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【書籍発売中】転生幼女は教育したい! 〜前世の知識で、異世界の社会常識を変えることにしました〜  作者: Ryoko
第2章 アメリア、貴族と認められる

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冷凍庫

「魚の販売の方はどうですか? 前回は、冷凍庫不足が問題になってましたけど」


 私の問に、漁業部門担当のユーベイ君が答える。


「はい、アメリア様。そちらはサラ様のお陰もあって、非常に順調です。

王都への配送用の馬車に積む冷凍庫の数も揃いましたし、王宮を始めとした主な魚の取引先への冷凍庫の納入もほぼ完了しました」


「今はユーベイさん、アンさんに、魚介類の水揚げ量と冷凍庫の生産台数を確認しつつ、フェルディさんと王都の魚市場を開拓しているところです」


 ユーベイ君に続いて、アメリア商会副会長のカノンが答えてくれた。

 セーバで獲れた魚介類の王都での販売は、アメリア商会とレボル商会が共同で行っている。

 内陸に位置する王都では、今までは海の魚を口にすることは不可能だったんだけど、私が冷凍庫の魔道具を開発したことで、それが可能になった。

 船の性能が上がったことで、セーバの漁獲量もかなり増えたしね。

 最初は、王宮やお父様と仲の良い一部の貴族を相手に、私がアメリア商会を通して実験的に販売を始めたんだけど……。

 その珍しさもあって、貴族や上流階級の商人の間であっという間に評判になってしまった。

 当然、うち(アメリア商会)だけではすぐに対応できなくなって、慌ててフェルディさんにも一枚噛んでもらったんだけど……。

 ここで問題になったのが、冷凍庫の生産台数。

 冷凍庫に限らず、魔道具には動力として魔石が使われている。

 この魔石には、単純に魔力のみを溜める、所謂(いわゆる)魔力電池のような使い方の他に、特定の魔法を記憶させる使い方もある。

 術者が魔法を使う要領で、その魔力を魔石に流していくと、魔石がその魔力で満たされたところで、魔石がその魔法に染まってしまうのだ。

 一度特定の魔法で染まってしまった魔石は、その魔法以外の目的では使えなくなってしまうけど、ただ魔力を注ぐだけで、自動的に記憶された魔法を再現できるようになる。

 魔石の出力は、出力の高いものでも精々10MPくらいだから、一度に強い魔力が必要な大それた魔法は勿論使えない。

 それでも、自分の知らない魔法を呪文の詠唱無しで使えるから、普段使いの道具としてはとても便利なのだ。

 代表的なのが、光魔法を記憶させた照明器具や、着火用に火魔法を記憶させたライター、水魔法を記憶させた水筒等。

 そんな中で、私が最近新たに開発したのが冷凍庫。

 今までにも、水魔法で作り出した氷を利用した、所謂(いわゆる)冷蔵庫はあった。

 でも、マイナス数十度で食品を冷凍するなんて技術は勿論なく、当然冷凍食品も存在しない。

 そもそも、この世界(大陸?)はそれほど寒くなくて、寒冷地方と言われる我がセーバ領でも、感覚的には日本の東北地方くらい。

 大陸中央を横に分断するキール山脈の山頂付近や、キール山脈の北方に広がるソルン帝国の一部の地域を除けば、聞いた話や書物から推測するに、マイナス10度以下になるような場所は、この世界には存在しないみたい。

 つまり、人の生活圏において、カチコチに凍りついた魚など、誰も見たことも聞いたこともないってこと。

 だから、はじめに冷凍庫を作って、真っ白に凍らせた魚を見せた時には、みんな驚いていた。

 更に、食品を凍らせることで長期保存が可能で、それを解凍することで凍らせる前と同じように食べられると知った時には、フェルディさんやルドラさん等の大人商人組は愕然としていた。

 勿論この反応は王都でも同じだったらしいけど、貴族関係に関してはお父様、お母様を通して国王陛下と王妃様に、平民の上流階級についてはフェルディさんとルドラさんを通して王都の商業ギルド長に、まずプレゼントというかたちで紹介したことで、驚かれはしたものの、問題なく受け入れてもらうことができた。

 だって、王都に居ながら、今まで食べられなかった魚介類が食べられるんだからね。

 美味しいし、自慢にもなるし、安全が確認された後は、受け入れられるのは速かったよ。

 今では、冷凍庫が欲しい、魚を売ってくれと、問い合わせが殺到している。

 でも、王都で魚を食べるためには、運ぶのにも保存するのにも、冷凍庫が必須。

 そして、その冷凍庫は、アメリア商会の完全独占受注生産だ。

 当然、お父様は勿論、私やお母様に対して不愉快な態度を取るような家には、間違っても売ることはない。

 ウィスキーや武器、貴金属なら、間に商人を挟むことで、セーバ産の商品を入手することも可能だ。

 でも、冷凍庫や海産物は無理。

 これらは全て、うちとの直接取引で、店頭販売はしていないからね。

 王家や、公爵家と友好的な関係を結べている家のパーティーでは美味しい魚料理が食べられるけど、今まで公爵家に嫌がらせをしてきた家のパーティーでは魚料理は食べられない。

 パーティーでの招待客の満足度は、そのままその家の財力や権力、人脈等を表すから、他所では出される流行りの魚料理を、自分の所では出すことができないというのは、それだけで上流階級の人間にとっては致命的だ。

 この前、久しぶりに王都から戻って来たお母様が、今まで私やお母様のことを馬鹿にしたような目で見てきた貴族達が、手のひらを返して冷凍庫を開発した私を褒めてたって、笑いながら話していた。


『一度、あのような素晴らしい魔道具を開発されたご息女とお話をって言うから、言ってやったわ。

 娘はどこかの心無い方たちに無能呼ばわりされて、傷ついて田舎に引きこもってしまったから、滅多なことでは王都に近付こうともしないし、知らない方とも会おうとはしませんわ。私もディビッドも、娘に会えなくて寂しい思いをしていますのって。

 ざまぁって感じよね。ちょっと、すっきりしたわ』


 私もそうだけど、お母様も色々と嫌な思いをしてきたのは知っているから、私のしたことで多少お母様の溜飲が下がったのなら、私も少しは親孝行ができただろうか。

 私の魔力が少ないせいで、両親にはずっと迷惑をかけてきているからね。

 お母様の王都での立場が良くなっているのなら、私も一安心だ。


 ともあれ、ウィスキーに続いて、私の立場を安定させるのに非常に役立ってくれている冷凍庫なんだけど、実は、需要に対して供給が全く追いついていなかった。

 それこそ、最低限の台数確保も難しい状況で……。

 理由は、風魔法を使える優秀な技術者の不足。

 船の魔動エンジンに使われることもあって、風魔法の使い手の育成は、今までにもそれなりにしてきた。

 でも、冷凍庫に使う風魔法に要求される魔力操作は、魔動エンジン以上に繊細で、私以外に使いこなせたのは、技術開発部門筆頭のアンさん他数名のみ。

 タキリさんも何とか使えてはいたけど、実用レベルではまだまだ練習が必要って感じで……。

 タキリさんの部下の人たちも、流石は船乗りというべきか、風魔法を使える人自体はそれなりの数はいた。

 でも、彼らの使う風魔法って、ただ強い風を帆に向けて叩きつけるだけのもので、空気の繊細なコントロールなどは全くできなかった。

 そもそも、風や空気に対する科学的な知識が足りていないから、気圧の操作などできるわけがない。

 タキリさんには、その辺の知識も教えてあげたんだけど、彼女の場合、元々持っている魔力量が多いため、繊細な魔力操作自体が非常に難しいのだ。

 バケツの水をコップに注ぐのが難しいのと同じで、繊細な魔力操作については、魔力の少ない者の方が相対的に優れていると言える。

 では、魔力の少ない者の方が魔道具作りには向いているのかというと、一概にそうとも言えなかったりするんだよね。

 冷凍庫の場合、常時一定の温度を保ち続ける必要があるから、大量の魔力を保存しておける魔力容量の大きい魔石を使っている。

 そうなると、その大容量の魔石を、一人の術者が一旦自分の魔法で完全に染め上げる必要があるわけで、例えば、魔力容量3000MPの魔石を100MPの魔力量の術者が染めるとすると、単純に全力でやっても最短で30日はかかってしまうことになる。

 因みに、魔力量10MPの私がやると、300日かかる……。

 闇魔法のおかげで、私の実質的な魔力は爆発的に増えた。

 1000分の1MPの魔力で闇魔法を使えば、1MP程度の些細な魔法が、1000MP相当の威力の魔法に膨れ上がるのだ。

 魔法が起こす現象だけを見るなら、私が操れる魔法は、王族すらも軽く凌駕するし、これに魔力タンクとしての魔石の魔力を組み合わせれば、いくらでも大規模攻撃魔法を撃ち続けることができる。

 まさに、チートである!

 でも、これにも実は問題があって、光魔法や闇魔法による乗除は、魔法の効果に対して働くもので、魔力量自体が増減するものではないんだよね。

 だから、どんなに魔法の効果を増幅しようが、10MPの私には10MPの魔力しか籠めることができないってこと。

 つまり、実際の冷凍庫作成においては、私は戦力外ってことだ。

 そして、私以外の人たちも、私ほどではないにしても、みな決して魔力は高い方ではないのだ。

 大体、うちの領地の住民って、技術で魔法効果を底上げしているだけで、基本的にはただの田舎の平民ばかりだからね。

 それに、冷凍庫を作る風魔法は、正直あまり広めたくないってのもあったし……。

 そんな訳で、冷凍庫の製造については、なかなか生産台数を増やせないのが悩みの種だったんだけど……。

 最近、救世主が現れたのだ!

 そう、サラ王女殿下、サラ様だ!

 彼女、王都でも頑張って勉強していたんだけど、そのせいで逆に固定観念が強くて、魔力操作や学習の基礎を学ぶ初級クラスでは、かなり苦戦していたんだよね。

 ただ、普通の魔法知識や学問知識は王都の学院生並に身についていたから、王都の学院の教科書を私が監修し直した物をテキストにしている中級クラスを抜けるのは早かった。

 セーバリア学園では、初級クラスではスポーツにおける基礎体力的な部分を鍛え、中級クラスでは一般的な技術、知識を教えるようになっている。

 そして、上級クラスからは、私の前世知識を加えた応用編となる。

 元々何も知識のない平民の場合、中級クラスでも覚えなければならないことが結構あるんだけど、サラ様の場合、その部分の知識は元々かなりあったわけで……。

 それが初級クラスで苦労して学んだ基礎と噛み合うことで、一気に花開いた感じだ。

 通常であれば、どんなに速くても半年はかかるカリキュラムを、ほんの二月ほどでクリアして、上級クラスに上がってしまった。

 サラ様自身、とても驚いていて、なんだか急に魔法や学問が分かるようになったと、私に嬉しそうに話してくれたけど、実は私はあまり驚いていない。

 割とよくあることだから。

 勉強とか技術とかって、私はRPGのレベルアップみたいなものだと思っている。

 一生懸命戦って、頑張って経験値を貯めていくと、ある日突然レベルアップして強くなる。

 でも、一定の経験値が貯まるまでは、目に見える強さには全く変化がないんだよね。

 勉強をやり慣れていない子って、その辺が分かっていない子が多いから、ちょっと頑張っても結果が出ないと、すぐに自分は向いていないとか言って諦めちゃう。

 大抵は、そこそこ経験値が貯まって、傍から見てるとそろそろレベルアップかなってタイミングで、諦めちゃう子が多いんだよね。

 前世で家庭教師をやっていた時にも、そういう子はかなりの数見てきた。

 逆に勉強とかやり慣れている子は、その辺を感覚で理解しているから、ちょっと成果が出ないくらいで焦ったりしない。

 やれば、確実に経験値になっているのは分かっているから。

 ともあれ、サラ様は本当に頑張ったと思う。

 かなり辛かったはずなのに、担当につけたサリーさんに対して八つ当たりをしたり身分を振りかざしたりも、一度もなかった。

 納得いかないと食い下がることはあっても、理不尽な言われ方をされたことは一度もないと、サリーさんが褒めていた。

 元々なぜか私には懐いていたから、私に対する態度がいいのは分かる。

 でも、仮にも王女様なんだから、屋敷の使用人や学園の生徒、街の住民とのトラブルは覚悟していた。

 それなのに、サラ様がセーバの街に来て1年、そういった話は全く上がってこなかった。

 だから、教えてあげてもいいかなって、思ったんだよね。

 冷凍庫を作る魔法。いや、広域凍結魔法コキュートスをね。



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