二十二話
放課後、ルーフィナは一人で校舎を出た。まだ空は曇っているが、雨は上がっている。
今日は昼休みに揉めてしまったベアトリスやリュカの姿はなかった。二人ともホームルームが終わるや否や早々に帰って行った。テオフィルも図書室に寄ると言い先に教室から出て行ってしまった。そんな中、ルーフィナは一人沈んだ気持ちのまま正門へと向かうが彼はいなかった。
暫く待っているがやはりクラウスは現れない。生徒達もまばらになり、ルーフィナは途方に暮れる。
最近は彼が迎えに来てくれるのが当たり前になっていたが、よくよく考えれば約束をしていた訳ではない。こんな日もあるのかも……そう思った時、ようやくヴァノ家の馬車がやって来た。だが扉が開いて現れたのは彼ではなく執事だった。
「ルーフィナ?」
「テオフィル様……」
また小雨だが降ってきてしまい、少しずつ身体を濡らしていく。
ルーフィナが正門の前で途方にくれているとテオフィルから声を掛けられた。
「こんな所でどうしたんだい?」
「あの、その……」
実は先程クラウスの執事であるジョスから彼は急用が入ったから迎えには来れないと言われた。しかも暫くは難しいとも。
その後にジョスからお送り致しますと申し出があったが大丈夫だと断った。本来ならば幼い子供ではないのだから態々誰かに送って貰う必要はないのだ。久々に一人で帰ろうと考えたが、ジョスがいなくなってから大事な事に気付いてしまった……。最近は必ずクラウスが迎えに来てくれていたので、ルーフィナの屋敷からは迎えは来なくなっていた。彼が送ってくれるので無駄な労力となってしまうからだ。
その事に気付いた時には後の祭りだった、帰れないと途方に暮れてしまった。
「そうだったのか。良かったよ、僕がまだ残っていて」
「え……」
「勿論、送らさせて貰うよ」
テオフィルに事の経緯を説明すると送って貰える事になった。本当に良い方だとしみじみ思う。
「結構な時間此処にいたんだね。濡れてしまっている。ごめんね、僕がもっと早く切り上げて来ていればこんな事には……」
「いえ、テオフィル様に責任なんてありません。自業自得なので」
「風邪を引いてしまうよ」
眉根を寄せ申し訳なさそうにするテオフィルは、自ら上着を脱ぐとルーフィナの肩に掛けてくれた。
「本当に、ありがとうございました。テオフィル様に送って頂けなかったら歩いて帰らなくてはいけませんでした」
「いや、役に立ってたみたいで良かったよ。それより歩いて帰るなんて危険だから、そんな事考えてはダメだよ。もし仮に次に同じ様な事があって、僕やリュカ達がいなかったら先生に助けを求める事。きっと力になってくれる筈だから」
「はい……」
本当に何時も彼にはお世話になりっぱなしで頭が上がらない。ルーフィナは反省する。
雑談をしている内にあっという間に馬車はルーフィナの屋敷へと到着をした。彼は先に馬車から降りると、ルーフィナへと手を差し出し降りるのを手伝ってくれる。
「あのテオフィル様。お礼になるかは分かりませんが、宜しければご一緒にお茶は如何ですか」
「……いいのかい?」
「はい、テオフィル様のお時間が大丈夫でしたら」
「あ、いや……やはりやめておくよ。ありがとう、気持ちだけ受け取っておくね」
それだけ言うと彼は馬車に乗り込んだ。その様子を見てルーフィナはハッとして慌てて声を掛ける。
「テオフィル様! 上着はどうしたら良いですか?」
洗濯して返すのが常識だろうが、明日も学院があるので困るかも知れない。
「予備は何着もあるから心配はいらないよ」
「では洗濯してお返ししますね」
「うん、でも急がなくていいから……。何なら暫く預かってくれると嬉しいかな」
「?」
「じゃあ、また明日」
その日の夜、クラウスの執事であるジョスが血相を変えて屋敷を訪ねて来た。ジルベールと話していたが内容までは分からない。ただ珍しくジルベールが怒っていたのだけは分かった。




