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【書籍】web版*旦那様は他人より他人です 〜結婚して八年間放置されていた妻ですが、この度旦那様と恋、始めました〜  作者: 秘翠 ミツキ


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十六話


「それでこれくらいの緑色の球体をカップに入れてお湯を注ぐと、パッと花が咲いたんです。凄く綺麗で感動しました」

「そんなお茶があるんですね! 羨ましいです、私も欲しいです〜」


 ルーフィナは昼休みに先日のお茶会で出されたお茶の話をするとベアトリスの目が一際輝いた。珍しい……彼女がお金以外の話にこんなに食い付くなんて。ただ飲みたいではなく欲しいと言った事は気にはなるが些細な事だ。


「へぇ、ベアトリスもお茶に興味あるんだ。何時もお茶なんて飲めれば何でもいいって言ってるのに」


 リュカも意外だったのか眉を上げベアトリスを見ている。


「だってそんなに珍しいお茶でしたら絶対に売ったら大金になるじゃないですか!」

「あー成る程ね」


 やっぱりベアトリスはベアトリスだった。ルーフィナもリュカも笑ってしまう。


「それで、お茶会は楽しかったのかい」

「はい、一応は……」

「一応?」


 テオフィルからの問いに思わず言葉に詰まってしまった。

 クラウスからお茶会に誘われた当初は全然乗る気ではなかったが、行ってみると主催者のコレットはとても優しく、クラウスの友人達も思っていたより気さくな人達だった。更にカトリーヌの息子のレオンは本当に可愛くて癒されたし、出されたお茶も初めて見るもので貴重な体験が出来たと思う。ただ、お茶会の終盤……コレット自慢の花壇を見せてくれると言われてルーフィナは席を立ちレオンと一緒に花壇へと向かった。そこで彼女から花の説明をして貰いつつ談笑をしていたのだが、何やらクラウス達が騒がしい事に気が付いた。振り返ってみれば何時の間にかカトリーヌがルーフィナの席に座っており更に椅子をズラしてクラウスの真横にくっ付けていた。仕舞いには彼女はクラウスに甘える様にして身体を寄せている。これはもしかして……。


「恋人⁉︎」


 話すべきか悩んだが、事の経緯を説明をするとベアトリスが叫んだ。そんなに驚かなくてもとルーフィナは苦笑する。

 

「ベアトリス、この場合恋人じゃなくて愛人って言うんだよ」


 冷静にリュカが突っ込むと微妙な空気が流れた。やはり言うべきでは無かったかも知れない。

 

「すみません、今のは聞かなかった事に……」

「ルーフィナ」


 慌ててその場を繕おうとすると、テオフィルに制止させられた。彼を見ると深刻な面持ちで少し怒っている様にも見える。


「我慢する必要なんてない。君は侯爵殿と一緒にいても幸せにはなれないよ」

「テオフィル様、それは……」

「僕は離縁を考えた方がいいと思う」

「……」


 テオフィルの歯に衣着せぬ物言いに一瞬その場は静まり返るが、タイミングよく予鈴が鳴り話は此処で終わった。



「ヴァノ侯爵殿」


 その日の放課後、ルーフィナは例の如く迎えに来たクラウスと共に帰宅しようとするが不意にテオフィルがクラウスを呼び止めた。その瞬間、昼休みの事を思い出したルーフィナは何となく不穏さを感じる。


「……何かな」


 振り返った彼は貼り付けた様な完璧な笑みを浮かべている。相変わらず外面がいい……。


「こうも毎日()()()に迎えに来るのも大変かと思いますので、もしルーフィナ嬢が心配ならば僕が代わりに屋敷まで送り届けます」


 まさかの提案にルーフィナは目を丸くする。隣にいるクラウスの顔が一瞬真顔になるのが分かったが、直ぐ笑顔に戻った。


「ルーフィナは本当にいい友人を持ったね。でも気遣いは不要だよ。始めはついでだったけど、今はやはり妻が心配でね。()()には任せたくないんだ」

「そう仰りながら、ご一緒には住まれていませんよね。何か特別な理由でもお有りなんですか?」


 どんどん雲行きが怪しくなってくる。ある意味二人の世界に入っているみたいだが、此処は一応学院の正門前でさっきから結構な注目を浴びている。クラウスもテオフィルも一体何が気に食わないのかはルーフィナには分からないが、正直恥ずかしいので早く帰りたいのが本音だ……。


「他人の君には全く関係のない話だよ。それにしても友人の家の事情にまで口を出すなんて、モンタニエ公爵の教育は随分と人情に溢れた素晴らしいものなんだね」

「っーー」


 テオフィルの顔からは笑みは消え、怒気を孕んだものに変わる。クラウスもまた笑みは崩さないものの鋭い視線をテオフィルに向けおり、互いに睨み合っていた。


「あのお二方、お取り込み中の所申し訳ないんですけど、ルーフィナが困ってて可哀想なんでそろそろ終わりにして貰って良いですか?」


 呆れ顔のリュカの言葉に、クラウスとテオフィルは我に返った様子で一斉に此方を見る。そして「すまない……」と二人同時に口にした。息がピッタリの二人を見て、意外と気が合うのでは? と思う今日この頃だった。

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