学校説明
その後、サラ様を連れて学園に行った私は、実際の授業風景を見せながら、学園での過ごし方についての説明を行ったのだが……。
「これは……。 教室だけでなく、本格的な研究室や魔法の実験場、格技場に演習場まで……。
王都の平民の富裕層が通う私塾のようなものを想像してましたので、正直驚きました」
「えっ? どうしてそこの筋肉、冒険者風の人達は、あんな小さな男の子にペコペコしてるのですか?
市民権を得るため? いくら実力主義だからって、いくら何でも……」
「なッ?! なんですか、あの計算スピードは!?
あれが、ここの普通って……。そんな……。あれで初級クラスなのですか!?
基本的な読み書き計算って……。基本ってレベルではないと思うのですが……」
「なんなんですかぁ! あの複雑な数式は!?
これで中級クラス?? あの教科書って、プロの計算士用の参考書ですよね?!」
「上級クラスからはカガクも学ぶ?
キアツ? ロテン? シツド? 雲を作る???」
これからどんなことを学んでいくかのイメージを掴んでもらうために、市民権を得るための初級クラスから、上級クラスまでの授業参観をしてもらったんだけど……。
どうも、かなりのカルチャーショックを受けてしまったようだ。
私の感覚だと、王都の学院レベルが大体うちの中級クラスで、それに前世日本の義務教育程度の理科社会の知識が混じるのが上級クラスって感じなんだけど……。
どうも、商業ギルドのルドラさんや、レボル商会のフェルディさん辺りの話だと、ただ読み書き計算ができるといっても、その完成度がまるで違うらしい。
ただ普通に四則計算ができる子と、そろばんやくも○式なんかで鍛えられている子では、そもそもの計算スピードがまるで違う。
同じ小学校の義務教育でも、中学受験組がやるような問題と、普通の公立小学校で教える問題では、全くの別物だ。
要は、そういうことらしい。
サラ様、魔法はともかく、勉強方面ではかなり自信があったみたいだから、結構なショックを受けたご様子。
まぁ、慣れてもらうしかないけどね。
次に連れて行ったのは魔法の演習場。
ここは、前世の弓道場みたいな感じで、皆が其々に離れた的に向かって攻撃魔法を撃ち込んでいる。
ここを利用する生徒は、主にこの街の兵士志望の者や冒険者等が多いんだけど、がたいのいい男達に混じって、一部年頃のお姉さんやエプロン姿のおばちゃん等もいたりする。
しかも、総じてそういった一見攻撃魔法など使えそうにない女性勢の方が、強力な攻撃魔法を撃っていたりするのだ。
他所から来て、この街に移住してきた冒険者など形無しである。
なまじ経験と自信があるせいで、魔法に対する先入観が強く、教えたやり方を素直に受け入れられないのが主な理由だったりする。
これは、前世の家庭教師時代にも感じたことだけど、教えていて一番厄介な生徒は、頑固でいくら言っても自分のやり方を変えられない子だった。
その点、今まで攻撃魔法はおろか、魔法や戦闘とも全く無縁だった一般人の女性には、何の先入観も無いからね。
まっさらな状態から教えられるから、教える側も楽だし、伸びるのも早かったりするんだけど……。
サラ様はどうかなぁ……。
もう既に魔法に対する固定観念が強そうだし……。
ここは、一度サラ様の根底にある魔法の常識を塗り替える必要があるかも……。
「?! なんですか、あのファイアボールの威力は!
あのスカートの人、ただの町娘ではないのです!?」
「どうして買い物帰りの主婦みたいな女性が、氷槍なんて水属性の上位魔法を使えるのですか!?」
「………………。
民を守るべき王族の私は碌に魔法を使えず、守られる立場の平民の方がずっと私より優秀で……。だったら、私が王族である意味など……」
あぁ、いかん。
なんか、まずいスイッチが入りかけてるっぽい。
前回王都に行った時にも感じたけど、この子、真面目過ぎ!
王族としてのプレッシャーもわからなくはないけど、自分の思い込みで自分を追い込んじゃってる感じだ。
まずは、その魔法に対する思い込みを解消してあげないと駄目かな。
「サラ様。せっかくの機会ですから、私も一つ、サラ様に魔法をお見せしますね」
(サラ王女視点)
お姉さまが小声で何か囁くと、お姉さまの的に向けた指先に風が集まるのを感じます。
一見何もないように見えますが、風属性の私には分かります。
お姉さまの指先と前方の的の間に、目に見えない風の道ができた気がしました。
バンッ!!!
次の瞬間、大きな破裂音を響かせて、前方に立てられた木の的が吹き飛びました!
えっ? 今のは、風魔法?
「エアブレット。
私の風魔法ですけど、もちろん練習すれば、風属性のサラ様なら私以上に使えるようになりますよ。
この魔法は目に見えませんから、実戦での有効性は火魔法や水魔法よりも上です。
使うためには、精密な魔力操作も必要ですが、それ以上に風や空気とは何かという科学知識が必要になります。
しっかりと学んで下さいね」
あぁ、お姉さまはいつもそう。
今回も、まるで大したことではないように、当たり前のように私の心を守ってくれる。
私は攻撃魔法が使えないから、だから代わりに領地経営を学ぼうとしたのに……。
王都やお祖父様のところから逃げて、魔力の少ないお姉さまなら私のことを責めたりしないと思って……。
それなのに、そんな私にあっさりと解決方法を示して、その上で王都の学院など足元にも及ばないような高度な学問を要求してくるなんて……。
これでは、本気でこの学園で学ぶしかないじゃないですか!
ほんとうに、アメリアお姉さまは優しいのか厳しいのか分からない人ですね。
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