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【書籍発売中】転生幼女は教育したい! 〜前世の知識で、異世界の社会常識を変えることにしました〜  作者: Ryoko
第2章 アメリア、貴族と認められる

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教えることは、学ぶこと 〜サリー視点〜

(サリー視点)


 私はサリー。

 半年ほど前から、商業ギルドで働いている。

 この前13歳になり、この国での成人を迎えたことで、ギルド職員として正式採用となった。

 ただ、仕事自体はあまり変わらなくて、仕事が忙しくない時には、今まで通り学園にも通ってもらって構わないと言われている。

 もし正式採用になって、学園との掛け持ちは困ると言われたらどちらを取ろうか迷っていたので、今まで通りで構わないとギルド長に言われたのはうれしかった。

 せっかく、試験に合格できたのだから、やはり勉強も続けたい。

 私はセーバリア学園の上級クラスに所属している。

 商業ギルドで働き始めた頃はまだ中級クラスだったけど、先月無事試験に合格し、晴れて上級クラスになることができた。

 上級クラスに上がるためには、ただ勉強してテストで良い点を取るだけでは駄目で、色々と総合的?に判断されるらしい。

 私の場合は、商業ギルドでの仕事ぶりに対する評価と、主にサラ様への学習指導が高く評価されたって聞いた。

 セーバリア学園では、上の生徒が下の生徒を指導し、教師資格のある研究クラスの生徒が全体を監督、フォローするというシステムを取っている。

 だから、上のクラスになると、自分の学力だけでなく、下のクラスの生徒に対する指導力も求められる。

 下の子にわかり易く教えようとすることで、自分の理解が深まるんだって、前にアメリア様がおっしゃっていた。

 相手の性格や現状の問題点をすばやく察して、どう説明すれば相手が分かってくれるのかを考える力は、どんな仕事をしてもらうにも必要なスキルだって、レジーナ先生は言っていた。

 そんな訳で、積極的に初級クラスの生徒の面倒も見ていたんだけど……。

 まさか、ただの平民の私が、王女様に勉強を教えることになるとは思わなかった……。

 

 私は木こりの娘で、元々ここから少し離れた森の集落で、お父さん、お母さん、生まれたばかりの弟と暮らしていた。

 ある日、集落に魔物がやって来て、私達の家族はそこから逃げるように、ここにやって来たのだ。

 ここに来るまでは、勉強はおろか文字すら書けなくて、この街に住まわせてもらうために、お父さん、お母さんと必死に勉強したのを今でも覚えている。

 当時はまだ人も少なくて、街も学校も今みたいに大きくはなかったけど、今まで森の集落しか知らなかった私には、全てが驚きの連続だった。

 そのうちに、魔力操作と金魔法を覚えたお父さんが武器や道具を作る職人になり、一家で何不自由なく暮らせるくらいに生活も落ち着いた。

 弟も大きくなり、お母さんがお父さんの屋台を手伝えるようになったところで、アメリア様の推薦で私は新しくできた商業ギルドで働き始めた。

 サラ様に会ったのは、ちょうどその頃だったと思う。

 最初はアメリア様の親戚の子とだけ紹介されて、私が女で、年齢的にもサラ様と近過ぎず離れ過ぎずで丁度いいからと、学校でのサラ様の面倒を見てあげるようお願いされた。

 サラ様もご自分の身分は隠されていたし、何となくアメリア様のご親戚ならお貴族様なんだろうなって思っていたけど、特に横柄な態度を取られる訳でもなかったので、私もあまり気にはしていなかった。

 後で、ずっと仲良くなってから、実は王女様なんだって教えてもらった時には凄く驚いたけど、でも今更な話で、それからもあまりお互いの関係は変わらなかった。

 でも!

 身分とかではなく、サラ様に勉強を教えるのは、初めは本当に大変だった。



 ある時は、


「一桁の四則計算などわざわざ改めてやらなくとも、私はちゃんとできますよ」

(指を使わないと答えが出せないのを、ちゃんとできるとは言いませんよ)


「この砂が落ち切るまでに解き終えるなんて、何の意味があるのです?

 計算はゆっくり正確にやらねば。間違えては意味がないではありませんか」

(素早く、正確に、計算できるように練習して下さいと言っているんですけど……)


「私は商人になる訳ではないのですから、こんな複雑な計算など必要ありません」

(それは、できないから計算のできない不便さに気が付かないだけです)



 ある時は、


「このような文章を暗記する意味があるのですか?

 必要なら、その都度資料を確認すれば良いではありませんか」

(覚えていないことは咄嗟に使えないし、そういう資料があることにさえ気付くことができませんよ)


「これは王都の学院の教師が学生達に薦めている暗記方法なのです。

 サリーの言うようなやり方など、今までに聞いたことがありません」

(サラ様は、王都では学べない知識を学ぶために、わざわざセーバまで来たのではないのですか?)


「この、表を使ったまとめ方は素晴らしいと思うのですが、ここの部分は使ってないので、こう書き換えてしまった方が良いと思うのです」

(そんな事をしたら、後で項目が増えた時に全て作り直しになります。新しい方法を考えるのではなく、今は基本通りに教えたことを覚えて下さい)



 また、ある時は、


「太極拳と言いましたか……。このような踊りを習う間に、1回でも多く魔法を使った方が上達も早いと思うのですが……」

(その方法で上達しなかったから、今学園で学んでいるんですよね?)


「これは武術でもあるのですよねぇ?

 でしたら、もっと力を込めて素早く動かないと練習にならないのでは?」

(力を抜いて、ゆっくり正確に動く練習をしているのです。力を込めたら、体内に循環する魔力を感じられなくなってしまうじゃないですか)


「このような生活魔法ではなく、私はアメリアお姉さまが見せて下さったような、攻撃魔法を覚えたいのです!」

(そのために、魔力操作の訓練として、生活魔法での正確な魔力運用を学んでいるのですが……)



 一事が万事この調子で……。

 決して不真面目でもないし、一生懸命にがんばってくれてはいるんだけど……。

 私が教えたことに対して、わざと反抗的な態度を取っているというわけではなくて、自分なりに少しでも良くなろうと考えた結果なのはわかるんだけど……。

 黙って言われた通りにやってくれれば、もっと簡単に上達するのにと思いながら、努力が空回りするサラ様の様子を見て、うまくサラ様を納得させることのできない自分に落ち込んだりもした。

 でも、そのうちに、どう説明すればサラ様が納得しやすいのか、何となくコツが掴めてきて、サラ様の方も自分の考えをただ主張するのではなく、段々に私の話を素直に聞いてくれるようになってきて……。

 今ではサラ様も中級クラスに上がり、初めはお互いにぎくしゃくしていた関係も、お休みの日に一緒にお茶をしに行くくらいに仲良くなることができた。

 (たま)に、平民の私が王女様と遊びに行くなんて恐れ多いのではと、不安になることもあるけど……。

 サラ様は構わないと言ってくれるし、アメリア様も今のままで構わないと言って下さるので、私もサラ様とは今の関係を続けていきたいと考えている。

 まぁ、最近急激に伸びてきているサラ様は、きっと近いうちに私と同じ上級クラスに上がってきて、私の教師役も終了になるだろう。

 その時には、今度は同じ勉強仲間として、新しい関係が作れればいいなと思う。

 それでも、今はまだそう簡単に追いつかれる気はありませんけどね。


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