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誰にも懐かない飛び級天才幼女が、俺にだけ甘えてくる理由  作者: 八神鏡@幼女書籍化&『霜月さんはモブが好き』5巻


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第六十四話 見た目が子供なだけで年上のお姉さん

 そういえばここは、校門の前。

 下校時刻も迫っているので生徒の数は少ないものの、決して誰もいないというわけじゃない。通りがかる生徒たちの視線もちゃんと感じていた。


 それも無理はない。

 だって今、俺の前の前にはメイド服を着た子供がいる。


 もちろん実際は違う。メイド服を着た子供に見える大人なのだが、メイド服という時点で周囲の興味を引き付けるには十分だ。


「ねぇねぇ、あのメイドさん可愛くない?」


「てか子供じゃん! ちっちゃくてかわい~」


「星宮さんたちといるし、本当にメイドさんなんじゃない?」


「それやばすぎっ。あたしも子供にお世話されたい……!」


 た、たぶん運動部の女子かな?

 少し離れた場所で、立ち止まってこちらを見ているグループがいる。声を抑えているつもりだと思うのだが、ボリュームが大きいのでハッキリと内容が聞こえてきた。


「目立ってるかしら」


 本人も自覚はあるらしい。

 ただ、困っているのか怒っているのか表情が分からない。無表情のままだ。


 ひめも表情の変化は乏しいのだが、あの子は意外と分かりやすかったりする。素直な子なので言葉や仕草の節々に感情がにじみ出るのだ。そういうところが愛らしい――というひめの話はさておき。


 しかし、芽衣さんは真逆だ。

 恐らくこの無表情は、本人が意図的に張り付けている仮面なのだと思う。おかげで感情の機微が一切見えないので、何を考えているのかも分からない。


(俺って、どう思われてるんだろう……?)


 気になる。星宮姉妹と仲良くしているというのは把握しているだろう。前にひめが、家でもよく俺の話をしていると言っていたので、恐らくそうだ。


 できれば嫌われたくない。

 せっかく、ひめと聖さんと打ち解けてきたのである。二人と近い関係のある人には、快く思っていてほしいという願望がある。


 でも、表情が読めないので何を言ったらいいのか分からず、結局は曖昧に頷くことしかできなかった。


「めいちゃん、今日は珍しいね~。メイド服が目立つからって、普段は車に引きこもってるのに」


「そもそも、お迎えの時間も早いですね。何かあったのですか?」


 緊張している俺とは真逆で、星宮姉妹はいつも通りである。親しげな態度を見て、芽衣さんが二人にとって信頼できる人なのだということも感じ取れた。


「何もないわ。ただ、ひめお嬢様がいっつも彼の話をするから、気になって挨拶しにきたのよ。初対面なんだから、車から降りて挨拶するのは当然のことだわ」


「それは、わざわざありがとうございます」


「気にしないで。私のわがままで来ただけなの。あなたが感謝する必要はないわ」


 ……や、やっぱりちょっと冷たいような。

 無表情だけど、今のところ好意的に思われていないことはハッキリと分かった。


「うふふ。めいちゃん、よーへーをあんまり怖がらせないでよ~」


「怖がらせてないけれど?」


「めいちゃんは圧があるんだよ? もっと笑ったらどうかなぁ?」


「聖お嬢様ほど能天気に生きていられたら、もう少し笑えていたかしら」


「え。ひどーい! よーへー聞いた? めいちゃんったらいっつもこうやって私をいじめるんだよっ」


「いじめてないわ。初対面なんだから勘違いさせるのはやめてちょうだい」


 見た目は子供なんだけどなぁ。

 言動は、明らかに年上のお姉さんである。話し方も余裕があるというか、大人の落ち着いた女性なので、見た目とのギャップで脳が混乱しそうだった。


 ひめは内面に子供っぽさがあるのですぐに慣れたけど、芽衣さんに慣れるのは時間がかかる気がする。


「陽平くん、芽衣さんは素敵なメイドさんなので大丈夫です。ただ、ちょっとだけわたし以外に厳しいだけです」


「ひめお嬢様、補足してありがと。あなたはとてもいい子ね」


「……ひめちゃんにだけは優しいのずるいっ。私にも甘くして!」


「聖お嬢様は優しくするとつけあがるから、厳しくするわよ。褒めて伸びない子を褒めるわけないじゃない」


 ……とりあえず、嫌われているわけではないのかな?

 ひめ以外に厳しいのなら、俺に対する態度も普通なのだろうか。


 それならいいんだけど……やっぱり、冷たい気がしてならなかった――。

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