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誰にも懐かない飛び級天才幼女が、俺にだけ甘えてくる理由  作者: 八神鏡@幼女書籍化&『霜月さんはモブが好き』5巻


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第九十七話 こはるちゃん6さいっ

 晴山心陽。6歳。小学一年生。

 黒髪ツインテールの女児が今、目の前で満面の笑みを浮かべていた。


「よーちゃん、きたよー!」


「う、うん。いらっしゃい」


 姉の車でやってきた心陽ちゃんは、両手にそれぞれ袋を抱えて玄関から入ってきた。片方にはお菓子が入っていて、片方にはジュースが何本か入っている。姉さんからのお土産だろう。


「持つよ。ほら」


 とりあえず重そうだったので荷物を持とうと手を伸ばす。

 心陽ちゃんはそれを見て何やらうむうむと頷いていた。


「れでぃーふぁいとなのはいいことだねっ」


「レディーファイト……?」


 今から何と戦うんだろうか。


「女の子が一番ってこと!」


 ああ、レディーファーストのことか。確かに言葉の音としては似てるかもしれない。

 それにしても……こうして心陽ちゃんを見ていたら、改めてひめの異常性が分かる。あの子と心陽ちゃんは二つしか年が離れていないのに、語彙力は雲泥の差だ。


 もちろん、心陽ちゃんの方が一般的なのでひめが特殊すぎるだけである。


「おじゃましまーす!」


 今日も心陽ちゃんは元気いっぱいだ。サンダルを脱ぎ捨てて室内に飛び込んでくる。

 真っ先に向かったのは俺の部屋だった。リビングに案内したかったけど、もう遊ぶ気満々なのだろう。二階の部屋に飛び込んだ心陽ちゃんは、そのままゲーム機のコントローラーを手に取った。


「よーちゃん、ゲームしたいっ」


「はいはい。ちょっと待ってね、ケーブル差すから」


 心陽ちゃんとはいつもゲームをして遊んでいる。もちろん姉の家にもゲーム機はあるのだが、家だと監視が厳しくてあまりやり込めないらしい。しかしこの家だと誰も注意する人がいないので、自由にできるというわけだ。


「よし、準備できたよ。何のゲームがやりたい?」


「えっとね、うーんと……カートがいい!」


「分かった」


 最近は専らFPSにハマっているので、コンシューマーゲームはあまりやらなくなった。心陽ちゃんが来ている時くらいしかプレイしないので、久しぶりにソフトをゲーム機にセットした気がする。


「姉さんはもう仕事に行ったの?」


「うんっ。今日もぷんぷんしながらお仕事行ったよ? 夕方には終わるって言ってた~」


「夕方か……」


 さて、心陽ちゃんがいるのはもう仕方ない。ここで子守りするのは姉の中で決定事項だったらしいし、断ることなんてそもそも許されていなかったと思う。


 夕方まで仕事が終わらないということは、絶対にひめと心陽ちゃんが鉢合わせになるということだ。


 どうしたものか。ひめの遊びを断った方がいいかな……でも、あんなに楽しみにしてたし、それは忍びない。

 せっかく両親がいないタイミングでもある。明日は二人とも家にいると思うので、ひめが来ると口うるさそうだし、とやかく言われるのがめんどくさかった。


 もちろん、両親はひめのことを孫娘みたいにかわいがると思うけど、俺が色々とめんどくさいのでそれは避けたい。


 でも……うーん。心陽ちゃんがひめと会って、どういう反応をするのか分からないんだよなぁ。


「よーちゃん、こっち! いっしょにゲームやろっ?」


「……えっと、少しお片付けしようかなって思ってたんだけど」


「えー、やだっ。よーちゃんもいっしょがいい!」


 心陽ちゃんは不満そうに唇を尖らしている。

 それから彼女は、いつも口にしているあの言葉を呟いた。


「こはるはよーちゃんのおよめさんになるんだから、ちゃんと愛してっ」


 ……そうなんだよなぁ。

 心陽ちゃん、結構愛が重い。独占欲も強いし、かまってちゃんだし、寂しがり屋でもある。このあたり、姉によく似ていた。


 もちろん、幼い子供にありがちなセリフなので本気にはしていない。

 しかし、この心陽ちゃんとひめを会わせることに抵抗があった。


 喧嘩したりしないだろうか……と、不安だった――。


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