ドワルグへの道
「あの、セーバからドワルグまで、資材を運ぶ街道を通すことはできませんか?」
私の提案に、フェルディさんが虚を衝かれたような顔になる。
そんなに驚くようなことかなぁ……。
材料を生産元から直接買い付けられれば、中間マージンを抑えられるから、いくら街道を作るのにお金がかかっても、長い目でみればその方が絶対にお得だ。
何より、今回のように王都の動向に振り回されることがなくなる。
「あの、東のずっと先に見える山がモーシェブニ山ですよね?
ここからでも普通に見えるなら、少なくとも途中に険しい山脈等は無いと思うのですけど」
「確かに……。
言われてみれば、その方がわざわざ王都を経由して金属を買い付けるより、余程効率がいい。
私も錯覚してましたが、王家が管理しているのは魔石のみ。
それ以外の鉱物に関しては、別に鉄鋼組合を通さねばならないという法などありません。
セーバ領は王都よりも北に位置するのですから、もし直接ドワルグに買い付けに行けるのなら、王都の鉄鋼組合を通すよりも、時間も輸送費もずっと節約できるでしょう」
この国の鉱山地帯は、全て王都の北にあるモーシェブニ山周辺に固まっている。
そして、この国の王家の直轄領と我がセーバ領以外の領地は、全て王都の南に広がっている。
その位置関係から、鉱物関係については必ず一旦は王都を通るのが当たり前で、王都を経由しない地下資源の流通経路など考えられなかったんだって。
セーバ領が今みたいになったのはここ数年の話で、それまでは公爵領とは名ばかりのただの未開拓地。
街なんて一つも存在しなかった訳だしね。
そもそも、セーバ領が公爵領として独立したのだって、お父様が結婚してからだし……。
そんな訳で、金属は鉄鋼組合を通して買うものってのが、この国の常識だったらしい。
私には、関係ないけどね。
そこからは、ドワルグまでの街道をどうするかってことで、皆が意見を出し始めた。
「そういえば、サリーちゃんは東の森林地帯から来たって言ってなかったかしら?
そこからなら、王都に行くよりドワルグに行く方が近いと思うんだけど、サリーちゃんが以前居た集落ではどうしてたの?」
冒険者でルドラさんの奥さんのアディさんが、秘書としてルドラさんの後ろに控えていたサリーさんに尋ねた。
ルドラさんの筆頭秘書はダミニさんなんだけど、ダミニさんは商業ギルドの副ギルド長だからね。
ルドラさん不在の商業ギルドを預からなければならないとのことで、こういう外での会議では、サリーさんが秘書としてついてくることが多い。
ちなみに、サリーさんは学園でサラ様のサポートをお願いしている子で、サラ様と非常に仲が良いこともあり、仕事以外でも何度か公爵邸に遊びに来てくれたりしている。
確か、以前住んでいたとこが魔物に襲われるようになって、それでセーバの街に逃げて来たって言っていたような……。
「はい、私が居た集落は、ここから平原を抜けて3日ほど行った先に広がる大森林を、少し入ったところにありました。
森の奥は迷いやすくて、偶に魔物も出たので、森に詳しい猟師さん以外はあまり森の深いところには行きませんでしたけど……。
その猟師さんは、何度か皆に頼まれて、ドワルグの街に買い出しに行っていました。
私も街のお土産をもらったことがあります。
あとは、年に数回ほどでしたけど、ドワルグの街から行商の冒険者の人が来てました……」
そこで、サリーさんは少し表情を固くして……。
「私達の集落が魔物に襲われるようになる少し前から、行商の冒険者の人が来なくなりました。
それで、猟師さんに買い出しを頼んだんですけど、出発して半日くらいで慌てて戻って来て……。
ここから少し奥に進んだところでオークが集落を作っているから、もしここが見つかれば一気に攻め込んでくるって言われて……。
それで、集落の皆で話し合って、セーバに行ってみようってことになったんです」
話を聞く限りだと、地理的には普通に行き来は可能らしい。
森林地帯に道を通すのは少し大変だけど、魔法ありきのこの世界なら、特に問題はないと思う。
なんと言っても、この世界の土木建築系の職人一人のマンパワーは、前世の建設機械に匹敵する。
小回りが利く分、余分な木々の伐採等も必要ないから、前世の日本のように、道路を一本作るためにその周辺全ての環境を破壊するような、大掛かりな工事は必要ないのだ。
問題は、魔物だけか……。
これが、オークの集落だけなら問題はない。
ある程度数を揃えて対応すれば、討伐は然程難しくはないと思う。
問題は、なぜオークを始めとした魔物達が、急にサリーさん達がいた集落近くまで流れて来たかだ。
偶々ならいいんだけど……。
こういった場合、一番可能性が高いのは、より強い魔物が住み着いたことで、縄張りを追われた魔物が人の集落まで流れてきたというパターンだ。
冒険者のアディさんも同じ意見のようで、まずは測量も兼ねて魔物の討伐部隊を派遣し、その後本格的な工事に着手することで話がまとまった。
いずれにしても、直轄地であるドワルグまで街道を通すとなると、王家の許可も取る必要があるしね。
今も現在進行形で王都からの金属の値段は上がり続けているし、冬になると工事も難しくなる。
あまりのんびりともしていられないんだけど、こればかりは焦ってもしようがない。
現地調査の方はアディさんとユーノ君に任せるとして、王家の許可かぁ……。
ここは、サラ様に頑張ってもらおうかなぁ……。




