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誰にも懐かない飛び級天才幼女が、俺にだけ甘えてくる理由  作者: 八神鏡@幼女書籍化&『霜月さんはモブが好き』5巻


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第四十一話 チョコレートパイの実

 お昼ごはんを食べ終えたくらいで、俺はコンビニ袋からとある商品を取り出した。


「……あ!」


 それを見て、ひめは目をキラキラと輝かせた。

 ソファですぐ隣に座っていた彼女は、興味津々な表情で俺の手元を見つめている。


「陽平くん、今日もタケノコの――って、あれ? ちょっと違いますねっ」


「うん。これも美味しいから、ひめと聖さんに食べてほしくて」


 取り出したのは、弁当と一緒にコンビニで購入したお菓子である。

 昨日、おとといはキノコとタケノコのお菓子を持ってきたのだが、毎日同じものだと飽きるかなと思って別のお菓子を用意したのである。


「これは……チョコレートパイの実、と書かれてますね」


「え? それっておかしいよ? パイに実ってできないよね~?」


 そう。持ってきたのは、お口の恋人としておなじみのチョコレートパイのお菓子である。

 キノコタケノコに並ぶ人気のお菓子。俺も定期的に食べたくなるので、よく購入している。


 一口のサイズ感がゲームの合間に食べるのにちょうどいいんだよなぁ。


「お姉ちゃん。落ち着いてください、これは商品です。実物する果実ではありません」


「や、やっぱりそうだよね! ふぅ、私の知らないうちに技術がすごく進化してるのかと思って焦っちゃったよ~」


「でも、チョコレートパイの生る木ですか……! すごく素敵ですっ。現実的ではありませんが、おとぎ話のお菓子の家に近いものを感じますっ」


 ひめと同じく、聖さんもかなり気になっているのだろう。

 さっきまで対面のソファでゆったり座っていたのに、いつの間にかこちら側に移動していた。ひめを挟んでもすぐそこに聖さんがいるので、ちょっとドキドキしそうになる。


 俺にとっては高嶺の花というか、女性的すぎて距離が近すぎると緊張してしまうのだ。

 それをなるべく考えないように、もはや俺にもたれかかっているひめの高い体温に意識を集中させて、感情を抑えた。


 ふぅ……やっぱりひめの感触は癒されるなぁ。よし、落ち着いた!


「……どうぞ、良かったら食べてみて」


 そう言って、手のひらより少し大きいくらいのサイズの箱から個包装されたチョコレートパイの実を二つ取り出して、差し出した。


「ありがと~。わぁ、どんな味がするのかなぁ?」


 聖さんは丁寧にそれを受け取ってくれたのだが……ひめの方は、手を伸ばそうともしなかった。

 もちろん、受け取らないのは不要だからという意味ではないようで。


「陽平くん、今日もありがとうございます♪ あーんっ」


 感謝の言葉を伝えた後、彼女は大きく口を開けて上を向いた。

 まるで、親鳥から餌をもらうときの雛みたいに。


(もしかして……お菓子は俺から食べさせてもらうものってことになってる?)


 キノコとタケノコの時もそうだった。

 だいたい俺の手から食べていたので……今回も当然のようにそうなることが決まっているらしい。


 なんというか……ちょっと、後ろめたさを感じると言うか、気が引けるというか。

 何も知らない子供に好き勝手しているみたいで、少し抵抗を覚えている。


「あーっ」


 でも、ひめは素直に待ち続けていた。

 まだ生え変わっていない乳歯や、少しとがっている犬歯が露わになっている。虫歯一本のないちっちゃい歯と、短くてピンク色は、ずっと見ていたらすごく罪悪感がこみあげてきた。


 幼女の口内を観察するなんて、それこそロリコンと思われてもおかしくない気がする。


(……まぁいいや)


 とりあえず、ひめが望んでいることなのだ。

 変なことを意識しすぎて、彼女の期待を裏切るくらいなら何も考えない方がいい。


 そう思って、チョコレートパイの実を包装紙から取り出して、その口の中にそっと入れてあげた。


「ぱくっ。もぐもぐ……えへへ~♪」


 そうすると、すぐにひめはほっぺたを緩めて笑った。

 口に合ったようで、幸せそうな表情を浮かべている。


 この笑顔を見られたのだ。罪悪感なんてどうでも良いか。

 たとえ、誰かにロリコンと思われても……ひめが笑ってくれているのなら、それが一番なのかもしれない――。


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