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【書籍発売中】転生幼女は教育したい! 〜前世の知識で、異世界の社会常識を変えることにしました〜  作者: Ryoko
第2章 アメリア、貴族と認められる

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凍結魔法(回想)

(アメリア回想)


「サラ様、食事が終わった後、少し学園で特別授業をいたしましょう」


 今はお屋敷の食堂で、サラ様と夕食をいただいている。

 サラ様は先月上級クラスへの進級試験に無事合格し、今は自分の風属性魔法を使いこなすべく、風や空気に関する科学知識を学んだり、魔動エンジンの開発の手伝いをしたりしている。

 魔動エンジンは、シリンダー内の空気の膨張・圧縮を、風魔法で直接空気に干渉することで行っている。

 燃料を燃やしたりしないので、非常に環境に優しい構造なのだ。

 それに、風魔法というのは、他の一般的な魔法と比べて、とても魔力効率がよかったりする。

 どうもこの世界の魔法は、質量や熱量の大きいものほど、操作に多くの魔力を必要とする傾向があるんだよね。

 この世界の魔法を作った神様って、実は科学音痴では?と、私は密かに疑っているんだけど……。

 とにかく、そんな訳で、金属等と比べて恐ろしく質量の軽い空気を操作するのには、実際のところ、ほとんど魔力を必要としないのだ。

 ただ、空気は岩や炎と違って目に見えないから、その操作は金属を加工するのとは比較にならないほど難しい。

 特に、空気に関する科学知識を持たないこの世界の人たちにとっては、ただ風を起こすのが精々で、それ以外に何をどうすればどうなるのか、全く想像すらつかない。

 そもそも、認識できないものなど、操作できるわけがないのだ。

 ただ、サラ様は流石に風の単一属性なだけあって、私が風や空気の概念について説明してあげたら、それほど時間も空けずに、あっさりと風属性の攻撃魔法であるエアブレットも習得してしまった。

 太極拳のイメージトレーニングで、水の中を動くようにっていうのがあるんだけど、サラ様は太極拳の型の練習をしている時、実際に水の中にいるような感覚になることがあるって言っていた。

 空気というものを感じ取る感覚が、ずば抜けている証拠だろう。

 そんな訳で、上級クラスに上がってからすぐに、サラ様には魔動エンジンの開発の手伝いをお願いしていたんだけど……。

 既に実用レベルで、ある程度形になっている魔動エンジンより先に、実はサラ様には早急に手伝いをお願いしたいことがあるんだよね。

 それは、冷凍庫。

 私が開発して、最近それを使って王都への魚介類の販売を始めたんだけど……。

 これが予想以上の大人気で、あっという間に冷凍庫が品切れになってしまった。

 ただでさえ冷凍庫に使っている魔法は難しい上に、トップシークレット扱いの魔法で、誰にでもホイホイと教えることができない。

 実際、軍事転用されると非常に危険な魔法だし、王妃様にも責任を持って管理するよう直々に釘を刺されているしね……。


 そう、冷凍庫に入れた魚と一緒に、説明の為にうちの商会の人間をお父様につけて、初めて王宮に冷凍した魚を献上した日。

 国王陛下や同席する貴族達は、これから王都で魚料理が食べられるようになるという事実に、ただただ驚き、喜んでいたらしい。

 冷凍庫についても、冷蔵庫自体は今までにもあったので、私が作った性能の良い冷蔵庫くらいにしか思われなかったそうだ。

 ウィスキーや羅針盤、湯沸かし器にスプリングベッドと、魔力のない私が立て続けに世に出した、とても便利だが仕組みのよくわからない、道具だか魔道具だかのせいで、私が作った物ならと、割とあっさり受け入れられてしまったらしい。

 一人を除いては……。

 今回、陛下にお魚を献上したのはお父様で、うちの商会の従業員は、ただ献上した珍しい食材の扱い方の説明のために、お父様に同行しただけだ。

 余分なことをツッコまれたくないのもあって、私は王都には行かずに、領地で商会の者の報告を待っていたんだけど……。

 派遣した従業員から、国王陛下も大変喜ばれていましたという内容の、嬉しい報告が届いた翌日。

 私の元には、新たに別のお手紙が王妃様から届けられた。

 二人だけで個人的なお茶会をしましょうという、お茶会の招待状という名の召喚命令が!

『会えるのがとても待ち遠しいわ(至急いらっしゃい!:意訳)』というコメント付きで!

 王妃様は、流石は国に名を轟かせた氷魔法の使い手だけあって、私が用意した冷凍魚の異常性にすぐに気付かれたらしい。

 氷魔法では、あんな風に凍りつかせることは不可能だって。


「陛下や貴族達は、アメリアには攻撃魔法は使えないって思い込んでいるし、魔道具についても、生活魔法以上の効果は期待できない無害な道具って認識ですからね。

 あの非常識な魔道具についても、それ以上の関心は持たなかったみたいだけど……。

 あれ程に魚を凍りつかせる魔法が、もしも冷凍庫の外でも再現できるのだとしたら、これはとんでもない軍事的脅威になりかねないわ。

 さあ、陛下には黙っていてあげるから、あれがどのような魔法なのか素直に白状なさい」


 実は王妃様の予想通りで、冷凍庫に使われている魔法が、かなりの広範囲を雪山のようにして凍りつかせてしまう、かなり危険な魔法だと白状させられてしまった。

 ただ、これは魔力さえあれば誰でも使える単純な魔法ではなく、とても高度な魔力操作と知識を必要とするものだということも、納得してもらうことができた。

 魔法の効果については詳しく確認されたけど、その仕組みについてまでは問い質されることはなくて……。

 ただ、無闇に広めることはせず、機密保持は徹底すること、冷凍庫の製造販売はアメリア商会が独占し、決して製法は他所に漏らさない事と、きっちり釘を刺された。


 そんな訳で、ただでさえ難しい魔法な上に、迂闊に職人を増やすわけにもいかない。

 おまけに、冷凍庫の購入希望者は地位のある者ばかりで、こちらとしてもあまり無下な対応もできない。

 さあ、困った!

 で、色々迷ったんだけど、結局サラ様に教えることにした。

 冷凍庫の魔法(あらため)、広域凍結魔法コキュートスを。

 いくら凍結魔法が使えても、魔力が少なくて、広範囲に自分の魔力を浸透させる“圏”も使えないうちの技術者達では、広い範囲の空気を操作することはできない。

 魔力が多くても、風属性も空気についての知識もない普通の魔術師では、やはりこの魔法は使えない。

 でも、サラ様なら……。

 私ほど精密な魔力操作はできなくても、その分を持ち前の魔力量で補えば、風属性のサラ様ならきっと可能だろう。

 広範囲に極寒の地獄を作り出す、攻撃魔法としての凍結魔法を使うことも……。

 サラ様は、セーバの人間ではないとはいえ、王妃様の娘だ。

 だから、多分サラ様に凍結魔法を教えたとしても、それで喜ばれることはあっても、他所の人間に広めたと王妃様に叱られることはないと思う。

 後は、私が純粋にサラ様を信用できるかどうかってことなんだけど……。

 うん、信用できる。

 この1年ほど、サラ様のがんばりや、周囲に対する接し方、言動を見てきて、そう思えた。


 夕食を終えた私とサラ様は、学園の魔法訓練施設に移動した。


「サラ様。キール山脈の山頂には1年中雪が積もっていて、真夏でも真冬のような寒さらしいですけど、理由は分かりますか?」


 私の教師としての質問に、生徒のサラ様が学園で習ったことを思い出しながら答える。


「えぇと、山頂はずっと空に近いですから、頭上の空気が平地よりも少なくなって……気圧が下がります。

 気圧が下がると空気が膨張して……暖炉の燃える部屋が急に広くなったような感じになって、それで寒くなります」


 うん、ただの丸暗記ではなく、しっかりとイメージができているね。

 これなら、大丈夫だろう。


「合格です。この短期間で、よく勉強できていると思います。

 そんなサラ様に、これから私のとっておきの魔法を伝授したいと思います。

 でも、その前に一つだけ約束して下さい。

 この魔法は、誰にも教えないこと!

 たとえ国王陛下や王妃様に聞かれてもです。

 特に貴族にとっての魔法は、個人や家にとっての財産であり自衛手段ですから、そのコツを無理やり聞き出そうとはしないと思いますが、聞かれても決して教えないでください。

 私はサラ様を信用して教えますが、下手な人間に伝わると非常に危険ですから。

 約束できますか?」


「勿論です!

 たとえお父様が相手であろうと、アメリアお姉さまの信用を裏切るようなことは、決していたしません!」


 力強く答えてくれるサラ様。

 なんか、国王様が不憫だ……。

 まぁ、娘にとっての父親なんて、こんなもんだよね。

 ともあれ、


「危険ですから、私の前には決して出ないで下さいね」


 サラ様を後ろに下がらせると、私の前方、訓練場全体に薄く薄く自分の魔力を満たしていく。

 私の魔力が訓練場の大気全体に溶け込み、私の魔力で空間が満たされる。


「Измените воздух, как вы себе представляете.」


 唱えたのは、ただの風魔法。

 自分の魔力を満たした空気を、自分のイメージ、指示通りに変化させる。

 ただ、それだけの呪文。

 気圧を下げ、空気を膨張させて……。空気がどんどん薄まっていく……。

 その効果は目の前に劇的に現れる。

 現出するのは、一面を染める銀世界。


 氷の欠片が光を反射して輝く幻想的な光景に、サラ様が思わず手を伸ばそうとするのを、私は慌てて止める。


「駄目! 絶対に私の前には出ないで下さい!

 今、魔法の影響範囲に入ったら、一瞬で凍りついて、指なんて簡単に取れてしまいますよ」


 目の前の幻想的な銀世界は、実際にはマイナス数十度の極寒の地獄。まさにコキュートスだ。

 呆然とその光景を見つめるサラ様が、うっかり魔法の影響範囲に入らないように注意しつつ、私は改めてこの魔法の仕組みについて、サラ様に説明していった。

 初めはその光景に呑まれてしまっていたサラ様だけど……。

 その光景がほんの一年前までは全くの役立たずだと思っていた風魔法で作られたものだと知って、今度は別の意味で呆然としてしまっていた。

 知識としては理解できても、現実に見せられた光景を見ると、自分が当たり前のように使っていたただの風魔法で、こんなことができてしまうことに感覚が追いつかないみたいで……。

 その日の特別授業は一旦終わりにし、翌日落ち着いたところで、改めて昨日見せた魔法と、それを利用した冷凍庫の制作協力について、サラ様にお話をした。

 それから何度か同じような特別授業を行い、問題なく凍結呪文を習得したサラ様によって、当面の冷凍庫不足の問題は解決した。


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