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【書籍】web版*旦那様は他人より他人です 〜結婚して八年間放置されていた妻ですが、この度旦那様と恋、始めました〜  作者: 秘翠 ミツキ


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二十五話



「ルーフィナ様、此方の上着は如何なさいますか?」

「休み明けに持って行くからクローゼットに仕舞っておいて」


 今日学院に登校した際にテオフィルに昨日のお礼を伝えると、気を使ってくれた彼からは上着は急がなくていいと言われたが、やはり人様からの借りた物なので早めに返すべきだろう。


 ルーフィナは帰宅早々机の引き出しから先日返却された答案用紙を取り出し鞄に入れる。そのタイミングでマリーが部屋へと入って来た。


「ルーフィナ様、此方で宜しいでしょうか」

「えぇ、ありがとう」


 手にしている小さな籠をルーフィナへと見せ確認をすると、中には赤く艶やかなリンゴが数個入れられていた。実に美味しそうだ。後は行きに花屋に寄れば十分だろう。


ワフ! 


「ショコラごめんね、今から侯爵様のお見舞いに行かなくちゃいけないから遊んであげられないの」


 ルーフィナがそう言うと、ショコラは不思議そうに首を傾げる。だがいきなりドスドスと走り出し部屋の隅に置かれているショコラの玩具箱に頭を突っ込んで何やら漁り出す。そして暫くして戻って来た。

 

ワフっ‼︎


 口に咥えているのはぐったりとしている犬のぬいぐるみだ。


「もしかして、侯爵様にあげたいの?」


ワフ‼︎


「ショコラ……」


 ぐったりした犬のぬいぐるみを受け取ると、ショコラは胸を張り嬉しそうに鳴いた。ルーフィナはウルっとして抱き付いた。何時もあんなにクラウスに意地悪しているのに心配しているなんて……。


「きっと侯爵様、驚くわ」


 昨夜ジョスが帰った後、ジルベールに何があったのかを訊ねた。すると困った様な笑みを浮かべながら事の経緯を話してくれた。

 まさか自分が断ってしまった所為でそんな事になっているとは思わなかった……。ルーフィナはジルベールにジョスではなく断った自分に非があると伝えたが首を横に振るだけだった。そんな会話の中で、クラウスが迎えに来なかった理由も知った。本当は急用などではなく、過労で倒れたそうだ。だがルーフィナが気に病むと思い伝えなかったみたいだ。


『ジルベール、侯爵様のお見舞いに行く事は出来る?』


 自分の所為で体調を崩したのだからやはり責任を感じてしまう。何もする事は出来ないが、せめてお見舞いくらいは行くべきだろう。


『明日、ルーフィナ様が学院に行かれている間に本邸に使いをやっておきます』


 そうしてルーフィナは初めてクラウスの暮らす本邸へと行く事になった。




 本邸に到着すると、ジョスが出迎えてくれた。昨日の事を謝罪されたのでルーフィナも彼に謝罪した。自分の軽率な言動の結果、彼が叱られてしまう羽目になったのだから当然だ。

 本邸はルーフィナの暮らす別邸よりも広く調度品など含め屋敷全体が洗練されている。だが何となく淋しい印象を受けた。


 クラウスの部屋に案内され、ベッドに伏せていた彼に早速ショコラからお見舞いの品を手渡すと予想通り驚いてくれた。目を見開き口元が引き攣っている様にも見えるが……彼も感動してくれたのだうか。


「侯爵様のお見舞いに行くって言ったらこれを渡して欲しいみたいで……ショコラも侯爵様が心配みたいです」

「あー……うん、ありがとう。毛玉……じゃなくてショコラにもお礼を言っておいて……」


 ぐったりした犬のぬいぐるみを受け取ったクラウスは目線の高さまで上げるとまじまじとそれを眺め「もしかしてこれ……僕じゃないよね」と良く分からない事を呟いていた。


「後、此方はリンゴとお花です」

「すまない、気を使わせてしまって……」


 花は屋敷に来る途中で花屋に立ち寄り、オレンジ色のガーベラを購入した。一輪だけでもかなり存在感を感じる。それを花束にして貰った。


「いえ、お忙しいのに私の勉強を見て頂いた所為なので当然の事です」


 ジルベールから聞いていた以上に顔色が悪い。それにしおらしく見えた。何時もなら嫌味の一つでも言ってきそうなものなのに。


「そう言えば、試験の結果は?」


 クラウスのその言葉にルーフィナは待ってましたとばかりに鞄から答案用紙を取り出した。そして意気揚々と彼に手渡す。


「へぇ、中々の高得点だね。でも及第点にはまだまだかな」

「‼︎」


 手放しで褒めて貰えるとは思ってはいなかったが、結構自信があっただけにルーフィナはショックを受ける。


「勉強は日々の積み重ねだから、少し成績が良くなったからって調子に乗っちゃダメだよ」

「はい……」

「まあ、でも……頑張ったと思うよ。何か、ご褒美あげようか」

「え……」


 一瞬耳を疑った。まさか彼がそんな事を言うなんて……。でもご褒美とは一体……?


「何でもいいよ。宝石でもドレスでも、好きな物を用意する」

「……」

「今直ぐじゃなくていいから、考えておいて」


 過労で心身共に弱っているからだろうか……クラウスの笑顔は何時もと違い優しい。外面用の貼り付けた笑みでも、たまにルーフィナに見せるぎこちない笑みでもなかった。


(やっぱり、大分お疲れなのね……)


 ルーフィナはしみじみそう思った。






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