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【書籍】web版*旦那様は他人より他人です 〜結婚して八年間放置されていた妻ですが、この度旦那様と恋、始めました〜  作者: 秘翠 ミツキ


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五十七話



 ずっともやもやが消えない。


 楽しかった校外学習は、あの瞬間最悪なものに変わってしまった。

 久々にクラウスの顔を見れて喜んだのも束の間、彼の側には見知らぬ美女が親しげに寄り添っていた。

 色んな感情が溢れ出し、子供染みているがその場から逃げ出した。


『ルーフィナ様がいらっしゃるのに許せません‼︎』

『侯爵って、やっぱり女好きなんだね』

『……』


 その後、怒り狂ったベアトリスと若干引き気味のリュカ、終始無言のローラントと昼食を摂ったが正直味は良く分からなかった。

 淡々と食事を済ませて片付けを終えた後は、早々に帰路に着いた。


 その夜ルーフィナは、自室で机と向き合い提出するレポートに取り掛かるも、全く手に付かないでいた。


(綺麗な人、だったな……)


 昼間の出来事が脳裏から離れない。

 二人はやはりそういった関係なのだろうか……。

 カトリーヌの時はルーフィナの勘違いだったが、そもそもクラウスは女性から人気がある。以前夜会に一緒に出席した時も、周囲の女性等から視線を集めていた。またルーフィナの迎えに来てくれた際は、女子生徒等に取り囲まれることも暫しだ。

 改めてそんな風に考えると愛人の一人や二人……いや五、六人いた所で驚く事ではないのかも知れない。一々気になどしていたら身がもたないと思う。もう子供ではないのだから割り切るべきだ。でも……。

 以前はまるで気にならなかったのに、今は彼が女性と楽しそうに話しているだけでモヤモヤしてしまう。


『貴方の両親の所為で……』


「っーー」


 ずっと考えないようにしていたのに、こんな時に限ってカトリーヌから言われた言葉を思い出す。


(クラウス様は私の事……本当はどう思っているのかな)


 彼の本心が知りたい。だが知るのが怖い。


 両親の事もそうだが、それ以前にクラウスからしたらルーフィナは十歳以上も年下の子供同然であり、今の所妻としても女性としても役に立たない存在だ。きっと彼じゃなくてもそんな状況ならば他所に女性(かわり)を求めるのは至極当然な事で、ルーフィナが文句なんて言える立場じゃない。頭では分かっているのに、感情が抑えられない。未熟過ぎて自分が情けなくなる。


 やる気になれずにルーフィナは深いため息を吐き机に突っ伏した。

 マリーがいたらきっと行儀が悪いと注意されるだろうが、今は一人なので別に構わないだろう。

 悶々とする。


「……」


 そう言えば、あの書き掛けの手紙からパタリと封筒も花束すら届かなくなった。やはりメアリーが話していた通りで杞憂だったみたいだ。ただ今までずっと届いていたのに不思議だ。まあ気掛かりが無くなった事に違いはないので安堵している。それより今はクラウスとリアの事が気になって仕方がない。


「……今日はもう寝ちゃおう」


 ワフっ!


 その時、ルーフィナの言葉に反応したショコラが鳴いた。ずっと隅っこで大人しくしていたが、尻尾を振りながら駈け寄ってきた。

 いそいそと大きなクッションの上に乗り、何度か体勢を変え落ち着く場所が決まると満足そうに目を伏せる。

 その様子から眠かった事が窺える。もしかしたら元気のないルーフィナを心配して寝ずに待っていてくれたのかも知れない。


「ふふ、お休み、ショコラ」


 ワフ……。


 既に寝息を立て始めるショコラの頭を撫で、ルーフィナもベッドに横になった。

 シーツに潜り込むと、自分で思っていた以上に疲れていたらしく直ぐに眠気に襲われ意識を手放した。



 ある日の昼休み、ルーフィナは中庭でお弁当箱を広げた。

 校外学習がきっかけとなり、ローラント含めまた以前の様にリュカやベアトリスと昼食を摂るようになった。

 始めはやはり気不味さはあったが一週間が過ぎ、少しずつ元に戻りつつあると感じている。


「ルーフィナ様の肉団子、凄く美味しそうです」

「良かったらどうぞ」

「良いんですか⁉︎ ありがとうございます

‼︎」


 目を輝かせるベアトリスにルーフィナはお弁当の中から肉団子を分けた。


「ベアトリス、意地汚いよ」

「これは私が貰ったんですから、リュカ様にはあげませんからね!」


 的外れな返答をして肉団子を頬張るベアトリスに呆れるリュカのやり取りが懐かしくて、思わず目を細めた。


「本当しょうがないな……。ルーフィナ、僕のを分けて」

「俺のをやる」


 リュカがまだ手付かずの自分のお弁当箱を差し出して来たと同時に、ローラントもまた自分のお弁当箱を差し出して来た。

 二人は暫し無言のまま睨み合う。


「……殿下、彼女には僕のを分けますのでお気遣いは結構です」

「いや、俺のを分けるから必要ない」


 目の前に差し出された二つのお弁当箱にどうしたものかと困惑していると「ルーフィナ様が召し上がらないのなら、私が貰ってもいいですか」とベアトリスが言い出した。



「う〜ん! 絶品です‼︎」


 ベアトリスは頬に手を当て大袈裟に叫ぶ。

 本当に何時も美味しそうに食べるので、見ているこっちまで笑顔になってしまう。だがそんなルーフィナとは反対にリュカとローラントは呆れている様子だった。

 結局ベアトリスが二人のお弁当からおかずを何品か貰って食べていた。流石ベアトリスだ、抜け目がない。



「ルーフィナ、ハンカチ落ちてるよ」


 そう言いながら地面に落ちていたハンカチをリュカが拾いあげようとした直前、ローラントが先にそれを拾い上げ手渡してくれた。


「あ、ありがとうございます……」


 空気が重苦しい。

 実は意外と面倒見の良いローラントは、何かとルーフィナの世話を焼いてくれる。だが最近リュカも困り事があると手を差し伸べてくれるので、二人は頻繁に衝突をする。

 理由は分からないが当て付けの様に思えた。

 リュカがローラントを気に入らない事は何となく伝わってくる。相性が悪いのだろう。ただ折角こうやってお弁当を食べる様になったのだから、出来れば仲良くしたいと思う今日この頃だった。




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