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【書籍】web版*旦那様は他人より他人です 〜結婚して八年間放置されていた妻ですが、この度旦那様と恋、始めました〜  作者: 秘翠 ミツキ


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四十七話


 長期休みも終わり、学年が上がりクラス替えとなる。

 新学期の今日、ルーフィナは廊下に張り出されたクラス分けの名簿の中から自分の名前を探していた。


(あ、ベアトリス様とリュカ様と一緒……)


 例年通りまた二人と一緒のクラスになった。本来なら喜ぶべき所だが、心境は複雑だ。

 実はあれから二人とは何となく距離を取る様になってしまい最近は一人で過ごす事が多い。その理由は、ルーフィナは二人に対して負い目を感じていた。


 自分の所為で大切な友人と引き離す事になってしまった……。

 本当なら此処に彼も居る筈だったのにーー。


 ふと視線を感じ目を向けると、少し離れた場所にいるベアトリスと目が合った。何か言いたげに見えるが、ルーフィナは会釈をすると逃げる様に新しい教室へと先に向かった。


 荷物を下ろし自分の席に座り内心ため息を吐く。

 程なくして前扉からベアトリスとリュカが入って来るのが見えた。

 二人は前寄りに座り、ルーフィナの席は一番後の窓側なので離れている。そんなつまらない事で胸を撫で下ろしていると、何やら視線を感じ隣の席を見た。すると目が合ってしまい固まる。


(どうして彼が……⁉︎)


 漆黒のセミロングの髪を後ろで縛り、薄紫の瞳が特徴的な彼はローラント・ペルグラン。この国の第三王子でありルーフィナの従兄弟にあたる。

 同い年であり同じく学院に通ってはいたが、これまで同じクラスになった事もなく略略接点はなかった。

 同じ従兄弟なのにも関わらず、最近はめっきり訪ねて来る事もなくなったエリアスとは違ってまともに会話すらした事もない。まさか同じクラスで席が隣になるとは思いもしなかった。

 取り敢えず挨拶をしなくてはと声を掛けてみるが……。


「あの……お久しぶりです……」

「……」


(無視されました……)


 思わず笑顔が引き攣った。

 明らかに目が合ったのに無言で顔を逸らされ、この距離で声が聞こえていない訳はない。

 これから隣の席なのに気不味過ぎる……。

 



 それから暫くしたある日の国語の授業中の事。

 ルーフィナが教科書を開いた時、ふと視界に入った。ローラントの机の上には教科書がない。もしかして忘れたのだろうか……。

 もしルーフィナが教科書を忘れたりしたら慌てふためいて動揺しながら隣の席の人に見せて欲しいと嘆願する。だが彼は何となしに座っていた。こちらに声を掛けてくる素振りも全くない。

 ルーフィナは困惑する。

 

「……」


 そんな中、何時も通り授業は進んでいくが隣が気になってしまい全く集中出来ない。

 横目でローラントを盗み見てみるが、机の上にはノートとペンしか置かれていない。だが彼はやはり平然とし余裕すら醸し出している。


「……!」


 そこでルーフィナはハッとした。

 彼はきっと既に教科書の全てが頭に入っている違いない。故に教科書など必要ないという事なのかも知れない。

 まだ新学期になり一ヶ月も経っていないというのに凄過ぎる……というかそもそも教科書を丸暗記出来るなんて天才に違いない。

 ローラントの兄であるエリアスも頭が良いし、やはり血の繋がった兄弟だ。

 ルーフィナが妙に納得し素直に感心していたのも束の間……。


「では、ローラントさん。三十ページの始めから読んで下さい」

「……」


 ローラントが先生に指名された。だが彼は立ち上がるも無言のまま立ち尽くしている。


「?」


 静まり返る中、クラス中の視線を集めるがそれでも立ち尽くす。


「ローラントさん、どうしましたか」


(もしかして……)


 ルーフィナは戸惑いながらも教科書をそっと彼の机の上に置いた。


「……⁉︎」


 一瞬驚いた様子で視線だけを向けてきたが、彼は教科書を手にすると指定された箇所を読み上げた。

 


「よし、誰もいない」


 昼休みになりルーフィナは逃げる様に教室を出て校舎裏へと向かう。そして隅っこでひっそりとお弁当を広げた。

 

「……」


 以前は日の当たる中庭で四人で一緒に食べていたのに、今はこうして一人になってしまった。

 クラス替えをして始めの頃は何人ものクラスメイト達から誘いを受けていたが、どうしても気乗りせず丁重に断り続けている内に誰も声を掛けてこなくなった。


『ルーフィナ様のチキンサンド美味しそうですね』

『宜しければベアトリス様も召し上がりますか?』

『え! いいんですか⁉︎』

『ベアトリス、意地汚いよ。ルーフィナの分がなくなるじゃん……』

『リュカ様、私は別に大丈夫ですから』

『それなら僕のを分けてあげるよ』


 ふと何時かの記憶が蘇る。

 何時も庭で採れた野菜がメインのお弁当を持ってきていたベアトリスには良くお弁当の中身を分けてあげていた。その度にリュカは呆れていたが、そういう彼もベアトリスによく分けていた。

 そしてルーフィナがベアトリスに分けると必ずテオフィルがルーフィナに自分の分のお弁当を分けてくれる。


(懐かしい……)


 思い出すと切なくなる。

 まだ然程前の事ではないのに酷く懐かしい。あの頃はまさかこんな未来が来るなんて想像すらしていなかった。


「あ‼︎」


 暫し物思いに更けていた時だった。手にしていたお弁当を滑らせ地面に落としてしまった。


「え……」


 慌てて拾おうとするが、それはルーフィナが掴む前に宙に浮いた。いや正確には誰かが拾い上げた。


「あの、ローラント様⁉︎」


 拾ってくれたのはまさかのローラントで、彼は無言のままルーフィナの隣に腰を下ろす。するとお弁当の中からサンドウィッチを掴み付着した砂を軽く落とすと齧り付いた。

 訳が分からず呆気に取られる。


「ほら、交換してやる」

「え……」


 そう言って少し雑に手渡されたのは彼のお弁当だった。



「ご馳走様でした。それと、すみませんでした……」

 

 結局、彼のお弁当と交換して貰う形となり有り難く頂戴した。

 王子相手に落ちた物を食べさせてしまった……。


(後から何か言われたらどうしよう……)


「別に、死にやしない」

「まあそうかも知れませんが……」


 ぶっきら棒に吐き捨てる彼に苦笑する他ない。極論過ぎる。


「そう言えばローラント様はどうしてこちらに?」


 雨の日以外は毎日ここで昼食を摂っているがこれまで誰かと遭遇した事はない。

 まあ普通は、校舎裏などに用がある人間の方が珍しいだろう。


「……」

「?」


 ローラントは暫し黙り込んでから気不味そうに口を開いた。


「教科書の礼を言いに来たんだ」


 意外な言葉にルーフィナは目を丸くする。


「実は今日、持って来るのを忘れたんだ……。その、助かった、礼を言う」


 あの後、教科書を無言で突き返されたので、もしかして迷惑だったのかもと心配していたがどうやら違った様で安堵した。


「いいえ、気にしないで下さい。困った時はお互い様です。なので今度もし私が忘れてしまった時には見せて貰っても良いですか?」

「あぁ、構わない……」


 彼はぶっきら棒にそう言うと顔を背けた。

 同じクラスになってからまだ一ヶ月は経っていないが、その間彼とは一言も話していない。

 一匹狼で、寡黙で無表情。何を考えているのかまるで分からず、以前から近付き難い雰囲気だった。彼の兄二人は良くも悪くも感情が豊かなタイプなので真逆だと言える。

 でもこうやって話してみると悪い人じゃないと思う。


「そう言えば、エリアス様はお元気でいらっしゃいますか?」


 何となく訊ねてみた。

 すっかり忘れていたが舞踏会の後、何度門前払いしてもしつこく屋敷を訪ねて来ていたのに何時の間にか来なくなった。

 一時期例の婚約者と婚約解消するのではないかと噂されていたが、解消したとは聞いていないので和解したのかも知れない。


「あぁ多分。だが随分と大変そうだがな」


(多分とは……)


「あの、何かあったんですか?」

「実はーー」


 ローラントから告げられた内容にルーフィナは苦笑した。


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