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【書籍発売中】転生幼女は教育したい! 〜前世の知識で、異世界の社会常識を変えることにしました〜  作者: Ryoko
第2章 アメリア、貴族と認められる

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ボニーツナ

「では、冷凍庫不足の問題は、ひとまずは落ち着いたと考えていいかしら?」


「はい。冷凍庫の購入希望者自体はまだまだ多いですけど、急ぎのお客様への対応は全て終わりました」


 カノン曰く、アメリア商会やセーバ領、お父様、お母様と関わりの強い、所謂(いわゆる)お得意様への対応は全て終わっていて、今はこれまで全く関わりがなかった、新規のお客の注文に対応しているところだそうだ。


「なら、後はゆっくりでいいわ。

 元々なくて困っていた食材ってわけでもないし、あまり簡単に売っても、こちらが軽く見られるだけだしね。

 冷凍庫自体うちの独占販売だから、しばらくは上流階級向けの高級食材路線でいきましょう」


 この世界には独占禁止法なんて存在しないし、そもそも、冷凍庫の独占は王妃様からの指示だ。

 散々うちを無視してきた、感じの悪い人たちにも平等に売ってあげる理由など、これっぽっちもないからね。


「そうすると、サラ様にはしばらく冷凍庫の製造から離れてもらっても、問題はないかしら?」


「はい、大丈夫です」


「では、サラ様には王都へのお魚の配達をお願いしましょう」


「「「???」」」


 皆が不思議そうな顔をしているけど、まぁ、無理もない。

 王女殿下に、お魚の配達を頼もうっていうんだからね。

 しかし、王女殿下にお願いするのは、そんじょそこらの魚ではない。

 このセーバでも滅多にお目にかかれない超高級食材、ボニーツナだ。

 というか、ボニーツナなんて、セーバの街でも初なんじゃないかと思う。

 今までの船では獲れなかったはずだから。

 超高級食材として世の美食家達に知られるボニーツナだけど、その正体は全長5mを超える魔魚だ。

 普通の魚と違い、強い魔力を持つ魔物であるボニーツナは、その辺の漁船など簡単に沈めてしまう。

 捕獲には、頑丈な船と、海の魔物に慣れた上級冒険者が必要と言われていて、たとえ見つけても、ただの漁師が相手にできるような獲物ではないのだ。

 今回、捕獲に成功したのも、タキリさんとの共同開発で完成させた魔動エンジン、スクリュー使用の新造船と、タキリさんの護衛も兼ねた実は戦闘職の船乗りが揃っていたからだ。

 新造船の試運転と外洋航海の研修を兼ねて沖合に出た際、偶然に遭遇したらしい。

 捕獲したのは2匹で、そのうちの1匹を先日皆で食べたんだけど、滅茶苦茶美味しかった!!

 一緒に食べたタキリさんにしても、ボニーツナを食べたのはこれで2度目だって、どれだけ希少なんだって話だ。

 だって、タキリさんって、海洋国家でもある倭国の王女様だよ。

 その王女様をして、過去に1度食べただけって一体って思ったんだけど、理由を聞いて納得した。

 ボニーツナって、かなり足が早いらしい。

 しかも、ふつう沖合に生息していて、近海で見かけることは稀。

 だから、今までの船だと、仮に獲れたとしても、陸に運ぶ頃には大抵悪くなってしまうらしい。

 偶々(たまたま)都から近い海に迷い込んだボニーツナを捕獲できて、それが即座に皇宮に献上されない限り、皇族の口に入ることはないんだって。

 そんな希少なボニーツナが、まだ1匹まるごと食料庫に転がっているんだよね。

 急速冷凍した状態で。

 そう、いくら足の早い食材でも、急速冷凍しちゃえば問題ない。

 気合入れて凍らせたから、味にも鮮度にもほとんど影響はないはずだ。

 で、これをサラ様に冷凍魔法を使いながら、王都に運んでもらおうと考えている。

 今ある王都への搬送用の冷凍庫には入らないんだよね。大きすぎて。

 ボニーツナの搬送用に、専用の冷凍庫付き馬車を作ってもいいんだけど、ここは敢えてサラ様にお願いしようと思う。

 ボニーツナには万金の価値があるし、献上する先はサラ様の家族だ。

 久しぶりの里帰りも兼ねてということなら、王女様をパシリにしたと非難されることもないだろう。

 いつも頑張っているサラ様には、久しぶりに家族とのんびりしてもらって、ついでにドワルグに街道を通す許可を取ってきてもらおう。

 美味しいお魚と可愛い娘のお願いだ。

 国王陛下も否は言うまい。

 ついでに、冷凍したボニーツナを運んできたのがサラ様だと知れば、それだけで察しの良い王妃様は、娘の成長を知って、私のお願いに協力してくれるはずだ。

 そんな訳で、サラ様には後日、王都へのお使いをお願いすることにした。



「では、最後の議題だけど、トッピークへは行けそう?」


「はい。大丈夫だと思います」


 私の率直な問に対して、ユーベイ君が控えめに、でも、しっかりと私の目を見て答えてくれた。


「うん、私も問題ないと思うよ」


 ユーベイ君に続いて、造船の責任者であるタキリさんも太鼓判を押してくれる。


「では、準備が整い次第出航しましょう。

 今回の試験航海には、私も同乗します」


 皆が驚いた顔をしているけど、私は気にしない。

 この国には今まで、外海に出られるような大きな船も、それを停泊させる港もなかったから、誰も船旅なんて経験したことがない。

 そもそも、大きな港を持つ他国にしたって、ある程度安全に航海ができるようになったのは、羅針盤が普及したここ最近の話だ。

 だから、皆が驚くのも分かる。

 でも、元旅人の私としては、こんな機会をみすみす見過ごす気は更々ない!

 だって、私が設計に関わった、我が国初の外洋船の処女航海だよ!

 もしかしたら、船旅をした我が国初の貴族かもしれないし!

 航路を考えても、それほど危険の伴う航海ってわけでもなさそうだし……。

 大体、タキリさんだってやってるんだから、私がやったって何の問題もないはずだ!

 タキリさんが実は倭国の王女様だってことは、ここにいるメンバーは皆知っているから、私の事もあからさまに否定はできない様子。

 勝ったな!

 私の行動が非常識だって言っちゃったら、倭国の皇女殿下はもっと非常識だって事になっちゃうからね。

 だから、誰も反対はできない。

 唯一反対できるのがタキリさんだけど、タキリさんにその気はないみたいだしね。

 むしろ、一人だけ嬉しそうにしている。

 きっと、私と一緒の船旅を楽しむ気満々なんだろう。

 彼女なら、止めてもきっとついて来るだろうし……。

 そんな訳で、私の船旅は誰に反対されることもなく、皆に認められた。



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