨まれてもねぇ……。

 多かれ少なかれ、似たような感情を抱いてしまった記憶のある周囲の大人達は、いずれは時が解決すると放置の構えらしいけど、直接逆恨みされるこちらはたまったものではない。

 そして、今目の前にいる3人が、勘違い野郎共の筆頭らしい。

 サラ様の婚約者候補(仮)のユリウス伯爵(11歳)と、その側近のマーク子爵(15歳)、ブルート男爵(17歳)。

 ユリウス伯爵は私より少し背が高くて、小利口な感じ。

 マーク子爵は正義は一つって信じてそうなタイプ。

 ブルート男爵は脳筋俺様系。

 3人に共通して言えることは、ただ一つ。

 こちらを、明らかに見下してきていること。

 

 ユリウス伯爵は、思慮深げな顔でこう言った。


「アメリアこうしゃくさまは、庶民と同じくらいの魔力しかないのですから、このような場所を見学されるのは危険では?

 ただの平民や名ばかりの下級貴族では何の護衛にもなりませんよ?」


 マーク子爵は声を落としながらも、憤りを隠す素振りもなくこう言った。


「碌に戦うこともできない者が、遠足気分で友達同士連れ立って、こんな場所に遊びに来るべきではないだろう」


 ブルート男爵は、ニヤニヤと嫌らしい笑みを浮かべながら忠告してくれる。


「演習場は危険ですからねぇ。

 うっかり狙いの外れた魔法が当たったりすると、大怪我してしまいますよ」


 そして、最後にボストク侯爵が宣った。


「アメリア公爵。ただ訓練を眺めているだけでは詰まらんじゃろ?

 折角じゃから、この3人と模擬戦でもしてみんか?」


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